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「突撃ぃーーー!皆殺しだーー!!」
怒り狂ったエンツォ伯爵の号令と共に左右の弓兵20人が弓を仕掛け、50人の先兵が隊列を組んで突撃してきた。伯爵邸にあった飾りのラウンドシールドで弓矢を防ぎ10人毎の隊列の兵を薙ぎ倒して行く。
奥に控えるは騎士10人、騎馬10人、魔法兵10人。
場は乱戦にもつれ込み最初の隊列はガヤルドにあっさり薙ぎ払われた。噂に違わぬ凄まじいガヤルドの戦力、しかし伯爵陣営に動揺の色は無い。彼らは訓練された戦争のプロ達、また国内の魔獣退治など日常茶飯事だ。ガヤルドを魔獣に見立てたとしてもせいぜいがロックドレイク程度。
エンツォ伯爵は号令をかけ尖兵を3方向に分かれさせガヤルドを囲む。次の号令と共に盾兵が前に出て隙間から槍を差し込んでくる。ゆっくりでも確実に追い込み最後に勝てばそれでいい。
ガヤルドはこん限り暴れ回るが盾に阻まれ決定打に欠ける。その隙を槍で突かれ少しづつ命を削られる。
まさに数の暴力。
ガヤルドは大物1匹を相手にする戦い方、いわゆる【タイマン】に置いて負け知らずだった。毎日タイマンでの討伐を数回繰り返していた。このような軍隊相手の戦いなどは勿論初めてだが、所詮は人程度ならと舐めて掛かっていた。 息が上がり、流血が増え、コチラの攻撃は余り効かない。
「ハァハァ…なるほどな、こりゃあ大いに反省だな」
つい先程生まれた夢は叶いそうに無い。先日の生まれて初めての恋も終わりそうだ。せっかく仲間が出来たのに巻き添えにしてしまった。色んな後悔が頭の中を駆け巡る。特に心残りは
「あぁ、せめてアイツには勝ちたかったなぁ…」
その瞬間ショウとの思い出が鮮やかに甦る。ルームメイトになった事。赤の他人なのに大金を建て替えて救ってくれた事。足の仇を打ってくれた事。足を与えてくれた事。とんでもない武器をくれた事。
その時急に視界がボヤけ出した、慌てて振り払おうとするが何故か視界が確保出来なくなった。
「クソッ! 油断した!視界が!デバフを受けたみたいだ!」
「ご主人様…それは涙です」
ガヤルドは知らなかった、これが涙だとは。拭っても拭っても止めどなく溢れてくる。
「そっか…どんどん出てくるんだなこれ、ダメだ止められねぇやw」
それを見たアイリーンも我慢の糸が切れたように泣き出した。ランボも泣き出した。
その時 バフォッ!!!! ドフッ!!!
「ぐわ!」 「うわぁ!」 ゴロゴロ
エンツォ伯爵陣営の騎士、騎馬、弓兵が全て横へすっ飛んで転がって行った。 場が騒然とし物凄い土煙の中から漆黒の翼を携えたフード姿の男が立っていた。
後ろを取られた尖兵達は陣形を崩したがすぐにフード男に襲いかかる。しかし盾兵が居ないのでバタバタと切られ…ている訳ではなく、至近距離で魔法を撃たれていた。
ドウン! ダンダン!! ドゥン!
両手に持ったミドルソードとショートソードから炎が吹き出し敵を次々倒して行く。
「おい、ボサッとしてないで手伝え!」
聞き覚えのある声で怒鳴られガヤルドに活力が戻る。アイリーンも。ランボも。
形成が逆転したが騎馬や騎士が持ち直しそうになってきている。
「こっちだ!屋敷の裏手に回れ!」
彼は翼を翻し逃げ道へ先導し、全員そちらへ向かって全速力で走り出した。
「お前いっつもピンチだなw しかもここ貴族の屋敷じゃねーかよw ホント無茶苦茶だなw」
「いやーアイリーンに止められてたのに伯爵令嬢に手ェ出しちまってよw 朝起きたらご令嬢に角生えててバレちまったよw」
「バッカおまwww やめっwww」
屋敷裏手の城壁まできた。
「ガヤルド、ここぶっ壊して下に飛べ、川が流れてるからそのまま隣の国まで流されとけバカ牛がw」
お互い笑顔でいるがもう分かっている、ここでお別れだと。
「またな兄弟」
「あぁ、またな」
そのまま川へ飛び込み流れて行くガヤルドの姿を見送ると不思議と涙が出てしまった。




