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十死に一生を得る

———数ヶ月前———

「ハァハァ…」


川に流される事数時間、流石にこの辺りで休憩しないと疲労が…と思った矢先に断崖絶壁の滝になっている事に気付いた。慌てて全員岸辺へ泳ぎその場にへたり込む。


かなり体が冷えてしまったが気温はさっきより高いくらいで彼らとしては好都合だった。



「ハァハァ、アイリーン、ここはどの辺りだ」

「ハァハァ恐らくミストニア大森林の最南端『グラン・カスカーダ』の滝と思われます」



川の流れの分岐点の選択を間違えた様だ、商業都市カルデモ共和国ならまだ助かる可能性が高かったが…


「て事はこの先はネクロサハル砂漠か」

「はい…」


この断崖絶壁が事実上の国境となっていて、もしこの断崖絶壁が無ければ強国ザハリア王国に侵略されドラゴニア王国は無かっただろうと言われている。その事実を認めるかの様にこの滝には【偉大なる大滝】と言う名前が付けられている。しかし問題はザハリア王国では無くネクロサハル砂漠にあった。


このまま川の流れに乗って行けば自動的に王国に着けるが水場には他の生物も集まってくる。特に砂漠となれば尚更だ。そして砂漠の生物は森の生物と比べて段違いに強く、毒持ちが多い。


流石にエンツォの追っ手もここまでは来ないだろうと思っていた矢先に森の方からゴブリンの群れが出て来た、30匹はいそうだ…冷や汗が噴き出る。


「あっぶねー、対岸に上がってたらヤバかったっスねアニキ!」

そう、たまたまこちら側に上陸したから良かったものの今からまた飛び込んで泳ぐとなると絶対滝に飲まれてしまう、生き残ったとしてもそこは死の砂漠の始まりだった。ガヤルドは自らの幸運を悪魔に感謝する。


ゴブリン達は悔しいのか俺たちを見て騒ぎ立ててやたら威嚇をしてくる。


威嚇?対岸の俺達を…違う!


後ろを振り返るとこちらの岸にもゴブリンの群れがいた。川を挟んだゴブリンの威嚇だった。


「チッついてねぇな、おい!覚悟決めろ!飛び込むぞ!」


一行は偉大な滝を選択せざるを得なかった。



グラン・カスカーダの大滝に飲まれる直前、全員で手を繋ぎ覚悟を決めた。徐々にその時は近づく。


やがて浮力を失い本日2度目の落下体験


ドッボーン!  全員生存確認をする。



「ハァハァ…次から次に」

「ご主人、ハァハァあちらの岩陰に村が!」


アイリーンが指差す方向に岩に囲まれた村があった、ガヤルドの号令で全員死に物狂いで村に走る。


幸い友好的な村で大木の門を開けガヤルド一行の避難を受け入れてくれた。その日は全員泥の様に眠り、翌朝アイリーンは村人から知識を得てこの先に備えていた。


その時ガヤルドが外から帰って来た。助けてもらったお礼と小遣い稼ぎに大蛇の討伐を請け負っていた。自慢のハルバートを肩に担ぎもう片方の手で大蛇の頭を掴み引きずって来た。


「なぁアイリーン、しばらくここが拠点でも良いんじゃねーか?そんなに急がなくても」


「お言葉ですがご主人、我々は一刻も早く強くなる必要が有ります」


「あぁ…だな。そうだった、すまねぇ」

すぐ楽観的に考える悪い癖だとガヤルドは反省した。国境を越えたとは言えこの辺りはまだザハリア王国の影響も少なくドラゴニア王国の兵がウロついていても不思議では無い。生存率を高めるなら一刻も早くネクロサハル砂漠を超えザハリア領に入る事だ。


取り敢えず簡易的とは言え全員の武器と防具は揃えられた。装備としては心許ないが今は仕方ない。


アイリーンの話によるとザハリア王国迄はなるべく砂漠地帯を避けてサバンナ沿いに進む方が得策との事だが、かなり迂回をする事になる。砂漠を真っ直ぐ突き進み、万が一辿り着けた場合は約1ヶ月で到着するが、ど素人が砂漠で1ヶ月がそもそも不可能との事。砂漠の民でも難しくフル装備のキャラバンですら無事に砂漠を渡れる確率が60%程度らしい。迂回の果てに辿り着く村から砂漠に入った場合は7日後にはザハリア王国に入れる。


しばらくは砂漠との境界線アウレリア大草原を進み次の村を目指す。道中獲物や魔獣を狩り、村でクエストを引き受け、また次へ進む。


そして17の村を経由してザハリア王国に辿り着いた時には半年が過ぎていた。


「ご主人、お言葉ですが村を回る度に女に手を出すのはご遠慮下さい、世帯が大きくなるのは喜ばしい事ですが維持費も馬鹿になりません」


「うん、すまん」 ガヤルドは仁王立ちで複数の僕達(しもべたち)に着替えをしてもらいながら謝罪をする。


「アニキ絶対反省してないですよねw」


各地を巡礼するかのように周り現地で難易度の高いクエストを消化しながらの旅は彼らの名前を売るには十分な功績だった。


ドラゴニア帝国での手配所名【暴牛のガヤルド】はこちらでは無名だった。



ドラゴニアとザハニアに国交はほぼなく、断崖絶壁に阻まれ貿易も殆どなくお互い無関心と言った所だ。そんな遠い異国の手配書などギルドも扱っておらず、仮に賞金首を上げてもわざわざドラゴニア帝国まで首を持っていかないと賞金が出ない。


ザハニアに生きて辿り着けるかは半々だったがこうして無事辿り着け、新たなスタートを切ることが出来そうだった。



「しっかし美人の多い国だなオイ」


「ご主人様、これ以上増やすのであれば軍団の拡張を先にお願いします」

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