京也①
物心ついた時から誰かに会わなくちゃいけないような気持ちがずっとどこかにあった。
気が重かった。
今日から俺の上になるのは相楽寿志だ。
暴君。冷血漢。人非人。外道。鬼畜。鬼。悪魔。人でなし。ありとあらゆる人が、ありとあらゆる人にあらずとの形容を用いる暴力マシーン。街を一つ破壊してるって噂もある。
もうダメだ。就活失敗して自棄起こしてヤクザなんかになったけど、元々やんちゃなわけでもないし、喧嘩なんてネットでレスバくらいしかしたことのないし、そんな陰キャで気弱な俺のことは組だって持て余してる。挙げ句、人間捨ててる暴力マシーンに押し付けた。
もう明日辞めよう。辞められないなら死ぬか逃げるかしよう。
そんなことを考えていたはずなのに、俺は今まさにその暴力マシーンとしての真価を発揮している相楽寿志をみて心を奪われている。
殺す相手の心など一つも気に留めず斧を振り下ろす姿に、合理性だけで目玉を指で押しつぶす冷徹さに、生きてるうちになるべく苦痛を与えて欠損させて恐怖の中で死なせていこうという積極的な残虐さに。
ただ肉体を殺すのではなく、完膚なきまでにその人の全てを殺す。
暴力と殺害だけで己をこの世に維持してきた男の生き方を見て、俺は美しいとまで思ってしまった。
物心ついた時から誰かに会わなくちゃいけないような気持ちがずっとどこかにあった。それはこの人だったんだと直感だけで確信した。
それからは、約束は守れない、何でもすぐに忘れる、デリカシーはない、わがまま、暴力以外は人間として成立できていないような相楽寿志の人間として成立できていない部分をフォローしてきた。
何かあったらすぐに飛んでいけるように家も近くに引っ越した。モーニングコール、送り迎え、スマホの契約、食事の管理、仕事のマネジメント。舎弟というより秘書兼お母さんだ。
バカの面倒を見るバカみたいな立場。
でもそれでいい。あの人が暴力を奮い、人を殺すあの美しい姿を見られるなら。
「ねえ?何で嬉しそうなのよ?」
うんざりしたような冷たい目で俺を見ながら相楽さんが言った。
「え?だってすごいじゃないですか!尊敬している兄貴分が変身して怪物を倒してるなんて!俺、感動してるんす!」
子どもの時から気が弱くて怖がりだった。父親と釣りに行った時、釣り上げられ、抗う魚が怖くてなかなか上手く針を取ることができなかった。
「早く針を取ってやれよ。いつまでも死ねない方が魚は苦しむんだぞ。」
父の何気ない一言が俺を責めた。俺の気弱さが魚を苦しめている…涙が溢れ出した。
「おい、泣くなって。しょうがねーなー。やってやるから。」
父は驚き半分、呆れ半分の様子だったが魚の針を取ってくれた。
「まあ…こんな思いしなくても魚食う事はできるからな。無理しなくても大丈夫だよ。」
少しでも父の期待に応えたくて、ユーチューブで魚の捌き方を見ていた時、おすすめに出てきたのが都市伝説検証チャンネルだった。
霊の出るトンネル、異世界に連れて行く電車、幾重にも呪いのかかった小さな箱…次々と現れる見たこともない不思議な世界に魅了された。そんな不思議な世界。思えば、相楽さんにこんなに惹かれているのも、人に人としての存在意義を位置付けるもの全てがなく、ただ暴力というワンイシューのエゴだけしか持たない、そのちょっと不思議なところかもしれない。
「お前、俺なんか尊敬してちゃ駄目だろう。馬鹿で暴力しか取り柄がないんだよ。」
「そんな事ないですよ。」
そんな事はあるけどそこが魅力だった。
「いやいやいや、罪もない女犯しながら腹かっさばいて、そこに手を突っ込んでちんこしごくような男だよ。俺は。俺の方こそ怪物だよ。そんなのが怪物倒してこの世界を守るなんてやっていいわけねえだろうが。」
相楽さんは俺のことを煙たそうにあしらった後、ハイエースのダッシュボードに突っ伏しながら言葉を続けた。
「お前大学出てんだろ?勉強ばっかりしてきたんだろ?頭いいんだろ?何か考えてくれよ。何とかしてくれよ。」
明日からちょっと休みがある。
自宅に着き、ハイエースから降りる相楽さんに声をかけた。
「明日っ…明日、休みだから相楽さんのお宅に伺います!」
「んん?…お、おう?」
不思議そうな顔をして相楽さんは車を降りた。
案の定、相楽さんは自分の言ったことも碌々覚えていなかった。
だからここでやめればよかったんだ。
修道院跡地で謎の生き物に襲われてハイエースの助手席で虫の息な相楽さんを見つめた。俺が調べようなんて言わなきゃこんなことにならなかった。
相楽さんは変身してもほぼ無傷で脅威を倒せる。でも相楽さんを殺そうとするやつがいて、そいつは相楽さんにダメージを与えられる。そのことをしっかり頭に入れて、もう一度やるべきことを考えた。相楽さんから目を離さないこと。それからとにかく情報を集めること。
「わかんねえ。戦ってる最中によ、世界の細胞が何たら、せんざい?能力がどうたらってガキどもがグダグダグダグダ話しやがるから、俺が怒鳴りつけちまったんだよ。そしたら思い込めって言ったっきり消えちまった。」
世界の細胞。潜在能力。ヒントはそれだけ…。
相楽さんを変身させた子ども達と言葉で情報共有できる立場の相楽さんは暴力以外は人として成立できない人だった。何も覚えないし考えることもしない。この人から手がかりを得るのは容易じゃなかった。
「世界の細胞…潜在能力…どういう事なんだろう。わからない事が多すぎますよね。まずはデータを集めることから始めないとだめだな。」




