リビドー?何だそれ
俺の話を聞いてから、京也はじっと考え込んでいる。
「それだけですかねえ?」
「他に探すもんなんかねえだろ?」
「だったら、戦うとか面倒なことしないで俺の部屋にあるやつ持ってけば良くないですか?」
そうだった。箱は楽に手に入るところにもう一つある。
「あーでも、あるの知らねえのかも。」
俺はそう言ったが、それでも京也はうーん…と首を傾げた。
「それもあるかもしれませんけど、本当に箱だけが変身の要因だとしたら、俺だって変身できても良くないですか?」
「ある意味してるじゃねーか。」
京也がバツの悪そうな顔になる。
「あー…いや…だから、そこがおかしいんですよ。だって子ども達は代えはいくらでも効くって言ってたんですよね?」
「ああ。」
「それなのに、俺は…その、あーいう感じになっちゃうじゃないですか。」
「まあなあ。」
とてもじゃないが戦うとかっていう変身ではない。
「もうそれ、誰でもじゃないじゃないですか。最初に変身した時、試験に合格したと言われてますよね。つまりそれは選んでるってことになりませんか?」
「ふーん…。」
「代えがいくらでもいるっていうのは嘘で、なんか相楽さんじゃなきゃダメなもんがあって、そっちを探してるのかもしれません。」
「俺じゃなきゃダメなもん?」
「なんかその、相楽さん独自の何かがあって、それがあるから箱を埋め込むと変身できて闘えるみたいな。」
そんなもんあるわけないだろう。京也と比べただけでも、学歴、知力、学力、常識、社交性、正義感、全て俺の方が持ち合わせが少ない。
「何かってなんだよ。」
「それがないと俺みたいにリビドーが暴走するとか…。」
「リビドー?何だそれ?」
「根源的欲望です。」
「わからん。」
「その人の持つ欲望の大元みたいなもんです。」
欲望の大元。俺にそんなものあるのだろうか?プリンが食べたい。寝たい。帰りたい。俺の欲望なんて大体そんなもんだ。その大元?あんのか?そんなもん。
「俺もそれがあんのか?」
「そりゃあると思いますよ。人間誰しもあるもんだと思ってます。」
京也はそう答え、高速の出口方面に車線を変更した。
「相楽さんはこの後どうしますか?」
「帰って寝る。」
「わかりました。俺も家帰ります。」
京也に家に送ってもらってから泥のように寝た。
どれくらい寝たのかわからないが、どんっ!という音と振動で目が覚めた。
「何だぁ?」
外を見ると見慣れたハイエースがあった。電信柱にぶつかっている。
「京也っ!」
あいつ、何してんだ?!俺は外に飛び出し車中を覗いた。
京也の姿はない。
どういうことだ?
誰かが通報したのかサイレンの音が聞こえる。こんなところにいたらまずい。
京也はどこに消えた?
電話しようにもこないだ壊してからスマホはない。ビビって家にでも逃げ帰ったんだろうか。いや、幾らヤクザ離れした京也でも車から足がつくこと位想像できるだろ。早くこいつを何とかしないと。そう思った時、もの凄い音がしてハイエースが爆発した。良かった、このまま燃え尽きてくれていい。いや、これから仕事にどーやっていけばいい?ダメだ、俺が考えても埒が開かない。とにかく京也を探した方がいい。俺は一旦京也の家に行ってみることにした。
京也は四年前、俺の家から歩いて十五分位のところに越して来た。
「何かあった時すぐに来られるように。」
京也はそう言っていたが、俺がモーニングコールで起きねえからだろう。
俺の家があるのとは駅を挟んで反対側に京也の家はある。商店街やらショッピングモールやらがあって賑やかな方にある12階建てのマンションだ。築年数も10年いくか行かないか。兄貴分の俺よりよっぽどいい家に住んでいる。まあ俺は好きであのボロアパートに住んでいるんだけど。
呼び鈴を押してみたが返事はなかった。
「おいっ!京也?」
ドアを叩いても反応はない。イラついてドアノブを回してみたらガチャリと音がしてドアが開いた。
「おう!京也、いんのか?」
