行ってらっしゃいませ
「え!? 冒険に出るの?」
突然の報告にイーヨに驚かれたが「じゃあ準備しないとね」とアレコレ用意してくれた。
もしかしてガヤルドに会いにいくのでは!?と思われベルリネッタも付いてこようとしたが何とか説き伏せた。
俺もこのアルゴノーツ領の仕事を手伝っていたので誰か探して来て穴埋めをと思っていたが、丁度アルゴノーツ領の噂を聞きつけた隣の領民が移住希望をして来たので受け入れる事にしたらしい。新たに人も増え領地運営はまずまずのスタートと言える。
ただ、商会の方は細々としたギリギリの運営で原因は分かってる。素材の仕入れはもちろん冒険者である俺が担当なのだが、【翼】の封印&魔剣【Evil Twin】の封印だ。
そうすると俺はただの人に成り下がり学校時代の様な捕獲難易度の高い獲物なんて狩れるワケが無い。幸い貯金はかなりあったのでここまでやってこれたが、このペースだと後1年で貯金も底を付いていただろう。
空を飛ぶ俺に取ってチェーンメイルやプレートメイルは著しく機動性を失うので革製の装備が重量限界だ。2丁拳銃の様に両方の腰にホルスターを付けそこにエヴィルツインを収める。基本的にはミドルソードとショートソードとして使用するが、勿論銃としても使う。切って撃ってするので正規の形や構えでは無く完全なオリジナル戦法だ。その他投げナイフやポーションなどを装備、イーヨが最終チェックも兼ねて装備を手伝ってくれる。
「前みたいに翼全開で戦うんだね」
後ろのベルトを調節しながらイーヨが語りかけて来た。顔は見えていないが声色は少し寂しそうに聞こえる。
「ああ、ガヤルドの近況聞いたら今の俺がバカらしくなってなw」
「良かった、エンツォ伯爵の件からショウ君元気無かったからさ…よしっ!出来た!前みたいにガンガン稼いでウチの商会盛り上げてよ!期待してるからね!」
バンッ!と背中を叩かれて応援された。
名残惜しさを後に翼を翻し空へ羽ばたいた。上昇気流を探すこの感じも久々だ。向かい風に当たり少し上へ、今度はサッと逆を向いて風に乗り急加速してまた反対を向いて向かい風に当たり…
繰り返し旋回しながら上へ上へ
忘れていた感動が再び胸を打つ
遥か下にポツンと見える2人に大きく手を振りアルゴノーツ領を後にする。目指すは商業都市カルデモ共和国の遺跡群、先ずはあの時の続きを再開しよう。
———カルデモ共和国———
ミストニア大森林に点在する遺跡群を目にすると興奮が蘇る、流行る心を落ち着かせながら通過して先ずはカルデモ共和国を目指す。
堅牢な城壁が聳え立ち検問所が10個も設置されている。まるで国際空港のゲートの様に大人数を捌くための設備だ。地上に降り立ち俺も列に並ぶ。
「凄いな、人種のるつぼだな」
多分コレが本当の多様性だろう、地球で言う多様性とはまるで比較にならない。 てかかなりジロジロ見られるんだが…
「なぁ、あんた今飛んでたよな?」
俺の前に並ぶトカゲが話しかけて来た。光沢のあるマリンブルーの鱗に全身覆われているリザードマンだ。この色は初めて見た!動くと色合いが変わるマリンブルーベースのマジョーラで思わず見入ってしまった。
「何だあんたリザードマンは初めてか?」
「いや、すまない。ドラゴニアから来たからよく知ってるけどこの美しさの鱗は初めてで魅了されたよ、まさかチャームとか掛けてないよな?」
「上手いね〜w 俺はスパイクだ、アンタは?」
「ショウだ、よろしくなスパイク」
軽く握手を交わす。
「それよかドラゴニア人が飛べるなんて聞いたナイゾ?」
「あぁ、俺だけだw ドラゴニアは腰掛けで出身はパンゲア大陸じゃ無いんだ」
「へぇー!あっちの大陸人とは珍しい!こっちじゃ有翼人種なんていないからジロジロ見ちまったヨ!しかもマントに変わったじゃ無いカ!」
そんな事を話していると赤毛の熊みたいな大男3人が俺達の横をすり抜け前の方へ割り込みをした。が、誰も咎めないのは恐らく実力者なんだろう。と、思っていたらワニの顔の…クロコダイルマン?が怒り出した。スパイクは美しいトカゲって感じで小顔だがクロコダイルマンは大袈裟じゃなく3頭身でとてつもなく顔がデカい。鱗も硬そうでゴツゴツしているしゴリゴリマッチョだ。
「ウシロ、ナラベ」
大きい牙のせいか話すのは苦手そうだ。スパイクもちょっとだけ話しにくそうな所があるのがわかる。
「ウルセェなワニ野郎が、俺とや」 バクン
ドタッ…
びびびひっくりしたぁ!熊男の首から上が無くなった。クロコダイルマンがゴクンってしてる。残った2人はサッサと逃げていった。
こっわ〜〜! そしてまたコレを誰も気に留めてないのがまた…
【いつもの事か】みたいな感じでスパイクが少し肩をすくめて俺を見た。
「ようこソ冒険者の街カルデモへ」




