チュートリアル実施中
「7匹!? すまねぇウチじゃ2匹が限界だよ。良かったら知り合いの店に卸してやってくんねぇか?」
【1匹獲ったら1年暮らせる】
1匹金貨1枚と言われるホーンラビット、実際1年暮らすには少し足りないがカッツカツに切り詰めたら出来なくも無いだろう。
昨日少し食べたが買い取りにさして影響は無かった。金貨7枚と銀貨20枚。冒険者専門学校への入学金の金貨1枚をクリア、余裕があるから装備でも揃えようかなと考えたが、今後学校で適正を見つけ出してからにしようと言う結論に至った。
ゲームで経験する「高額で装備整えたのにレベル上がってスキル獲得したらあっちの装備の方が良かった」あるある。の経験がまさに活かされているだろう。資金に油断をしてはいけない、リソースは無限じゃ無い。
しかし武器に関してはこの世界に来て認識が変わった。【長物】はやはり強い。リーチの優位性は命のやり取りで嫌と言うほど理解できた。勿論シチュエーションにもよるが基本的な優位性は絶対だ。
と、【高所の優位性】これはかの剣豪宮本武蔵も言っている「相手より高きに身を置け」これが意味する所の優位性。そして俺は翼を獲得した事により【高所の優位性】はデフォルトとなった。この優位性にリーチの優位性を足さないと言う選択肢は無い。昨日の狩りでも「この場合やっぱ槍だよな〜」と感じた。
これは例え苦手でも槍の心得は絶対に会得すべき課題だと思う。なので安物でもいいから槍だけは買っておこうと言う事で手頃な槍だけ入手した。
ドラゴニア帝国の1番外側の城壁、帝国への玄関口が貿易の窓口でもある。更に城門に近い所に冒険者ギルドがある。傭兵やならず者も多いので騎士詰め所の近くに置かれているらしい。
そのならず者になる為の専門学校の受付に向かう。
「入学希望者?」
「ああ」
こちらの世界には接客と言う概念はあまり浸透していない、貴族相手ならまた対応も違うのだろうが。
「金貨1枚ね、そこのクリスタルに手を置いて」
愛想の無いオバサンだが悪気は無いのは分かる。
素直にクリスタルに手を置き鑑定される。
「ん? んん??」
受付がクリスタルをペシペシ叩き出した。何か故障らしい。と言うか故障で叩くのは世界共通なんだなw
それを見ていた隣の上司らしき人がクリスタルを覗き込む。
「マジか! デュアルじゃねーか!!!」」
その大きな声にギルド内が一瞬騒然となり周りの視線が一気に集まった。
ヤダ気持ちイイ…
「おぉ!火と…あぁ風か、いやしかし初めて見たよ!いいもん見せてもらった」
何か風ってハズレ扱いっぽいのが見て取れた。確かに炎はアスモデウス支部長とじっくり相談しながら取得したが風は俺の独断で決めた。
え、もしかしてやってしまった!? いやでも支部長は別に止めなかったし…モヤモヤ
そしてショウヘイと書かれた鉄製のドッグタグを渡され奥へ案内される。
「ここが寝泊まりする寮、朝の鐘で授業が始まり午前は座学で午後は外で実技。実技はノルマも兼ねてるからしっかりやりな。飯は食堂で安く食えるし量もある。獲ってきた獲物が大物ならしばらく食費は免除される」
テキパキと慣れたセリフで説明を終え、早速明日から授業開始。
学科は魔法授業の炎を選択、風は無かった…
実技は槍をメインに盾と剣を選択。
さぁ、明日から頑張るか!
———3ヶ月後———
すっかり冬になり時折雪がチラつく。日が登り始めるこの時間帯が1番獲物が獲れる事をこの3ヶ月で知った。
ホーンラビットより希少なスノーラビットはその毛皮の美しさから非常に需要の高い魔獣だ。しかし雪に何物かの足跡が有るだけでそこから逃げてしまうほど警戒心が強く滅多な事では捕獲に至らない。その希少性が更に毛皮の価値を高める。
また鼻と耳が非常に優れており数百メートル先の雪を歩く音と振動を察知して逃げてしまう。つまり床がある時にスノーラビットを捕まえるのは不可能で、雪が降る前か雪解けを狙うしか無い。しかしその頃には毛皮の色が白から茶色に変わり防御用のゴワゴワの毛に変わってしまう。
数ヶ月限定の真っ白な冬毛のスノーラビット。上空から忍び寄れる俺にはただの白いウサギだ。
実際スノーラビットは危機察知能力が異常に高い変わりに運動能力は地球のウサギ以下だ。ま、数も少ないし実際この3ヶ月で獲れた数は2匹、いや今日のコレで3匹目か。大きさも普通のウサギ程度で肉はまぁ普通に美味いがホーンラビットの方が遥かに美味い。
だが毛皮は1匹金貨2枚もの高値が付く、まぁ狙って獲れる獲物じゃ無いので3回ともたまたまだけどね。
宿舎の水場でスノーラビットの下処理をしていると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ショウ! それスノーラビットかよ!お前マジでスゲェな!!」
朝っぱらからテンション高めの大声の主はルームメイトのガヤルド、13歳で両親を亡くしそこから奴隷として重労働に従事、最近になりやっと自分を買い戻しこの学校に入ってきた現在27歳の大変な苦労人だ。
この宿舎寮はどの部屋を使ってもいいので移動も勝手にしていいらしい、コイツとは気が合って部屋を一緒にしているが、身長2メートル、体重は恐らく120キロを軽く超えていると思われるその体格に合うベッドが無く、地面で寝起きしている。
無精髭に茶色い瞳、伸ばしっぱなしの長髪をグイッと後ろで結び絵に描いたよう様な【ウォーリアー】って感じだ。
「負けてらんねぇなw」
そう言うとガヤルドは2メートル以上ある真っ白なクマの魔獣をドンと放り投げて解体をし出した。
スノーエイプ
簡単に言うと北極熊とゴリラのハーフみたいなゴリマッチョ、爪と牙と分厚い毛皮と異常な肩幅が特徴の上位捕食者だ。
「いや、負けてねぇだろw 嫌味なヤツだぜ」
悪気も嫌味も無い男なのは十分承知した上での軽口だ。この3ヶ月で打ち解けている。
「でもよ、買い取り金額は同じだろ?こんなでっかいのを命ガラガラぶっ倒して運んだり解体する労力を考えたらそのウサギを狩る方が賢いよな」
ブツクサ言いながらデカブツの解体を始めるガヤルドだがスノーエイプなんて並の冒険者じゃあソロで狩れる相手では無い。ガヤルドはその奴隷で鍛え上げたギリシャ彫刻のような肉体で力にモノを言わせてぶちのめす。
スノーラビットの解体はすぐに終わり俺は何も言わずにガヤルドの手伝いを始めた。




