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お客様、小さな一歩で御座いますね

【期待の大型新人ガヤルドチームが在学中にロックドレイクを討伐】


翌日の新聞の見出しにデカデカと記載され街中がザワつく程の騒ぎになっていた。



冒険者ギルドもちょっとした騒ぎで買取業者や商業ギルドが朝から押し寄せ対応に追われている。

食堂には身なりの良い貴族の関係者?多分家来か何かがガヤルドに群がり屋敷への招待状を渡している。



それを横目に俺とイーヨ、ランボとアイリーンは数量限定のハニートーストを頬張りながら遠巻きに見ていた。


「凄いよねガヤルド君!ロックドレイクの首を上げちゃうんだもんね」


「だろ?へっ!さすがアニキだぜ」


アイリーンは思うところがあるのか手放しで喜べないでいる様だ。



「それにしたってロックドレイクの首を一撃で落とせる剛腕って反則だよな? ルームメイトとしてはガヤルドに随分差を付けられた感じだな」


ランボとアイリーンの手がピタリと止まった。

え、なに? 何か怒ってる?


その時

「おい!アイリーン! こっち頼む!」

貴族の対応に困り果てたガヤルドがアイリーンにヘルプを出した。主の呼び掛けに彼女は食べかけのハニートーストをランボに譲り席を立つ。

アイリーンはサッと笑顔を作り速やかに対応していく。しかし流石子爵令嬢、立ち振る舞いが堂に入っている。


予期せぬハニートーストの追加に喜ぶランボは棚ぼたに食らいつきながらも話してきた。


「てかショウ、お前翼があるんだな」


別に隠してる訳じゃ無いがそう言えばガヤルドとイーヨにしか見せてなかった。普段ガヤルドとは別行動だからランボやアイリーンは知らなかった様だ。

そう言えば昨日この2人は驚いてか疲れてかあんまり喋りかけてこなかったっけ。



朝食後はいつもの座学を終え午後は自主トレの時間だ、しかしイーヨに呼ばれているので部屋を訪れると何やら深刻な顔つきだった。


「あの、預かってた素材の事なんだけど…ごめんワケがわからなくなっちゃって」


「ワケがわからなく? いや俺もワケがわからんのだが?」


とにかく見てくれと右のポケットミミックから魔剣を取り出したところ…


「何だコレ?!」

見ると魔剣に全部の素材が融合? みたいな感じで溶け合い合体していた。 


左のトレジャーボックスから出て来た素材は無事だった。



「右は威力に使えそうな素材、左に連射に適応しそうな素材って感じで分けてたんだけど、右のだけこんな感じで混ざっちゃって…ゴメン」


「いやいや、別にお前は悪く無いだろ? 別に素材が無くなったワケじゃ無いんだからいいじゃんか」



原因は何となく分かってる。


【コールドウェルディング】(冷間溶接)

基本的に金属表面は、空気中の酸素と反応して生成された酸化被膜(保護膜)で覆われている、それを真空状態にすると酸化被膜が除去され、その状態で金属同士が直接接触すると金属原子同士が直接結びつくことで金属同士が固着、融合してしまう「コールドウェルディング」という現象が発生する。これは完全な真空状態での宇宙空間特有の現象だ。



全く私生活で役に立たない知識だけは持っているのがオタクってもんだ。メイド喫茶で鼻高々に早口でコレを語るためだけに覚えたんだぜ?



原因は完全な真空状態のポケットミミックにあった訳だが、まぁなってしまったモノは仕方ない。

ただ、融合が半端だったので【もうやっちゃえよ】って事で威力と連射の素材別で完全融合をやる事にした。


結果とんでもない事になった。通常金属を加工するのは熱を使うか錬金術を使うか。この元魔剣(現在は金属の塊)は熱では全く歯が立たなかった。


なのでイーヨの商会でお世話になっているスミス(鍛冶職人)のドワーフに持って行った所、手に負えないと。


錬金術にはそれぞれ鉄とか土とか銅とか得意分野が有るらしい。魔剣となると複数のスミスで事に当たらないと加工出来ないらしい。それを【魔剣メガ盛り&希少金属マシマシトッピング】なんて解析からしないと何も出来ないとの事。それが2つ。しかもこの世界にない武器を造ろうとしている。



「どんどん遠ざかるやん…」

まるで物欲センサーに感知されたURガチャの如くだ。


「ショウ君!それはつまり前人未到の領域、唯一無二の存在が手にする至高の一品だよ!ガヤルド君の武器にも引けを取らないアイテムだよ!」


ガヤルドにも負けない…イーヨの励ましは折れかけた心を奮い立たせてくれた。あの時とは逆だな。



「だな、よし! で、どうしたら良い?」

「もう手は打ってあるよ。ドワーフの住む本拠地【キルギス山脈】のブラックスミス【ゴディバ】さんに手紙と素材を渡して欲しいんだ、ウチのスミスのお師匠さんだってさ」


「てかいくら掛かるんだコレ?相当な金額になるんじゃ無いのか?」


先日のトカーツから巻き上げた金はガヤルドと半分こした。ガヤルドが取られた金貨11枚を差し引いて半分にするつもりだったがアイツは遠慮してひっくるめて半分こになった。なので金貨30枚、手元にもう少し有るがその程度じゃ普通魔剣は買えない。最低でも金貨100枚は出さないと魔剣は手に入らない。魔剣素材の加工なんてもっと高いと思う。



「ガヤルド君がロックドレイクの独占権をくれたから資金はかなり潤沢に使えるんだよ、何かハルバートのお礼だって言ってたよ?」


「アイツも義理堅いな〜、でもそれってお前ん家の商会の売り上げだろ?」


「ううん、僕は僕で個人商会を立ち上げたんだ。冒険者の適正があんまりだったからさ、親には怒られるだろうけどもう商業ギルドに登録したんだ。やったもん勝ちでしょ?」


イタズラっ子の様にはにかむイーヨは本当に楽しそうだった。そんな顔されると何だか俺まで楽しくなってきたじゃ無いか。

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