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翼を有すると言う事

ハーピィはその昔、悪事を働いた罰として呪いであのような姿にされたと言う神話がある。俺達が剣を抜いても慌てるそぶりが無いのはこの武器が自分達まで届かない事を知っているからだ。


「思ったより頭は良いみたいだな、取り敢えずガンブレイドで2匹はやれると思うけど3匹は飛んで逃げるからミカお願い出来る?」


「了解」

そう言うとミカはその場にしゃがみ込み翼を広げてクラウチングスタートの姿勢を取る。それを見たハーピィ達は流石に驚いたようで一瞬動きが止まったがしばらくするとまた油断モードに入りオレンジを味わっている。



ショートソードのガンブレイドはショットガンなので射程圏外だ。なので連射は出来ないマグナムガンブレイドの銃口をハーピィに向け狙いを定める。



「よーい…」  ドゥンッ! 

スタート合図のようにガンブレイドを撃つと同時に

『バシュッ!!!!』ミカが羽ばたき一気加速する。


俺の攻撃は俺から2番目に近いハーピィの顔面に直撃し地面に墜落、それをみた他の4匹はすぐに飛び去る、続けて1番近いハーピィに狙いを定め引き金を引く。


ドゥン!!



逃げようとするハーピィの背後から羽を撃ち抜くとあえなく地面に墜落、すかさずショットガンでトドメを指す。


ミカの蝙蝠の様な翼には大きな爪が有り、それは飾りでも何でも無く本物の武器だ。超高速飛行で翼の爪を相手に引っ掛かけるだけで簡単に絶命させる事が出来る。ミカは武器を使う事なく爪だけで空中の3匹をあっという間に仕留めてしまった。


「ハーピィ楽勝じゃない!」

「だな!これはいいな!」


それからと言うもの翼のアドバンテージを活かしたクエストをバンバンこなしていったが、特に高難易度の高山に生える薬草採取クエストは特に美味しかった。


キルギス山脈の標高は2万メートル、それらに連なる山脈はだいたい1万メートル前後の山が並び立っている。その辺りに特殊な薬草が生えている。仮にエベレスト(8848m)に登山をする場合、約1ヶ月半から2ヶ月が必要とされているが、俺とミカなら1万メートルなら上昇気流に乗れば10〜15分で行けてしまうし、ぶっちゃけミカだけなら本気を出せば3分もかからない。


なので高所の採取、狩猟クエストは軒並み俺達の独占状態になり、その半分はアルゴノーツ商会に卸している。ここに来てやっとイーヨに貢献出来たのでかなりホッとしている。手紙によると俺とガヤルドんトコのディアブロ商会との取引でイーヨは地元じゃちょっとした顔役になりつつあるらしい。


「そっか、皆んな頑張ってんだな」


標高1万メートルの頂きから見える砂漠にはガヤルドが居て、イーヨの居るドラゴニアも視界の中に収まっている。何だか割と近いんだなと感じるが、翼がそう思わせているのか友情がそう思わせているのか。


「そろそろ帰ろっか、お腹すいちゃった」


空腹のミカに下山を促されキルギス山脈を後にする。帰りはウィングスーツの様に翼をたたんで高速飛行で帰る。恐らく時速200キロ前後は出ているがミカに至ってはもっと速い。真っ直ぐ帰れば1〜2分で終わってしまうので遊覧を楽しみながら街まで帰る。




——センチュリオンホテル ラウンジ——


なんか思わぬ方向から依頼があり、今ラウンジで話を聞いているが相手は国の軍部らしい。


「空挺部隊?具体的に何をする部隊なんですか?」

「予定では偵察、連絡、斥候ですが場合によっては強襲や暗殺もあるかと」


ん〜給金はかなり良い。が、組織に縛られるのはやっぱり嫌だ。この気持ちは翼を手に入れてからより強いモノになったし、これはミカも同じ気持ちだった。


「折角ですが我々では荷が重すぎてお役に立てそうに有りません。今回はご遠慮させて頂きます」


「そうですか、しかし本当にそれでよろしいのですか?よく考えられた方が御身の為かと」


「仰る意味がよく分かりませんが?」


「今回のご提案は議会や上院議員では無くカポディ・ゲネブリス総統閣下直々のご提案です、空を飛べる能力は味方でこそ心強いですが、それ以外ならばただの脅威に他なりません。味方以外はつまり敵対する事と捉えられても致し方有りません」


カポディ・ゲネブリスはカルデモ共和国の3人の最高責任者の1人、マフィアの親玉でドン・インフェルノの異名で知られていてこの国の軍部を掌握している。


「敵対?オタクらと?仮に敵対したら具体的にどうなるんですか?」


「この国に居るのが難しくなるでしょうね、敵ですから、まぁ直ぐにはと言いませんのでよくよく考えてからまたお返事をお聞かせください」


そう言って軍部の使者は席を後にした。


「面倒な事になったな〜」

「別に放っておけば良いんじゃ無い?いざとなれば空に逃げれば良いだけだし」


この翼に対するミカの信頼感が羨ましい。でも自由を愛する冒険者なら本来これが有るべき姿なのだろう、しかも俺たちには自由の象徴とも言える翼が有るのだから。どうも地球での社畜時代の考えが抜け切らずに相手のペースに合わせてしまうクセが有る。


「だな、そーだよな。何を真面目に相手してんだろうな俺、ミカの言う通りだわ」


もっと冒険者として、悪魔の使者として、翼を持つ者として自覚を持たなければ。

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