手からビームとか
「あ!おはようございます!」
あれ?まだハイエースの天井。おはようって何だ?朝までハイエースで寝てたのかよ。
「大丈夫ですか。相楽さん…体は…。」
京也の眉がハの字になる。何だか俺は気まずい気分になる。
「悪りい、寝過ぎたな。起こしてよかったのに。」
「でも心配で…。」
心配?くそ、それか。そんなもんは向けなくていい。だから気まずいんだ。
「そういうのやめろ。とっとと送れよ。」
「朝ご飯食べて薬飲むとこ見届けないと。相楽さんむちゃするから。」
京也がコンビニの袋を差し出した。だから今更胃とかどうでもいいっての。
「そうだ、あの、昨日変身した後はどうだったんですか。」
「どうって…気がついたらどっかの山ん中いて、木の根みたいのがうねうねしてて、地面に引きずり込まれて、また、それは痛くもかゆくもねえんだけどさ。元々してた怪我はどうにもならなくてな。なんかたくさんセクハラされたけど何もできなかった。」
「セクハラ?!」
「何だろうなー。体中、それこそ乳首もちんこも擦られまくった。」
京也が顔を真っ赤にしてもじもじした。
「あ…あ…あの…それで…その…ぼ…勃起とか射精とかは…」
「するか!馬鹿!こんな体でイけるほど俺ぁ若くねえよ!」
「あ…はあ…そうですよね…。」
何だ?こいつ。クソガキみてーなこの反応は。まさか童貞なのか?ヤクザなのに。ヤクザなのに?
「子どもたちから何か言ってこなかったんですか?」
「ねえよ。それに、やっぱりこっちから呼び出す事は出来なかった。それだけは分かった。」
「じゃあ唯一の助言が思い込む事だけ。」
「そうそう。それ思い出してな。ヤケクソになって木だって思い込んだら木になって、そんで変身が解けて戻ってきた。」
「俺が初めて相楽さんが変身したのを見た時は、見えない音波を見えると思ったら見えましたよね。」
「そうだな。」
「思い込むとその通りになるんですね。」
「なんかそれは、ガキどもがなんか言ってた。」
「マジっすか。それめっちゃ手がかりありそうじゃないですか!なんて言ってたか思い出せませんか?」
「ええ…うーん…あ、世界の細胞?」
何とか絞り出したのがこの一言だった。
「なんです?それ。」
「わかんねえ。戦ってる最中によ、世界の細胞が何たら、せんざい?能力がどうたらってガキどもがグダグダグダグダ話しやがるから、俺が怒鳴りつけちまったんだよ。そしたら思い込めって言ったっきり消えちまった。」
「世界の細胞…潜在能力…どういう事なんだろう。わからない事が多すぎますよね。まずはデータを集めることから始めないとだめだな。」
京也は考え込み、俺を家に送るとまた来ますと言ってどこかへ行った。
俺は本当に馬鹿だなぁ。あの時、ちゃんと分かるまで話を聞いておけばよかった。世界の細胞。潜在能力。その後、なんか面倒臭い話をしようとしてたから怒鳴りつけた。何を言おうとしてたんだ?
夕方、京也が大きな電気屋の袋をたくさんぶら下げて戻って来た。
「ああ、よかった。変身してないんですね。」
京也が電気屋の袋から何やらガサガサと取り出しながら言った。
「相楽さん、これ身につけといてください。」
そう言うと袋から取り出した小さな箱を開け、中身を俺に寄越した。
「何これ?」
「デジカメです。小さいでしょ?でも一日中撮影してても問題ないくらい大容量なんです。」
「一日中、録画されんの?便所行ったり風呂入ったりする時も?」
「そうなりますね。変身する時とか脅威との戦いの様子とかミミズとか録画したいんですけど、いつ出るかわかんないですからね。二つあるので1日撮影終わったらこっちと交換して、その間に撮影されたデータの方は削除して、また次の日に交換します。」
「嫌だなぁ。」
「でも仕事の時にいつも相楽さんの裸体見てますよ?」
「それとこれとは話が違うだろ…風呂はともかく便所は嫌だよ。」
「可愛いこと言わないでください。変身したり子ども達の接触があったりミミズが来たりしなかったら見ないで消しますよ。あと、ここで定点カメラで撮影もしますね。こっちはリアルタイムで俺が見てますから。」
「ええ…?」
今こいつ、俺に可愛いと言ったか?頭沸いてんのか?
