第八章 饒速日の使命
鷲峰山の重圧
鷲峰山の皇居、夜の帳が下りる。松明の炎が大広間の石壁を赤く染め、祭壇には米と塩が供えられている。天照大神は、熊野久須毘の死で心を痛め、長男・天忍穂耳に皇統継承を迫る。だが、彼は静かな眼差しで拒む。窓から吹く風が、宮廷の静寂を揺らす。
「母上、久須毘の死は私の心を折った。皇統は担えぬ」と天忍穂耳が低く言う。
「そなたが拒むなら、笠は滅ぶ! 出雲が迫るのだ!」天照が声を震わせ、祭壇の米を握りつぶす。
高木神が穏やかに進言する。「大日孁貴、天忍穂耳の長男、饒速日がいる。彼の目は、神々の光を宿す。」
「饒速日…あの若者にこの重荷を? 耐えられるのか?」天照が目を伏せ、松明の影に顔を隠す。
臣下が声を上げる。「饒速日様は若いが、素戔嗚様の気魄を継ぐ! きっと出雲を抑えられる!」
民が広間外で囁く。「饒速日様、どんな男だ? 天照様の悲しみを癒せるか?」
天照は祭壇に額を付け、呟く。「神々よ、兼と久須毘を奪ったなら、饒速日を導きたまえ。」
饒速日が召喚され、広間に進む。若々しい顔に決意が宿る。「祖母上、笠を守る。神々の意志に従う!」
神宝の試練
翌朝、鷲峰山の神籬で、十種神宝の授与儀式が準備される。朝霧が山を覆い、鳥のさえずりが森に響く。祭司が祝詞を唱え、民が集まる中、天照は饒速日に鏡、剣、玉など十種類の神宝を渡す。宝物は朝日に輝き、神聖な気が漂う。
「饒速日、この十種神宝は神々の彌徴。そなたに日本を託す」と天照が厳かに言う。
饒速日は剣を握り、「祖母上、この宝で笠と出雲を一つに! 民を戦から守る!」と誓う。
高木神が微笑む。「若者よ、そなたの心は素戔嗚に似る。だが、試練は重いぞ。」
臣下が囁く。「十種神宝…神々の力が宿る
。あれなら大国主も膝を屈するかも。」
民が歓声を上げる。「饒速日様、万年栄えあれ! 笠に平和を!」
若い女が言う。「饒速日様、気高くて美しい…まるで神々が舞い降りたみたい!」
饒速日は宝を胸に抱き、思う。「素戔嗚、俺はそなたの魂を背負う。失敗は許されぬ。」
祭司が最後に叫ぶ。「神々よ、饒速日を導きたまえ! 日本に光を!」
出雲への使者
饒速日は32人の随臣を率い、出雲へ和平の使者として旅立つ。初瀬川を下る船は、夕陽に照らされ、水面に黄金の道を映す。饒速日は船首で剣を握り、大国主との対話を考える。随臣たちが櫂を漕ぐ音が響く。
「大国主は出雲の誇りだ。力では屈せぬ。和平の道は姫にある」と饒速日が呟く。
随臣のリーダーが言う。「尊、天道日女命は大国主の宝。彼女の心を掴めば、和平は近い。」
船頭が笑う。「海は穏やかだ。神々が饒速日様を応援してるぜ!」
若い随臣が囁く。「大国主、簡単に娘をくれるかな? 出雲は頑固だぜ…。」
饒速日は海を見つめ、「戦いは民を傷つける。天道日女命の心を得て、日本を一つに」と決意する。
出雲の港に近づくと、民が岸で叫ぶ。「笠の使者だ! 饒速日様、ようこそ!」
饒速日は上陸し、思う。「ここで和平が決まる。神々よ、俺に力を。」
天道日女命との対話
出雲の集落、櫛名田姫の家の広場。桜の木が春風に揺れ、花びらが舞う。大国主、素戔嗚、櫛名田姫が饒速日を迎える。天道日女命は青い衣をまとい、気高く立つ。彼女の目は鋭くも温かい。
「饒速日、笠の若者か。何を求め出雲に来た?」大国主が低く問う。
「戦いは無意味だ。貴方の娘、天道日女命を娶り、笠と出雲を結ぶ」と饒速日が答える
。
天道日女命が微笑む。「和平を言うなら、誠意を見せなさい。
出雲の民は誇りを愛する。」
「姫、俺は出雲を敬う。そなたと共に日本を平和に導きたい」と饒速日が手を差し出す
。
素戔嗚が笑う。「この若者、俺の若い頃を思い出す。姫、信じてもいいぞ。」
櫛名田姫が囁く。「天道日女命、饒速日の心は清い。出雲の未来を託せるわ。」
出雲族が広場で囁く。「笠の男と我が姫? 大国主様、許すのか?」
