能ある鷹は爪を隠す
「いつまで待たせるんだよ!モルベリーナたんはいつ来るんだよ!あーもー使えないヤツばっかり!全員刑罰だ!刑罰刑罰刑罰刑罰粛清粛清粛清粛清粛清!」
「坊ちゃん大変申し訳ございません、しかし昨日の今日では」
「居場所が分かってるんだからやれよ!!」
「しかしセンチュリオン内は…」
「ルールなんか無視しろよ!」
——とある居酒屋——
「どうするんだよブカエ…」
困り果てて居酒屋で飲んでいるのはブカエ、ブカービィ、ブーカシ。この三つ子はムスッコの直属三人衆。
「とは言え流石にセンチュリオン内での騒動は御法度だ、下手をすると公爵様まで敵に回す事になる。一族どころか関係者まで消される恐れがあるからな…取り敢えず賞金稼ぎ共に手当たり次第金をバラ撒いてやらせるしか無いだろう」
——センチュリオンホテル ラウンジ——
「ねぇ、アナタ達最近人気よ? あのロイヤルファミリーから凄く好かれてるじゃない」
声を掛けてきたのは割と有名な同業者【キューティーバニー】と言う2つ名だ。バニーは片手にワインを持ちソファに腰掛けてきた。
「バニーって言うの、よろしくね」
バニーはグラスを少し前に出して乾杯の意を示し、それに対して俺達も同じ仕草で返した。
真っ白なフワフワの毛皮のコートを羽織り、その下には肌を露わにしたほぼランジェリーの様な服装だ。地球なら露出狂と思われる様な出立ちだけど…いや、ここでもどうかな?コートの前は閉めているが胸元や脚はかなりの露出だ。真っ赤なハイヒールが白のコートと相まって更に目立つ。
「ノワル・フェニックスです。とこちらはモルベリーナ、宜しく」
「ノワル…ステキね、アタシは白の次に黒が好きなの」
そう言って彼は俺の翼を優しく撫でる。
そう、彼はゴリゴリの男性。185㎝に100キロ近く有りそうなマッチョに口髭が剃られて青くなっている、勿論角刈りだ。
「あら、ごめんなさいモルベリーナ。でもいい男はシェアするべきじゃ無い?」
「バニー、アナタにこの人の相手が務まるかしら?この人始まったらしつこいわよw」
あ、いやいや、何を言い出すんですかミカさん。
「それは益々好みだわ。アタシもしつこいから相性良いかもね♡」
その後、ミカとバニーは話が合うのかキャッキャ楽しそうに話していた。バニーは今俺達が置かれている状況などを詳しく教えてくれた。彼…彼女?は元々ビグモータル子爵の騎士だったらしい。彼らの腐敗した領地運営に嫌気が差し伯爵に不正をリークしたところ逆にクビになり干された上に命も狙われたバニーは身を隠しながら賞金稼ぎで生計を立て、次第に名を挙げたらしい。
「ほんっとあのバカ息子ヤバいのよ!気になった女の事を考えながら『はぁ〜モルベリーナたん〜♡』とか言いながら人目を気にせずシコシコし出すのよアイツ!もうマジでキモチワルイ〜」
「wwwww」
ミカが声にならない爆笑でソファに転げ回る。バニーも昔を思い出しながら本気で身震いしているのがまた面白い。その日はバニーと色々話をして親交を深める事が出来た。
「何かあったらアタシも手伝うから絶対声かけてね!おやすみ、今日は会えてよかったわ♡」
3人で楽しい時間を過ごせたし、久々に大笑いをした事に後で気付いた。
「はぁ〜面白かった、いい人ねバニーって」
「だね、たまに俺を見る目が怖かったけど…」
何だかこのホテルの安心、安全、尚且つ情報の集まる場としての利用価値は値段以上のモノを感じる気がして来た。まだメンバーシップになって浅いので利用できないが、ダンジョン産の武器や防具を取り揃えているショップも併設されているらしいのでいつか覗いてみたいものだ。
翌日、俺達は冒険者稼業を装って森に出向き適当に戦闘したり適当にサバイバルしたりを繰り返している。翼は殆ど使わず攻撃を避ける時にちょっと飛んだり逃げたりといつもと違う動きを見せている。
2人の男が俺達を観察しているのはホテルを出る時すぐにわかった。必ず一定距離を守るので攻撃目標では無いのもすぐにわかる。なので誤情報を持って帰ってもらう為に敢えて翼をエスケープのみに使うように見せている最中だ。
勿論武器も封印。俺は銃を封印してミドルソードのみ、ミカは俺のショートソードを使っている。偵察の2人は頑張ってメモしてくれているかな?
休憩の時も木の上に上るのにわざとバサバサして飛ぶのは得意でない演出もしたりと言う茶番劇を繰り広げ、その日の夕方まで張り付かれみっちりデータを取られた。お疲れ様でしたw
——ビグモータル子爵邸 会議室——
「・・・これで2つ名?ただ飛べるってだけじゃねぇか?」
偵察資料報告書に目を通していたブカーエが口の端を歪に上げる。
「なんだ舐めて掛かってもおつりが来るじゃねぇか、ならもう始めるか」
翼狩りとモルベリーナ捕獲が始まる。




