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極悪人間ヒーローになる  作者: 溝野魅苑


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最悪な機嫌

あの…だ、大丈夫です…か?」

意識が戻った京也が踏み潰せそうな位小さくなって小声で言う。なるほど、記憶はなくならねーのか。そりゃそーか。俺も変身してる時の記憶はある。そいつはおもしれー。

「ケツが気持ち悪い。痛いし。」

「う…すみっすみませんでしたー!おとっ…落とし前つけますっ!指…あっあっ…指…つっ…詰め…ほ、包丁貸してくださいっ!包丁!」

俺は吹き出した。そのとんでもなく狼狽える様が面白すぎて笑いが止まらない。

「相楽さんって…笑うんですね。」

笑う俺をポカンとした顔で見ていた京也が言った。

「はは…え?」

「四年も舎弟やってて初めて見たかも…。」

「いや、そんなことねーだろ。いや、あれ?そうかな。」

確かに暴力マシーンと呼ばれるようになってからこんなに笑ったことはないかもしれない。何となく照れ臭く感じ、俺はタバコに火をつけた。

「あー…しかしまあ、どうするよ?」

「あ、はあ…そうですよね。箱は…」

「もうあれに近づくな。いつかお前を殺しそうだ。とりあえず今は仕事のことだけ考えとけ。」

明日は確か朝から取り立てだ。

「はい、でも…あっ、やべえ。車がない。ちょっとレンタカー行って来ます!」

明日、仕事があって俺はちょっとホッとした。うっかり休みだったりしたら、一日中箱にかまけてまたおかしくなることだってあり得る。



「着きましたよ。」

俺は車から降りた。目の前には唐揚げ屋があった。有機なんたらで育てた安心安全健康に良い鶏肉を使っていると看板に書いてある。中を覗くと準備中の札が下がり、店の中は真っ暗だった。

「なーんか…流行りに乗って始めちゃったけどって感じですねー。」

「まあ、しったこっちゃねえや。」

俺は店の裏に回り、従業員出入り口の呼び鈴を押した。返事はない。ドアノブを回しても鍵がかかってるようでドアは開かない。仕方なく俺はドアを思いっきり蹴った。安普請で太鼓ばりのドアは容易く穴が開いた。俺はその穴に手を突っ込み鍵を開けた。

「すみませーん。店長さんいますかー?」

ちょっと古くなった鳥の油の臭いがする厨房は、がらんとしていて人の気配はない。京也と2人、手分けして店の中を歩き回り、店長を探した。

「わっ!」

カウンター付近を調べていた京也が短い悲鳴を上げた。

「相楽さーん。これ…。」

京也の呼ぶ方へ行ってみると足が見えた。足を辿って見上げて見ると、紫色になって穴という穴から出せるだけの水分を垂れ流した顔の男がぶら下がっていた。

「店長だ。」

目玉も飛び出しかけているし、膨らんだ舌がだらんと出ていたが、顔立ちは間違いなく店長だった。

「これ、自殺ですよねえ。保険金出るのかな?」

「まあそっち考えんのは俺らの仕事じゃねえわ。」

「まあ、はい、そうですよね。」

そういうと京也は事務所に電話をかけた。



「はあ…レンタカー借りて、朝からこんなとこまで来て自殺ですかぁ。なーんかなー…。」

朝飯をうどん屋で食いながら一息ついていると京也が言った。

「そうか?楽できて良かったぜ、俺は。」

京也は機嫌の良い俺を薄気味悪そうな目で見た。急に予定がなくなって時間ができるのは得した気分で、ご褒美がもらえたような感覚になる。だからと言って、他人の自殺で機嫌が良くなっているのは変わらず、薄気味悪がられても仕方ない。

「まあ、相楽さんは仕事の他に地球も守らなきゃいけないし、たまにはこれ位のもいいのかもしれないですね。」

「ふん。何とでも言えよ。」

京也如きに揶揄われても気にならない位にはいい気分だった。


その時は。


俺の上機嫌が終わったのは京也にかかって来た一本の電話だった。

「はい。お疲れ様っす!…え?…あ、はい…わかりました。」

京也は怪訝な顔で電話を切った。

「何だ?」

「若頭からです。相楽さんを事務所に送るように言われました。」

何だ、結局別の仕事が入ってしまうのかと俺の機嫌は少し傾いた。

「お前は?」

「俺は来なくていいと。なんで、俺は相楽さん送った後は新しい車調達に行きます。」



組事務所にて、俺は最悪な機嫌だった。手錠をかけられ、十人位の血気盛んな若え奴らに鉄パイプやら金属バットやらバールやらでボコられているからだ。若頭が手を挙げると若え奴らはピタッと俺を殴るのを止めた。リーダーシップがすげえ。

「悪いなぁ。お前は頑丈だからよ、道具使わねえと殴る方が壊れちまうからなあ。」

若頭は転がっている俺のところまで来て言った。

「はあ…お…お構いなく…。」

若頭は、俺の返事が気に入らなかったのか、チッと舌打ちをして鳩尾を蹴り上げた。

「げほっ」

若頭はむせる俺の髪を掴んで引き上げた。

「お前、本当に梶の居所知らねえのか?」

「はぁ…知らねえ…です。」

「ふん。」

若頭は強く俺の頭を床に叩きつけた。鼻がツーンとして、生暖かい液体が流れる感触がした。

「でもよぉ、お前、梶んとこの若えヤク中処分したよな?」

「…。」

俺は、俺みてえな馬鹿がこの世界でやってくために二つのルールを決めていた。一つは暴力を頑張ること、もう一つは約束を守ること。若頭は、口を割らない俺に唾を吐きかけ、若え奴らに合図をし、また俺はボコられることとなった。

日が暮れて薄暗くなり始めた頃、やっと俺は家に帰れた。

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