チュートリアルの準備をしよう
と、言う事で遺跡の外に転送してもらった。
なんやかんやで4日も滞在させてもらった。その間の衣食住と魔法やスキルの研修など本当にアスモデウス支部長にはお世話になった。因みにメリッサさんとはあの後特に何も無かった。ずっと俺だけソワソワしていたが何にも起きなかった…
取り敢えず今後の活動だが、早く強くなって「とにかく目立て」と言う指示を受けた。
この世界はただ強いと言うだけでも信者は増えるから何でもいいし手段も問わない、悪目立ちでもいいから目立てとの事。
何か迷惑系YouTubeみたいでちょっとヤだな…
ひとまず当面の目標は安全かつ確実に経験値と鍛錬を積む為に冒険者育成専門学校に入学する事になった。とにかく死んでしまったら元も子もないという事で基礎知識、鍛錬、実践など必要な事は安全かつ丁寧に手解きしてもらえるチュートリアルらしいので今の俺には必須だと言われた。なので冒険者達に復讐するのはもう少し後だとさ。
「32歳で学校か、何か照れ臭いなぁ〜」
など言いながら内心かなりウキウキしている。俺はキラキラ輝くような素敵な青春とは対極の隠の者だ。もし青春をやり直せるなら、もし戻るなら何月何日のあの時だとか、あの時はこのセリフだったなとかの妄想シミュレーションは欠かしたことが無い。
しかし問題が1つあって入学金が金貨1枚が必要。その後は毎月銀貨1枚、もしくはそれに相当する食料か魔石の納品のが必須になる。
因みに教団から金銭の援助は一切出来ないらしい、そもそも思念を喰らう彼らはお金を稼ぐ事をしない。
今後はコンサルタント的な感じで俺をプロデュース、サポートして行くらしい。
なので先ずはお金を稼ぐところから始めましょうとなった。勿論ダンジョンに入るのが1番早いが今の俺はチート級のスキル持ちだけどまだ使えないのでクソザコの部類だ。なので高値で売れる肉を狩猟しようと言う事になった。
後、肉を沢山食えとも言われた。実戦経験を積んだからといって経験値と言う数字が入る訳では無く文字通り経験が増える、と言う意味らしい。しかし肉を喰らうのは魔力を上げる行為らしく、要は捕食行動がそのまま強さに直結するらしい。なのでより強い獲物を喰らえばさらに強くなれるので「その内魔獣も食べましょう」と言われた。
アスモデウス支部長に教わりこの世界の事を色々知れた。本当に俺は何にも知らなかったんだなとつくづく思い知らされた。相談できる相手がいるだけでこんなにも心強く感じる。
金銭や装備の援助こそ無かったが、スキル解放に伴い風属性+闇属性の特殊スキルツリーが解放され【悪魔の翼】を手に入れた。そう、デビルウィングだ。勿論空も飛べる。が、何せ慣れてないので本当に疲れる。水中を両手だけで泳いでる感じと言えば伝わるだろうか滑空とか落下だけなら翼をバッと広げるだけだが飛ぶのはちょっと体力が足りない。
そしてこの翼は普段マントに擬態出来る優れものでぱっと見は真っ黒に見えるけど、陽の光に当たると黒の中に青紫が光輝く美しい羽だ。
もうね、コレ大変気に入っています。
さっきから無意味に「バサッ」て言うのを何度もやっているが飽きないw
そして今この翼を使って狩りを試みている。大きめの網を地面に設置、落ち葉を巻いてカモフラ。後は頑張ってバサバサして何とか木の上に登り、獲物を待つだけ。まぁ翼を使うと言うよりはただの罠猟だけどね。狙うはホーンラビット、大型犬程の大きさのツノを生やしたウサギで木の実を食べる。
肉は美味く毛皮や骨、皮、ツノは装飾品の素材として高値が付きやすく、余す事なく無駄が無い生物だ。しかしながら動物ではなく歴としたモンスターだ。その突進力と角から生まれる破壊力はバリスタ並みで盾など軽く貫通してしまう。なのでホーンラビット自身も自爆してしまうほどの威力を備えていて、その習性を利用してサンドバッグみたいな鉄塊の人形を盾に挑発して自爆させると言う狩がある。これは発情期の冬前にしか使えないやり方で、普段は滅多に人前に現れない。
神経質で耳がよく逃げ足も速い上に視野が340度もある切れ長な目を持つ。真ん前と真後ろだけ死角となるが、恐らく上空からの奇襲にも弱いと俺は見ている。草原に生きる生物は上空警戒を怠らないが森の生物、しかもオオカミ程の大きさの生物はそれほど上空を気にしない傾向にある。
幸い今は冬前、森のあちこちで発情期を迎えたホーンラビットが縄張り争いを繰り広げている。
木の根元に大量の木の実をばら撒くと最初にメスがそれを食べに来る。メスのフェロモンに釣られてオスが寄ってくる。そこでメスを争って戦いが始まる。
ほらね。戦いの行く末を見守るメスと争うオス2匹は真上なんてまるで気にしていない。仕掛けておいた網罠のロープを枝にかけ一気にバンジー、俺の落下とは逆に網に掛かった3匹が木の上に吊し上げられて行く。
大大大成功!!
一気に3匹GET。蹴る地面が無いホーンラビットは脅威にならなかった。その後一日中繰り返して合計7匹をGET、血抜きや解体は得意だ。荷物持ちと雑用で鍛えた3年間でバッチリ身に付いている。近くの沢で作業を終え下処理を全て済ませて木の上で食事をする。森の中では俺は捕食される側なので弱者らしく木の上に避難、しかしこの風景も悪くない。
巨木に身を預け火を起こし肉を食べる。狩った獲物を眺めながら悦に浸り今日1日の俺を労う。
そうそう狩れる獲物じゃ無い。鉄塊人形を運ぶだけで荷馬車と2〜3人が必要で、しかも森の中まで入れないので森の端でホーンラビットとのエンカウントを待つ他ない、かと言ってソロで狩るには難易度が高く鉄塊人形も運べない。そして普通は木に登ったり降りたりするだけでかなりの労力と体力を要するが、翼が有るだけでこんなにも…何と言うか空間把握能力がまるっきり変わる。
例えばマンションの5階に住んでいたとして、ゴミ出しをするのに玄関を出てエレベーターに乗りエントランスを抜けてゴミ集積所に置く。恐らく2〜3分程度、往復5〜6分を要し歩数にして100歩前後と言った所か。
しかし翼が有ればベランダから飛んでゴミを置いて帰る。時間にして10〜20秒、歩数にして5〜10歩。
人間は空間認識は3次元だが2次元的な動きしか出来ない。しかし翼を得ると高さへの恐怖が途端に無くなりそこはもう歩ける道になった。
重力からの解放
スカイダイブやパラグライダーの様な滑空や落下以外の選択肢が無い人類、恐らく空への憧れは万人共通だろう。
そんな事を考えながらホーンラビットの塩焼きに齧り付く。寝る時は気を付けよう、流石に寝ぼけて落っこちるとケガでは済まないだろうからね。




