死の甘い香り
「一体どうなってんだ…何で誰も帰ってこねぇ?」
翼の2人組に刺客を送るが誰も帰ってこず、その度に刺客を送るを4回繰り返しているが未だ誰も帰ってこない。
「まぁ流石は腐っても2つ名ってとこか、俺らも舐めすぎたな。これ以上下っ端を送ってもラチが開かないなら次の手だ」
——センチュリオンホテル ラウンジ——
「みたいな事を考え出す頃だからそろそろ次のモーションかけて来るわよ」
と、バニーが教えてくれた。現在ビグモータル家の責任者は騎士見習いだった三人衆らしくバニーの元部下だったようで『アイツらの考えなんて手に取るように分かるわ』とワイン片手に豪語するだけあって今迄の予想は全て当たっていた。
そこへ遅れてミカがやって来た。
「バニー!」
「あらお疲れさん」
そう言って2人はハグを交わす。
ミカはソファに座り、笑いながら依頼書をピラピラさせて言う。
「なーんか胡散臭い依頼が来てたわ、しかも指名依頼で(笑)」
「ほらね♡」
バニーはそう言ってウィンクしてみせた。
⚪︎—⚪︎—⚪︎指名依頼⚪︎—⚪︎—⚪︎
ビグモータル子爵の御子息に当たる【ムスッコ・ビグモータル】の暗殺依頼。かの者、数々の悪事(詳細は伏せる)に関わると断定し処刑を遂行されたし。執行委員会はこれを受諾する。
「何処の執行部よw 雑過ぎないコレ?w」
「これはアタシの予想の遥か上をいかれたわw」
一応罠らしいw 日時と場所の指定もしてあってここのルートを通るからこの辺りで始末しろと指示が書いてある。ターゲットの編成を見ると恐らく三人衆もこの護衛に組み込まれているっぽいので、どうやらこの茶番に次ぐ茶番もそろそろ終演を迎えそうだ。
———暗殺指定当日———
前方に10人 真ん中に馬車 後方に10人
恐らく馬車にムスッコと護衛の三人衆が乗っているみたいだ。
一行はなかなかの速度で行進しているがバニーが足止めしてくれる作戦になっている。どうやって足止めするのか作戦は聞いていなかったが、まさか真正面から立ち向かうとは思ってもいなかった。
さすが元騎士と言った所か、真っ白な馬に跨り、白地の鎧に銀の縁取り、白のマントを羽織ランスと盾を構えている。フルアーマーに身を包んだ装いはオカマとは思えないほどの雄々しさが溢れている。バニーの名前の由来なのか、兜から二本の白いポニーテールみたいなのが出ている。
「前方敵影!総員陣形を整えろ!」
バニーの目論見通り行進は止まり、馬車護衛陣形の為に一塊になる。
「そんな浮き足だった陣形でアタシのぶっといのを止めれるのかしら?」
そう言ってバニーはランスを脇に構えて馬に合図すると全速力で駆け出した。護衛達は盾をファランクス陣形に構えた迎え討つ。全力で突っ込むバニーのランスが青白く光りだし盾の壁にランスを突き立てると
ドォンッ!!!!
と言う音と共に凄まじ衝撃波が発生して陣形を吹き飛ばした。と、同時に後方から魔法と魔力を帯びた矢が飛んできたがバニーは直ぐに盾を構え、今度は盾が青白く光りだし攻撃が当たる直前で盾でパリィをすると
バンッ!!!!!!
と音がして遠距離攻撃を全て弾いてしまった。その隙に敵は陣形を立て直し、3人同時に襲いかかるもバニーの盾のパリィに2人が吹き飛ばされ1人が切り伏せられた。今度も3人が飛びかかるが1人がパリィで吹き飛ばされ2人同時に鎧ごと串刺しにした。
そしてバニーはすぐに盾と剣を構える。
「何アレ!? めっちゃ強!」
「とんでも無いわね、これ私達の出番はないんじゃ無い?」
そんな感じでバニーが半分を倒してしまうとようやく三人衆が馬車から降りて来た。ボスはまだ馬車の中に残る。それもそのはずあの高級馬車は対魔法、対物理シールド魔法が付与されているらしくバニーの全力突撃ランスでも穴1つ開けられないらしい。
「あら三つ子ちゃん達、お久しぶりね。まだそんな事やってたの?」
「アンタと違って俺らはこれしか能が無いんでね、しかし流石はキューティーバニーと言ったところですが流石のアンタも1人で俺ら3人を相手にするのは舐め過ぎじゃないのか?」
「ええそうね、全くその通りだわ」
と、バニーが言うと同時に
ボォォッ!! バサッ!! バサッ!
俺は真上から風邪に黒炎を乗せたデバフスペシャルブレンドを三人衆に浴びせると堪らず膝をつき崩れ落ちる。
と、同時に凄まじい風切り音でミカが最高速度で馬車に向かって飛んでくる。そして馬車にぶつかる寸前
バッッッフォッ!!!
被膜の羽で全ての勢いと空気を馬車にぶつけ馬車がフワッと浮いてしまう。そのタイミングで俺の風魔法を合わせると馬車はたちまちひっくり返り側道の川へ転がり落ちた。
対魔法と対物理防御でも水の浸水は免れないようだ。運の悪い事に馬車の出口が下向きになって塞がれてしまい、馬車内に水がどんどん流れ入ってくる。しかし辛うじて、ほんの僅かに空気の隙間が残りムスッコはギリギリ息が出来る状態で何とか持ち堪えた。
ズズッ ズズズズッ
そして水の力で馬車は少しづつ流されている。俺とミカはその馬車の上にフワッと舞い降り、中に取り残されているムスッコを見下ろす。
川の上の道ではバニーが三人衆に誹謗中傷を受けていた。
「テメェ!それでも騎士か卑怯者め!」
「やぁね、もう騎士じゃ無いわよw 」
ドシュ! ドシュ!ドシュ!
全く躊躇する事なくバニーはトドメを刺して終わった。
そしてムスッコは何とか馬車から出ようと破壊を試みる、防御魔法も内側からなら弱いのかほんの少し、と言っても指2本分だけドアに穴が空いた。そこを空気穴にして何とか息をしているムスッコ。
「ごめんね〜、今度会う時はベッドの上って言ってたのに〜」
「ノワル・フェニックスは必ず死を届ける。受け取れ」
そう言ってムスッコが空けた穴にデバフを送り込む。水の中にいるのでイマイチ反応が分からないが恐らくかなり辛いのかな?
「じゃあね」
そう言うとミカは腰のネクロニードルを抜き空気穴に差し込んだ。辺りがたちまちタナトス・ブルームの危険な甘い香りに包まれる。
プス
ニードルはムスッコの舌に刺さり毒が回り始める。デバフと毒と水の恐怖と言う悪党にはお似合いの死に様だがちょっと可哀想に思える。まぁでもスパイクの皮を剥いだしミカに手を出そうとしたし俺を殺そうとしたし、自分を正当化する理由はいくらでも見つけられる。
今は復讐心が満たされる感覚が心を埋め尽くしていく。




