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極悪人間ヒーローになる  作者: 溝野魅苑


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暴力マシーン

母親の目が赤い涙を流している。赤い、血の涙。それを最後に母親は動かなくなった。永遠に。



それが俺の、最後の母親の記憶。家族の記憶。家族の、と言うのは、母親を永遠に動かなくしたのは他ならぬ俺の父親だからで、父親はそのまま警察に引っ張られ獄中で自殺し、そうした理由から両親を失った俺は、両親を失った者や両親に見捨てられた者が住む施設に預けられた。

そんな複雑な生い立ちは関係なしに、どうやら俺は暴力が得意な星の下に生まれついたらしく、施設でも厄介者扱いされるほどに暴力的だった。年少の者であれば、それだけを理由に、年長の者でも気に入らなければ暴力で従わせ、俺は施設でも敵無しだった。

施設から逃げ出してからの俺は、その後は暴力の才能を生かし、空き巣、強盗やカツアゲなどして日々を凌ぎ、暴力的に人生を切り開いてきた。

そんな人間が20歳頃になったからと言って、いきなり日本経済の一端を担う企業戦士になれるわけもなく。あるのは暴力の才能のみ。行き着く先はお決まりだ。

ヤクザ。

暴力の才能のある俺は暴力的なこの職場なら何の苦もなくエリートだ。俺はバリバリの武闘派として暴力で邁進し、今では俺が切れたら町が一つ滅びる位の事を言われている。実際、「この町からヤクザは出て行け!」だの「当商店街は暴力団・ヤクザとの交流は一切お断りしています」だのウザいスローガンを掲げていた瀟洒な商店街を一つ潰した。

暴君。冷血漢。人非人。外道。鬼畜。鬼。悪魔。人でなし。それは皆、俺、相楽寿志を指して言う。ありとあらゆる人が、ありとあらゆる人にあらずとの形容を俺に用いるようになった。

暴力的な職場で存分に暴力の才能を生かし、エリート街道まっしぐらの俺は、ヤクザになって今に至る19年間で、次第に僅かばかりに持ち合わせていた考える力さえ失い、毎日毎日飯食って糞して暴力を振るう、本当に人あらざるもの、さしずめ暴力マシーンとでもいうのか、そんなものになってしまった。



そんな俺の前に突如として現れた大きな蜥蜴は、それはそれは暴力的な見た目で、暴力的な鳴き声をあげ、暴力的な足で人々を追い回し、暴力的な鉤爪のついた手で人々を傷つける、暴力的な怪力で車や町並みを破壊するなどの暴力を振るった。

町は、とんでもない修羅場となっていたのだが、俺はただプリンが食べたくて、そんな事には御構い無しでコンビニへの道を急いでいた。しかし、いつの間にか人々は逃げ、大蜥蜴の目に入るところで動くものは俺だけとなっていたらしく、大蜥蜴は俺に狙いを定め、頭を低くして突進して来た。突然のあり得ない展開にぽかんとしていた俺は、大蜥蜴に跳ね飛ばされ、高く空中に舞い上がった。よく昭和の頃のテレビ漫画で、悪役がヒーローにやられて空高く舞い上がり、最後にはきらーんとなるやつがあったが、俺もまさにそうだった。まさにというのは本当にまさにで、高く空中に舞い上がった俺は実際きらーんと光り輝いた。自分の放った光に目がくらみ、思わず俺は目を閉じた。死ぬのかなと思っていたら、両足にどんっと言う鈍い衝撃を受け、再び目を開いた時には、ヒーローショーさながらの鈍いガンメタグリーンの金属とも布ともつかないものを身に付けていて、いや、身に付けていてってよりは、身になっちゃってるのかもしれない出で立ちで立っていた。

何これ?何だこれ?何が起こっているんだ?!ちょっと落ち着いて考えたい、考える力失ってる暴力マシーンだから考えても無駄だけど一応考えてみたい、俺はそう願っていたが、大蜥蜴はそうじゃなかったようで、またしても俺に狙いをしっかり定め、頭を低くして俺に向かって突進して来た。俺は暴力マシーンなので、こんなトンチキな状況であっても、向けられた暴力に対しては反射的にきっちり暴力的に動ける。幸い相手は無防備にただ突進してくるだけだ。俺はカウンターを狙って大蜥蜴のスピードに合わせ、勢いをつけて大きく振りかぶり拳を前に突き出した。狙い通りクリーンヒットしたその拳はガンメタグリーンのヒーローショーの影響なのか、自分でも驚くほど力が強く、大蜥蜴はぶっとばされた。



そして今、こっぱずかしいなりをした俺だけが立っている。

暴君、冷血漢、人非人、外道、鬼畜、鬼、悪魔、人でなし、ありとあらゆる人が、ありとあらゆる人にあらずとの形容を用いる、暴力の才能しかない暴力マシーンな俺が、ガンメタグリーンのヒーローショーで。立っている。

辺りの人々はヒーローショーで握手しに来るガキどもが、ヒーローショーのヒーローを見る目で俺を見ている。


何てこった。


やめろ。


やめてくれ。

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