気持ち悪りい
「ついに撮影できましたね!」
京也がまた、握手しに来てるガキの目をしている。手からビームを出すなんていう、子どもだましのヒーローショーをやってのけ、情けなさに打ちのめされている俺の心にグサグサ刺さる。
「今、車回しますんで。なるべく変身しないで下さいね。」
明るい声でふざけた一言を残して京也は駐車場に向かい、しばらくののち、ハイエースで迎えに来た。
「しんどかったらシート倒してゆっくりして下さい。」
お言葉に甘えて、俺はハイエースの助手席に乗り込み、シートを倒した。ふと、いつも人を殺した後お世話になっているトランクに違和感を覚え、振り返って見た。
「すげえなぁ。」
その変わりように言葉が出なかった。元々後部座席を取り払い、キャンピングカー用のシャワーとプラスチックの衣装ケースが2、3個ある、便利だが殺風景だったハイエースのトランクは、のたくる配線が何本も繋がったテレビが3台、俺がまったく関わったことがなさそうな電子機器が足の踏み場に悩むほど床に転がっていた。
「電気屋の裏みてえだな。」
「ここならシャワーもついてるし、運転席のシートは引いて倒せば充分足伸ばして寝られる広さもあります。飯もコンビニで買えばいいし、どうせ元々自炊はしないんで。引きこもって調査するにはもってこいなんですよ。」
3台のテレビには、昨夜の俺が映っていた。じめっとした布団でごろごろしながら、テレビを見たりタバコを吸ったりしている。そのうち、白い光が俺を包み込み、ガンメタグリーンのヒーローショーの姿を晒した少し後、跡形もなく消え、布団には京也に待たされてた小さいデジカメだけが落ちてた。自分が変身してるのを見るのは初めてだった。
「すごいでしょう?それ、昨夜の映像ですよ!」
京也が鼻息を荒くしている。すごいのかどうだかわからんけど、きっと京也にはすごいんだろう。
「昨夜、その画像撮影した後、相楽さんも消えちゃったから観察する必要もなくなったんで、すぐに画像を解析したんですよ。」
そう言うと、少し先のコンビニに向かった。中途半端だが田舎のこの辺りはコンビニも駐車場が広い。目立たなそうな一角を選び車を止め、俺たちはトランクに移動した。
「気づいたことがあるんです。映像、見てもらってもいいですか。」
3個あるテレビの一つでは俺が俺からガンメタグリーンのヒーローショーになっているところが拡大されていた。俺が白く光り出し広がり、徐々に俺の体に吸い込まれ、ガンメタグリーンのテカテカしたものになる。
「これ…」
京也が何度も巻き戻す。
「これ、相楽さん自体が変質してるんですね。」
「何だよ?それ。気持ち悪い。」
確かに京也が言う通り、よく見ると俺にも何かが起こっていた。白い光を吸い込み始めた時、俺は、何というか、溶けて広がり光と混ざり、その後ガンメタグリーンのテカテカとなってまた俺に戻っている。
「映像が悪いんじゃないの?」
「いや、映像編集ソフトでノイズは出なくしてるんでそうじゃないと思います。」
映像編集ソフト…そうか、これはテレビじゃなくてパソコンなのか。
「俺は一旦溶けて別の形で固まってんのか?」
「そう言う感じですかねえ。」
気持ち悪りい。カブトムシじゃねえか。最初に変身した時からわかっていたが、こうして改めて見てみると自分が人間じゃなくなっちゃっているという感覚が強くなり気持ち悪くなる。まあ元々この世の全ての人がこの世の全ての人にあらず形容するような俺だ、今更人間じゃなくなったところで。
「それが元々の姿だったってことだよな。」
あるべき姿なのかもしれない、そんな気持ちになる。
「何がですか?」
「いや、俺が…元々人じゃないって事なんだよなぁ、きっと。」
「そんな。相楽さんは人ですよ。」
「いや、元々俺はこの世の全ての人が人にあらずと形容するようなやつだよ。こうなっちまったら、もうどう見てもその通りだよ。俺は人じゃない。」
「俺、血生臭いこと苦手じゃないですか。」
「おう。何でヤクザ続けてんだろうな?っていつも不思議に思っているよ。」
「だから最初に相楽さんの下についた時は本当に嫌だなと思ってました。」
「みんなそうだよ。俺みてえなこ汚ねえ人殺しの下につきたいやつなんていねえよ。だから俺には舎弟がいなかったんだよ。」
「でも俺、相楽さんの仕事見て、すごいなと思って。」
「そらまあ、そうだろうな。引くだろう。」
「そうじゃなくて、やれる事に対して純粋なのが…すごい…美しいなって。」
意味がわからない。こいつはキラキラした目で何を言い出しているんだ?
