第七章 出雲との対立
ダンノダイラの談判
ダンノダイラ、深い谷を見下ろす岩場。熊野久須毘は大国主と対峙する。風が木々を揺らし、遠くで川の音が響く。笠からの使者として、熊野久須毘は和平を求めるが、大国主の目は鋭い。
「大国主、笠と出雲は争わず共存できる。手を組もう」と熊野久須毘が言う。
「共存? 天照は我々を従属させたいだけだ!」大国主が声を荒げる。
「母上の願いは平和だ。出雲の力を認めている」と熊野久須毘が訴える。
「認めるとは支配のことか! 出雲は自由だ!」大国主が拳を振り上げる。
出雲族が岩陰で囁く。「大国主様、笠に負けるな!」
熊野久須毘は一歩踏み出し、「争えば民が苦しむ! 考え直せ!」と叫ぶが、足元の岩が崩れ、谷底へ落ちる。民が叫び、鳥が飛び立つ。「熊野久須毘様!」
大国主は呆然と呟く。「神々の試練か…俺は戦いを望まなんだ…。」
悲報の届く笠
鷲峰山の皇居。松明の火が大広間を照らす
。天照は使者から熊野久須毘の死を聞き、膝をつく。祭壇の米が風に揺れ、夜の静寂が重い。
「我が子が…なぜ! 出雲が奪った!」天照が慟哭する。
高木神が静かに言う。「大日孁貴、事故だ。大国主の罪ではない。」
「事故だと? 出雲の野心が我が子を殺した! 許さぬ!」天照が拳を叩く。
臣下が進言する。「天照様、戦争を。出雲を従わせましょう!」
女官が囁く。「熊野久須毘様、可哀想に…天照様の悲しみは、計り知れない。」
民が広間外で囁く。「出雲と戦争か…笠は勝てるのか? 怖えな。」
天照は祭壇に額を付け、呟く。「兼、久須毘…そなたらを失い、私は何を支えに…。」
戦争の火蓋
笠の軍勢が動き出す。鷲峰山の麓で、兵士たちが槍と弓を手に集まる。朝霧が立ち込め、戦鼓が響く。天照は岩座に立ち、民に宣言する。
「出雲が我が子を奪った! 笠の誇りにかけて、戦う!」
「天照様の命に従う! 出雲を討て!」兵士が叫ぶ。
高木神が静かに言う。「大日孁貴、戦いは民を傷つける。素戔嗚を頼るべきだ。」
「弟だと? 彼も出雲に与した裏切者だ!」
天照が目を光らせる。
臣下が叫ぶ。「素戔嗚様は笠に戻った。和平の使者として使える!」
民が囁く。「戦争かよ…素戔嗚様、なんとかしてくれねえかな。」
天照は剣を握り、「出雲を討つ。神々の意志だ!」と声を上げる。
素戔嗚の葛藤
素戔嗚は笠の川辺で一人、川の水面を見つめる。替矢姫の面影と、櫛名田姫の笑顔が交錯する。出雲と笠の戦争の噂が彼の耳に届く。
「姉上、なぜ戦う? 姫の魂も平和を望むのに…」素戔嗚が呟く。
出雲からの使者が現れ、言う。「尊、大国主様が呼んでいる。笠と戦うなら、貴方の力が必要だ!」
「俺は出雲の民を愛する。だが、笠も俺の故郷だ」と素戔嗚が答える。
使者が訴える。「尊、選べ! 出雲か、笠か!」
「黙れ! 俺は民を守る道を選ぶ!」素戔嗚が一喝する。
民が川辺で囁く。「素戔嗚様、辛え立場だな…どっちにつくんだ?」
素戔嗚は水面に映る月に誓う。「姫、俺は戦いを止める。そなたの魂のために。」 シ
天照の決意
皇居の奥、天照は高木神と対話する。窓から見える鷲峰山は霧に覆われ、まるで神々の怒りを映すようだ。
「高木神、久須毘を失った。皇統を長男、天忍穂耳に譲るべきか?」天照が問う。
「天忍穂耳は高潔だが、皇統を拒む。孫の饒速日がふさわしい」と高木神が答える。
「饒速日…若い彼にこの重荷を?」天照が目を伏せる。
「彼なら笠と出雲を一つにできる。信じなさい」と高木神が励ます。
女官が囁く。「天照様、悲しみで心が…饒速日様、救ってくれるかな。」
天照は祭壇に立ち、言う。「神々よ、久須毘の魂を導け。笠は私が守る!」
民が外で囁く。「饒速日様、どんな男だ? 出雲と戦えるのか?」
戦雲の広がり
出雲では大国主が民を鼓舞する。港の広場で、漁師や農民が集まり、槍を手に叫ぶ。
「笠が我々を潰す気だ! 出雲の誇りを守れ!」大国主が叫ぶ。
「大国主様、俺たちがついてる! 戦うぜ
!」民が応じる。
櫛名田姫が大国主に訴える。「戦いは子らを奪う。尊なら和平の道を…。」
「姫、笠は我々を認めぬ。戦うしかない!」大国主が拳を握る。
出雲族が囁く。「素戔嗚様、戻ってきてくれよ…戦争、怖えよ。」
笠では兵士が動き、夜の鷲峰山に戦鼓が響く。素戔嗚は川辺で呟く。「姫、俺は何をすべきだ? 出雲と笠、両方を救いたい…。」
戦雲が日本を覆い、神々の試練が迫っていた。