饒速日は姫を見つめ、「そなたの心を得れば、日本は一つになる。俺を試してくれ」と誓う。
和平の婚姻
出雲の神籬で、饒速日と天道日女命の結婚の儀が行われる。桜の花びらが舞い、太鼓が響く。民は酒と歌で祝い、素戔嗚と櫛名田姫が微笑む。大国主は渋い顔だが、娘の幸せを願い、頷く。
「饒速日、娘をやる。だが、出雲を従属させるなら許さぬ」と大国主が言う。
「大国主様、笠と出雲は対等だ。共に繁栄を誓う」と饒速日が答える。
天道日女命が手を握り、「尊、貴方の志は私の心を動かした。共に日本を築くわ。」
素戔嗚が杯を掲げ、「若者、いい姫を得た
。」
民が叫ぶ。「饒速日様、天道日女命様、永遠に栄えあれ! 出雲と笠に平和を!」
若い女が囁く。「こんな美しい夫婦、見たことない! 戦争が終わるよ、きっと!」
饒速日は姫と肩を並べ、思う。「この縁で日本が変わる。神々よ、俺たちを守れ。」
鳥海山の誓い
饒速日は天道日女命を伴い、秋田の鳥海山へ巡行する。山の頂は雲に覆われ、岩場に神聖な気が漂う。随臣が松明を掲げ、道を切り開く。山の民が饒速日を迎え、供物を捧げる
。
「この鳥海山で神々に誓う。日本を一つに!」饒速日が岩に立ち、剣を掲げる。
天道日女命が言う。「尊、貴方の声は神々に届く。鳥海山が我々の証人よ。」
随臣のリーダーが叫ぶ。「饒速日様、日本を統一する王だ! 俺たちが支えるぜ!」
山の民が囁く。「笠の若者と出雲の姫…この二人なら日本を変えるかも。」
饒速日は神籬に跪き、祈る。「神々よ、笠と出雲を結び、民に平和を。」
夜、星空の下で天道日女命が言う。「尊、私も戦いを終わらせたい。貴方とならできるわ。」
饒速日は姫の手を握り、思う。「姫、そなたと共に日本を一つにする。必ずだ。」
九州への旅
鳥海山を下り、饒速日は九州へ向かう。大山祇命の領地では、海が青く輝き、椰子の木が風に揺れる。大山祇命は老いた戦士の風格で饒速日を迎える。
「饒速日、そなたの志は本物か? 日本を一つにするだと?」大山祇命が目を細める。
「神々の意志だ。九州も笠も出雲も、一つの国に」と饒速日が答える。
「ならば、娘をやる。同盟を結ぼう」と大山祇命が笑い、杯を差し出す。
「姫は私の弟邇邇芸に。」
天道日女命が微笑む。「尊、九州の民も貴方を信じる。私も力を貸すわ。」
随臣が叫ぶ。「饒速日様、九州まで従えた! 日本は一つになるぜ!」
九州の民が囁く。「この若者、気魄がすごい…出雲の姫も美しいな。」
饒速日は海辺に立ち、思う。「大山祇命の力、姫の心…これで日本は変わる。」
日下の命名
饒速日は東大阪の日下に到着。生駒山が朝霧に包まれ、平野は稲で黄金に輝く。民が集まり、饒速日は岩場に立ち、新たな国の名を宣言する。
「この地を日ノ本と呼ぶ! 笠、出雲、九州、全てを一つに!」饒速日が剣を掲げる。
天道日女命が言う。「尊、貴方の名は神話になる。日ノ本は永遠に輝くわ。」
随臣が叫ぶ。「饒速日様、万年栄えあれ! 日ノ本に栄光を!」
民が歓声を上げる。「戦争は終わる! 饒速日様と姫様、最高だ!」
若い男が囁く。「笠と出雲が一つに…こんな日が来るなんて、信じられねえ!」
饒速日は姫と並び、思う。「素戔嗚、祖母上…この統一はそなたらの魂の結晶だ。」
夕陽が日下を赤く染め、日本の新たな時代が幕を開けた。
和平への試練
日下の集落で、饒速日は出雲と笠の和平を固めるため、素戔嗚と再会する。川辺の桜の下、素戔嗚は饒速日に杯を差し出す。
「若者、よくやった。だが、大国主の心はまだ硬いぞ」と素戔嗚が言う。
「素戔嗚様、貴方の力を貸してほしい。出雲と笠を完全に結ぶ」と饒速日が訴える。
天道日女命が言う。「父上、尊の志は本物よ。出雲も笠も、共に平和を。」
素戔嗚が笑う。「替矢姫もそなたらを応援するだろう。俺も力を貸すぜ。」
民が囁く。「素戔嗚様と饒速日様…この二人がいれば、日本は安泰だ!」
饒速日は川を見つめ、思う。「和平は近い。だが、神々の試練はまだ終わらぬ。」