「何言ってんだ?お前。」
「暴力しかできないから徹底的に暴力を突き詰めて、暴力的な殺し方をするっていうのが、計算とかなくてなんか純粋なエゴって感じがしたんです。」
「純粋なエゴ?」
「人って見栄や計算高さってどうしてもあるじゃないですか。そういうのが一切なくて、ただただ殺している感じが美しくて…惹かれたんですよ。」
「難しいことはわからねえよ。」
「それが、相楽寿志という人なんですよ…そんなあなたが…好きなんです。」
京也がぐぅっと距離を詰めて来た。殺意は感じないが、雲行きが怪しい感じがする。
「京也?何言っ…んっ」
ちょっと待て。何キスしてんだ?てめえ!
「ん…む…」
舌まで入れてきやがった!俺は京也の舌に歯を立てた。
「いっ!」
京也は口から血を流しながら体を離した。
「京也…てめえ誰に何してんか分かってんのか?」
京也が口から滴る血を拭いながら、さあーっと青白い顔になる。まん丸になった目から涙がダバダバ溢れてる。ダムの放水みてえだ。
「あ…あれ?嘘…すっ…すみません!すみませんでした!」
京也はガタガタ震えている。そんなんなるくらいならやらなきゃいいのに。
「すみっ…すみません…あれ?何で…」
「何が?」
はっきりしねえ京也に苛立ち俺は襟首を掴んだ。
「ひあっ!あっあの…好きなのは本当で…あっあっ…でもそういう好きじゃなくて…そのっ!こんなことしようと思ったことは一度もなくてぇ!」
京也が泣き叫ぶ。その度涙と血がポタポタ落ちていく。
「したじゃねえかよ?」
「なんかあの…急に相楽さんのことしか考えられなくなって…体が勝手に…。」
なんかわかんねえ。そんでうるせえ。俺は拳を固め、京也をぶん殴った。その拍子にポケットから何かが落ちた。
「何だ?それ。」
「あ…これは…その、こないだ修道院行った時、関係あるかわかんないですけど、こんなの見つけたんで見てもらおうと思って。」
京也は涙と舌から出てる血と殴られて出た鼻血で汚れた顔で、ポケットから飛び出たビニール袋から丁寧に何かを出す。箱のようなもの。どっかで見た事ある。
そうだ、箱根だ。箱根細工だ。
施設にいた頃、箱根にみんなで行った事があったんだ。マイクロバスで大涌谷や芦ノ湖を周り、箱根細工体験とかいうのをやった。細々としたパーツを組み合わせてコースターを作るのだが、俺はイライラしてパーツをぶちまけ、施設の職員に外に連れ出され、まともに仕上げるに至らなかった。
「箱根細工。」
「そうですね、似たようなもんです。ずっと開けようとしているんですけど開かな…」
「京也?」
今度は京也が俺に抱きついてきた。またこいつ!マジで何なんだ!?
「おまっ…盛りのついた犬か?くっ…う…あーもう!俺のちんこにちんこ擦り付けんな!」
気持ち悪りい!俺は京也を蹴り飛ばした。
「げほっ…す…すみません…でも多分…それのせいでこうなるんだとわかりました…。」
本当か?もうわかんねえ。それより俺はこんなやつに監視カメラで何日も観察されてたってのか?こんなんストーカーじゃん。てか俺、合意してるから違うのか?わけわかんねー。
「お前、しばらく俺の前に出て来んな。」
「さっ…相楽さん!」
「俺一人で仕事するわ。」