玄関から続く廊下は真っ暗だった。手探りでそろそろと部屋の中に入る。目の前のドアの隙間から細く光が漏れ、ボソボソと声が聞こえる。多分テレビの音だ。俺はドアを開けて中に入った。
「きょ…」
「相楽さん…。」
「うわっ!」
不意に俺の両肩に圧力がかかった。いつのまにか京也が後ろにいて、俺の両肩に手をかけていた。顔が近い。荒い息遣いが耳に当たりゾワっとする。顔だけじゃない。体が密着するくらい全体の距離が近い。おかしい。俺は身構えた。
「…お前、ハイエースどうしたんだよ?」
京也は返事をしない。熱があるかのような赤い顔をして、犬みてえに口を開けてはあはあ息をしている。こないだセクハラして来た時と同じ…リビドー暴走状態だ。
「京也!落ち着け!箱は?箱だろ?箱はどこだ?」
「相楽さん…はぁ…好きぃ…違…あ…頭がまわら…」
肩に置かれた手がずるっと前に伸びて首筋から胸元を女がするみてえに撫でる。
「ふっ…」
ゾクゾクと寒気がして息が漏れ出る。京也の腕を掴んだが、その力は普段の京也からは考えられない位強い。リビドーってすげえんだな。
「馬鹿!待て!マジで!リビドー止めろ!あっ…ちょっ…」
京也の手が俺のベルトにかかる。必死で抑えたが、これ以上力を入れたら、多分俺が京也の両腕を折ってしまう。さすがにそれはまずい。かと言ってこのままだと…答えが出せないままでいると俺のズボンがずり落ち、俺は前のめりに倒れた。
「箱は?あっ…」
パンツを抑えるために両手を離すと、京也の手は当然自由になりパンツの中に入り込む。くそ…京也如きに好き放題やられて堪るかと思うが、同時に京也だからこそ無碍にすることができない。赤の他人なら殺しているのに。
「んぁっ!あ…くそったれが…!」
俺は両手でパンツを抑え、足で京也を後ろに押し返したが、ゾンビのように這いずり俺に迫ってくる。リビドーのゾンビだ。
「あっ…ちょっと待てって…ん…くっ…くそったれ…ぇ…」
気持ち悪りいと思っていても、他人の手で触られるとちんこが固くなる。生理現象ってやつだ。反応したくない、そう思っても強く弱く擦られ、ちんこはカウパーで湿り、ぐちゃぐちゃとやらしい音を立てる。
「ん…なあ…ふっ…マジで止めろって…箱…あ…どこだ…?」
顔を真っ赤に高揚させ、ニヤニヤと笑っているその顔は何かと重なった。そうだ、梶さんとこのヤク食ってた若えやつみてえだ。エロいことで頭がいっぱいになってる奴なんて、案外ヤク中と似たようなもんなのかもな。そんなことを思っていると、俺のカウパーに塗れた京也の手がケツの方に滑った。
は?はあ?はああっ?!
「いっ…マジか!そっちかよ?!お前っ!誰に向かって…んんっ…京也!目ぇ覚ませ!箱…あっ…ぐっ…痛えっ」
けつの穴に何かが入ってくる違和感。嘘だろ?こいつ、こんな気弱なくせに俺に突っ込みたいと思ってんのかよ?ふざけやがって…無性に腹が立って俺を弄る京也の腕を掴み投げ飛ばした。
「ぐえっ!」
その間に俺は立ち上がってズボンを引き上げた。
「京也!箱出せ!箱っ!」
「はぁっ…はぁ…」
だめだ。話が通じない。俺は欲望のまま這いずってくる京也をヘッドロックで締め落とした。とにかく箱を捨てようと思って、ズボンのポケットに手を入れると勃起してる京也のちんこの熱が伝わって来た。
「うへえ…。」
気持ち悪い。そんな思いをして探したのに箱は見つからない。他にポケットはついてないか探すと、ブカブカで生地の厚いパーカーにもポケットがついていた。手を突っ込むと硬い角張ったものに触った。箱だ。俺は箱を掴んだ。
「んあっ!」
感電したような衝撃が頭からつま先まで走り抜け、同時に頭がキーンとなるような大音量でガキどもの声が響いた。
「まだ早い!」
「ぐっ…ぎっ!」
俺は無理やり体を動かし、箱を部屋の隅に投げ捨て、その場に倒れた。
締め落とした京也の方を見た。うっかり殺してねーか心配だったが胸が規則正しく上下していた。投げ捨てた箱を見ると薄らと緑がかった白い光が脈打つように放たれている。君が悪い。ここにいたらまずい。直感的にそう思い、俺は京也を背負って自分の家に向かった。




