お仕事で御座いますね?
——ラッキーハロルドの宿——
「で、一文無しになっタと?」
「あぁ、参ったよ」
無一文で路頭に迷っている時にスパイクとバッタリ出くわしたので事情を話してメシをオゴって貰っている。
「取り敢えずパパッと稼げる案件って何か無いかな?」
「ダンジョンは無理だナ、となると賞金稼ぎダな」
賞金首の俺が? それじゃあミイラ取りがミイラに…違うか、その例えだと賞金稼ぎが賞金首になったって事になるから俺の場合は【ミイラがミイラ取りになる】になるのか。何だそれ?
賞金稼ぎの半数は本人も賞金首らしい。ロクな世界じゃ無いのは察しが付く。しかし背に腹は変えられないので翌日賞金首掲示板を覗きに行く事にした。勿論今日は、いや当分野宿だ。
——冒険者ギルド——
カルデモ共和国のギルドは大きさ、規模、設備など全てに置いてドラゴニアより数倍上回っている。クエスト掲示板も全てジャンル分けされており賞金首は1番端の掲示板だった。
張り出されている賞金首の数は膨大で、さらに居場所が明確、不明確で分かれている。
え、じゃあ居場所が明確な方に行くんじゃ無いの?と思うがそれは違う。【弱いから逃げ回る】が正しい認識だ。居場所が明確なのにそこにいれるやつは動く必要がない、返り討ちに出来るって自信があるんだろう。
てか、このクエスト掲示板端っこにあるし陰気臭いしやっぱりあまり関わりたく無い世界だな。早々にパパッと見て回ったが残っているのは金貨10枚以上ばっかりだ。やっぱお手頃な首は先に取られちゃうんだね。
そう考えると俺もアイツもまだまだお小遣い程度の実力って事かな? それとも初めてにしちゃあ高額な部類なのかな?
色々見て回ったが俺がやれそうな条件のを1つ見つけた。金貨35枚の
麻薬王【ドン・キメセック】暗殺
コイツは麻薬密売で儲けた金で古城を買い取り、そこから出てこないらしい。多分だけど城の1番見晴らしのいい安全な所に居るような気がする。もしそうなら俺には恰好の的だ。ボスが城の上の方に居るのは定番だしね、居なかったら帰ればいいだけだし見るだけ見に行こうと思う。
そして受付で公開情報と似顔絵を貰った。
——キメセック城付近——
城付近の1番高い木の上
「えーっと…お!ラッキーw」
幸いと言うか案の定と言うか予想通り城の1番見晴らしの良いところでパコパコしてる最中だった。
音がしたら光が反射しない様にお気に入りの革製品装備は殆ど置いてきた、有るのは靴と腰のホルスターくらいかな?それ以外は黒い布の服装だけでやってきた。
目も髪も翼も黒いのでオールブラックな出立ちは正に悪魔の使徒っぽいかも。
「さてさて、えーっと確か…」 カサカサ
メモを広げて仕事の再確認、何せ初仕事な訳だし賞金稼ぎとか暗殺とか初めてだから窓口で色々聞いておいたんだよね〜。一応冒険者学校で対人戦の基礎は習ったけど、地方によって細かいルールが色々あるからメモに取っておいた。
・無理に首を持って帰る必要は無い
・首を置いて帰る場合自身のマークを置いて帰る
・首の代わりに本人と分かる品を持って帰る
マークは事前登録したもので無いと受け付けて貰えず殺害証明になりにくい。俺はその時手ブラだったので仕方なくピッと1枚羽を抜いて【黒い羽】をマーク登録した。
その他の殺害証明は剣での殺傷痕、炎系魔法の貫通痕を登録した。
この【黒い羽、×型刃物の殺傷痕、炎魔法の貫通痕】の内2つが現場に有ればターゲットの首が無くても俺と認めてもらえ賞金が支払われる事になる。
キメセックは城の中でも更に高い塔に居る。そこへ通じる一本道は手下がガッチリ守っているんだろう。ワンルーム位の広さの塔のてっぺん、醜い豚が汗だくで腰を振る様は見ていて笑いそうになる。視界に入らない様更に上空から接近しフワリと背後に着地、女は四つん這いにさせられていて、キメセックも向こうを向いている。
えーっと、このまま撃てばキメセックを貫通して女にも当たりかねないな、あんまり関係ない奴を殺りたく無いし、無理やり連れてこられてるだけかもしれないしね、じゃあ横から眉間を…
ドゥン! カクカクカクカク…バタ
驚いた事に脳天をブチ抜いた後4秒くらい腰を振り続けていた。ここまで来ると見上げたもんだな。
女がコチラに気付き呆然と俺を見る。
シィーーーっと人差し指でジェスチャーをすると女はコクコクと頷く。
羽を1枚抜いて胸の上に置いて。魔法の貫通痕はあるが念の為顔に大きくバッテンに切っておく。さて、コレで良いのかな? てかチョロ過ぎんか?コレで金貨35枚も貰えんの?
まぁでも地上の城の外から侵入からスタートだと確かに難易度MAXか、今回の成功は翼ありきだしな。
しかしこのまま帰ったら現場を見た手下が女を殺してしまいそうだな。じゃあ今の内に手下に知らせに行かせた方が良いかな? 手下が俺の姿を確認した後に飛び去るとするか。
「女、行け」 しっしっ
と手を振って追い払う。その後すぐに手下が階段を駆け上がって来たので後ろ姿を見せながら悠々と飛び去り夜の闇へ消えて行く。
翌日、号外が町中にばら撒かれた。
———号外 3大勢力の一角墜つ———
あの悪名高き麻薬王ドン・キメセックが暗殺された。この事件を皮切りに燻っていた勢力が縄張り争いを始めた。マフィアの勢力バランスが安定する迄の間、治安の悪化を防ぐ為各地に治安維持部隊の騎士が派遣される予定、また上院理事会は次の新たな麻薬王誕生を防ぐ為、今回の暗殺者と面会希望の意向を示す異例の事態となった〜〜〜〜〜
ブーーーーーッ!!!! コーヒー吹いたわ
大事になってるやん。上院理事会って政府って事だよな?面会希望? おいおいおい、どんな顔して賞金を受け取りに行けば良いんだよ…




