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一難去ってニ難三難

——数日後——

また軍部の使者がやって来た。それとは別にこの国の理事長にして大商人のイトヴァーニ・デッラコルテ大臣の使者も来ている。



「と、言う訳でございまして是非我が商会、ひいてはカルデモ共和国の指定取引商会としてのご登録をお願いしたく参上仕りました」


まぁ、要は俺達が取ってこれる貴重な品々を独占させろと言う事だ、しかも専属で働いてくれと。


「いや、お申し出は有難いんですが既に専属取引の契約してまして。多少なら融通出来るんですけど…やっぱアレですか、これで大臣側にも敵認定されてしまうんですか?」



「敵認定?はて?何故に大臣が?」

あれ?この人達はそうじゃ無いのか?てっきり同じ様な感じで来られるとばかり思っていたがそうでは無い様だった。先日の軍部とのやり取りを説明したところ、商会側の使者がたまたま居合わせた軍部の使者に嫌味を言い出した。



「何と!味方でないなら敵と来ましたか!我が国軍は空を飛ばれたら余程怖い様ですな(笑)いやいや、我々商会側としましては例え少量でも利益になれば何とするもの!そんな気の小さい事は言いませんので御安心くだされ」


「待て、聞き捨てならんな。我々軍部を愚弄する気か?」

「怖いから脅すのでしょう?仮に彼らが気を悪くして全力で敵国に与し出したらその脅威は全て貴方達、ひいては我々にも被害が及ぶと何故分からないのですか?」


なんか口喧嘩が始まった。しかし武人が口喧嘩で商人に勝てるはずもなくしばらくやり合った後ブツクサ言いながら撤退して行った。


「いや全くお恥ずかしい所をお見せしてしまって、我が国軍は随分と臆病な様でして。取り敢えず先刻申し上げました通り少量でも構いませんので是非ご思案頂けましたらと思っております」


大臣の使者は恭しくお礼を述べ帰って行った。



「はぁ…名が売れるのも良し悪しだな」

「そう?無名よりはよっぽど良いんじゃない?」

ミカは嬉しそうに言うが俺はちょっと面倒くさくなってきた。承認欲求こそあれど多分俺はSNSとか向いてないんだろうなと思う。率直に言うと恐れられたり一目置かれる様な目立ち方は男らしくてカッコ良い、そう言う立ち位置なら憧れるが擦り寄られるのは苦手だと理解した。


ま、毎日飯が食えて可愛い女の子も隣に居て翼も生えてりゃ俺の人生の中ではダントツで幸福度No.1なのは間違いない。


と思っていたのも束の間、細やかな…いや大いなる幸せは突然の来訪者により呆気なく壊された。


3人目の使者【法の番人】である元王家シャルル・ド・ヴァロワ女王陛下の使いの者がやって来た。



「女王陛下が貴族階級を与えて下さると仰せだ。授与式は5日後の正午の鐘、正装などはこちらで手配する。色々準備があるので前日には」


「ちょちょちょ、オレ、キゾク、イラナイ」

「なんでカタコトなのよw」


使者は断られるとは露ほども思ってなかった様で(ウソだろ…?)と言う吹き出しが見える程に口がポカンと空いている。


「では即刻この国から出て行って貰う」

「軍や商会の上席の話も来てるんだがオタクらはそれで良いのか?」


それらの話を受けるつもりは毛ほども思わないがこの際引き合いに使わせて貰う。


「それがどうした?女王陛下の思し召しを足蹴にしておいてタダで済むわけが無かろう?議席の2名が反対しようが擁護しようが満場一致以外の処遇はそれぞれご勝手にどうぞだろうが」


「もし俺らが国から出て行かない場合は?」

「陛下のご好意を無下にして尚国に居座るなど言語道断、排除しか無かろう」 


ド田舎の町内会かよ、まあ俺の文明水準から言えば王族と言えど田舎モンなのは間違い無い。まぁ正直な所あまり事を荒立てたく無いのは本音だが、過去の経験から降りかかる火の粉を適当に払うと後で火傷を負う羽目になる。特に貴族関係は。


「はぁ…分かりました。少しだけ考えさせて頂けませんか?」

「良かろう2日待つ。色良い返事を待っている」



——センチュリオン ラウンジ——

その夜、夕食時にバニーに相談してみた。


「御三方同時のお誘いは珍しいわね、まぁ空を飛べるって事がそれだけ重要って事よ」

バニーはワインを傾けながグラスに映る自分に向かって語りかけている。


「ただ、厄介なことに変わりはないわね、特にシャルル女王陛下は…なんて言うか気に入られても目を付けられてもダメなの、そう言うタイプの人間よ」


うわぁ…今の説明とバニーの表情で凄く厄介そうなのは理解できた。しかし時すでに遅し、もう目を付けられてしまっている。そして困った事に俺はこのカルデモ共和国を結構気に入っていて正直国外逃亡はあまりしたく無いのが本音だ。波に乗りかけて基盤も整い出しているまさに『これから!』って時に…


「はぁ…」

思わず漏れたため息をミカに見られてしまい慌てて姿勢を正して取り繕った。が、ミカを困らせるには十分なため息だった様だ。


ミカはしばらく考え込んだ後静かに口を開いた。


「・・・最悪ね?最悪逃げる事は出来るわけじゃ無い私たち。だったらさ一か八かの賭けに出ない?」


久々に悪巧み小悪魔ミカが微笑んだ。


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