「しょうがないじゃないですか。」
「むう…。」
「俺は相楽さんのアパートの駐車場で待機しますから、もし何かあったらすぐに来れます。」
京也は血生臭いことが嫌いで気が弱くてすぐ泣く普段の様子とは違ってやけに強気でしっかりしている。
「手際いいな。」
「学生の時、よく心霊スポットに行ってこんなことやってたんですよ。」
俺は心霊スポットと同じか。出るか出ないか分からない心霊スポットよりは確実ではあるが、だからと言って嬉しいことは何一つない。
「もし子どもたちからの接触があったら、右手上げて合図してください。すぐ来ます。」
そう言うと京也は部屋を出て行った。俺は、とんでもねえことになったなぁと思ったが、よく考えたら、ヤクザがガンメタグリーンのヒーローショーになる方がよっぽどとんでもねえことだと気がついた。
その夜も俺は相楽寿志として眠り、翌朝、相楽寿志として目を覚ます事ができた。京也が来て、約束通りカメラを入れ替えて行った。そんな事が2日ほど続き、俺は自分が光出すのを感じた。脅威が現れたようだ。俺はまたガンメタグリーンのヒーローショーとなり、どこかに飛ばされた。寒かった。10月上旬で寒いところって東北の方だろうか。目が慣れて来たらそれが間違いだと気がついた。東北なんてもんじゃない、多分、これ、ペンギンやシロクマがいるような所だ。そこら中が氷でかちかちだ。いや、まだ違う。巨大な氷の山がめりめりと音を立てながら俺に近づいて来ている。これは。これが。これが脅威か。
ものすごく大きな音を立てながら氷の山は別の氷の山にぶつかり、それでも止まる事はなく、お互いがお互いを押し合う力で粉砕しあっていた。俺は間一髪で身をかわし、氷の山に挟まれる事はなかった。尤も、挟まれたからといって何があるというわけではないが。氷の山は至る所でぶつかり、お互いがお互いを押し合う力で粉砕されていた。粉砕された氷の破片は高く舞い上がり空から降り注いだ。もちろん俺は何ともなかったが、少し離れたところにある村だか町だかまで、その氷の破片は降り注いでいる。車を潰したり納屋の屋根に突き刺さったりして大騒ぎになっていた。俺は、俺の意思とは関係なく、彼らに降り注ぐ氷の破片を粉砕していた。しかし、氷の山はむやみやたらと破片を撒き散らすので埒があかない。此間の、セクハラ木の根のように、またどこかに本体があるのだろうか。そう思っても下から見上げていては巨大な氷の山に阻まれて何も見えない。山よりも高いところから見ればいい、そう思った時には空に浮かび上がっていた。思えば思った通りに動く。その仕組みにはだいぶ慣れて来た。
だが、俺のあては外れていた。山は山だった。大量の山が動き回り、ぶつかり合い、粉砕し合っている。これは、いちいち殴ったり蹴ったりしてても終わる気がしない。一度に全部消す事が出来たら。でも、どうやって?俺の馬鹿な頭じゃ一斉に溶かす位しか思いつかん。そんな子どもみたいなことしか思いつかないんだよ。くそったれが。手からビームとか、そんなのしか思いつかねえよ。くそ。もういいや、それで。
俺が両手を大量の氷の山に向けると真っ赤な光線が出て、氷の山を溶かしていった。馬鹿みたいだ。本当にヒーローショーのヒーローじゃねえか。
情けない。
情けない。




