京也②
俺はハイエースの中に持ち込んだパソコンで、定点カメラの画像を眺めていた。パソコンに映る相楽さんはただ寝ているだけで、今のところは何の異常もない。本当にこんなストーカーじみた真似が必要かはわからないが、他に情報を得る術もない。後は修道院で拾った箱根細工のような箱。ポケットから出して眺めてみる。金属のような光沢、質量。自然にできたものではないと分かる幾つかの直線的なフォルムのパーツが組み合わさってできている綺麗な立方体。加熱したり磁石を近づけてみたりの簡素な物質検査はしてみたけれど材質はよくわからない。グラインダーや電動ドリルでも壊れないし車で轢いても無傷だ。正直、手がかりになるようなものなのかもわからない。でもあの場所にあったのだから無関係とも言い切れない。
俺はスマホを手に取った。
「もしもし?美咲先輩、お久しぶりです。ちょっと調べていただきたいものがあって…。」
俺の下で相楽さんが火照った顔をして息を荒げている。
「っん…」
俺が腰を揺らすと小さく声を上げ、苦しそうにも気持ちよさそうにも見える表情になる。いつもは見上げている顔を見下ろすと愛おしさが込み上げる。
「相楽さん…」
俺は両手で相楽さんの顔を包み、薄い唇を吸い上げる。
「あぁ…ぅん…」
快楽に喘ぎ開いた口の中に舌をねじ込んで、丁寧に口の中を愛撫する。俺の下で時々相楽さんの体が震え、相楽さんの中がぐっと締まるのを感じた。
…ところで目が覚めた。ちんこがかっちかちに勃起している。
「何だ…この夢。嘘だろ?俺…。」
相楽さんが脅威からセクハラされたなんて話を聞いたからかもしれない。語彙力が滅しているおっさんの表現だからセクハラなんて言われたが、脅威は何のためにそんなことをしたんだろう?下半身が治るのを待って俺は出かける準備をし、自分の通っていた大学の研究室にいる先輩の元を訪ねた。
「話はわかったけど…そんな話、信用されると思ってんの?」
先輩、美咲先輩は言った。美咲先輩は、同じサークルだった二歳年上の先輩で、卒業後も大学でオカルトを科学的に立証する研究を続けていた。
「だからこの箱を調べて欲しいんですよ。多分信用させるだけの結果は出ると思うので。」
その夜も俺は夢の中で相楽さんを抱いていた。
「んあ…ぁ…はぁ…」
強面の大男である相楽さんが、俺の下で快楽に喘ぎ、身を震わせる様は可愛らしく愛おしかった。もっと喘がせたい、そんな気持ちが沸き上がり腰を強く前に動かす。
「あっ…あああっ…」
相楽さんが大きな快感の波に揺さぶられ、体が跳ね上がる。
目が覚めると勃起どころか夢精していて、激しく自己嫌悪に襲われた。
「はぁ…でもそんなバカな…。」
相楽さんに対する自分の感情は確かに重い。だが、それはあくまでも尊敬や憧れの延長線上にあるもので、近いものといえば…多分崇拝。信仰。少なくとも恋愛感情ではないはずだ。それなのに一体何でこんなことになっているのか?
「はぁ…。」
下着を変えなくては。思春期かよとうんざりしながら起き上がり、着替えていると床に何かが落ちた。箱だ。拾い上げ、無造作にパーカーのポケットに突っ込んだ。着替え終わり、買い置きのカップラーメンを作りパソコンの画面を眺める。相楽さんは昨日と変わらず寝ている。本当にこの人は暴力以外何もないんだなとつくづく思っていると、不意に相楽さんが光に包まれた。
「お…。」
目も眩まんばかりの強い白い光に包まれた後、相楽さんの姿はなく、カメラにはじめっとしたペラペラの布団だけが映っていた。相楽さんの変身する瞬間を撮影できたってことだ。
「す…すげえ。」
さっそく見直してみる。強い白い光が一度大きく広がり人型に収束し消える。何度も何度も見てみる。
「んー?」
広がった光と人型に収束するまでの間に変身は起こっているのだろうと思い、その部分を拡大してスローで見てみた。
「これ、相楽さん自体が変質してるんですね。」
「何だよ?それ。気持ち悪い。」
痛みも感じない、怪我もしないという事は、皮膚や筋肉が強化された何かに変わるんだろうか。それなら折れた肋骨の痛みがそのままある事は納得できる。
「映像が悪いんじゃないの?」
「いや、映像編集ソフトでノイズは出なくしてるんでそうじゃないと思います。」
相楽さんは、えっ…って顔をしてる。映像編集ソフトとか言ってもわからなそうだもんな。
「俺は一旦溶けて別の形で固まってんのか?」
「そう言う感じですかねえ。」
もっと解像度を上げて調べたら、どういうプロセスかわかりそうだ。




