第二章 大和への旅
伊勢白山道の行進
紀元前250年、飛騨高山の耶靡堆国は地震と疫病で混乱に陥っていた。8万4000人の民が伊勢白山道を下り、大和盆地を目指す。伊弉冉尊は子らを馬車に載せ、先頭で民を励ます。
「大日孁貴、月読、素戔嗚、新天地で国を築くのよ!」伊弉冉が力強く叫ぶ。
「母上、必ずや!」大日孁貴が目を輝かせる
。
素戔嗚は幼く、姉の手を握る。「姉上、道は遠いよ…怖い。」
「心配無用。神々が我々を守るわ」と大日孁貴が抱きしめた。
民の一人がつぶやく。「湖の地に何があるんだ? 飛騨を捨てるなんて…。」
伊弉諾尊が振り返る。「進め、民よ! 大和に希望がある!」
広海の出会い
大和盆地、広海と呼ばれる湖の地。秦家の長、三嶋湟咋が灌漑工事の現場で一行を迎える。湖水が海へ流れ、土地が開かれつつあった。
「この地は我が所領。皇居を建てるなら力を貸す」と三嶋湟咋が胸を張る。
「感謝する。共に国を興そう!」伊弉諾が手を差し出し、固く握る。
「湖の水を海に流し、田を広げる。もうすぐ都にふさわしいぞ」と三嶋湟咋が笑う。
臣下が伊弉諾に囁く。
「この男、信用できるのか? 湖の主を名乗るが…。」
伊弉冉が微笑む。「彼の目は誠実よ。神々が導いた出会いだわ。」
民の一人が叫ぶ。
「新しい都だ! 三嶋湟咋、頼むぜ!」
鷲峰山の新都
笠の鷲峰山に皇居が完成した。大日孁貴が天照大神として即位し、夫の八意思兼尊が政治を補佐する。民が集まり、祝いの儀が行われる。
「この国を平和に導くわ!」天照が岩座から宣言。
「私が支える。月読、出羽の国を治めなさい」と八意思兼が命じる。
「姉上の命、受ける!」月読尊が力強く頷き、北へ旅立つ。
民は歓声を上げる。「天照大神、万年栄えよ! 耶靡堆に栄光を!」
女官が囁く。「大日孁貴様、気高く美しい…この国は安泰だわ。」
素戔嗚は母に尋ねる。「姉上、すごいね。僕もああなれる?」
「そなたはそなたの道を進め」と伊弉冉が優しく撫でる。
素戔嗚の恋
数年後、素戔嗚は成人し、皇居の侍女、替矢姫と愛を育む。初瀬川の岸で二人は月明かりの下、語らう。
「姫、そなたの子に皇統を継がせたい。共に未来を築こう」と素戔嗚が囁く。
「尊、貴方の子なら喜んで…」替矢姫が頬を染める。
「姉上が許すかな…皇位は姉上のものだ」と素戔嗚が不安げに呟く。
「愛は神々の祝福よ。恐れず進みましょう、尊」と替矢姫が手を握る。
川辺の民が囁く。「素戔嗚様、侍女と恋? 宮廷が騒がしくなりそうだ。」
替矢姫が微笑む。「民の噂も愛の証。尊、私、幸せよ。」
迫害の兆し
素戔嗚と替矢姫の噂が皇居に広まり、天照大神の耳に届く。鷲峰山の宮殿で、天照が八意思兼に激怒する。
「弟が皇位を狙う気か! 侍女と子を儲け、皇統を乱すつもりか!」
「落ち着け、証拠はない。素戔嗚はまだ若い」と八意思兼がなだめる。
「許さぬ! 皇居から追放する!」天照が拳を握る。
使者が素戔嗚に告げる。
「天照大神の命だ。東の地へ移れ。」
替矢姫は涙をこらえ、「尊、私のせいで…貴方を巻き込んだ」と震える。
素戔嗚は抱きしめる。
「姫、俺が守る。どんな試練も共に乗り越える!」
民が陰で囁く。「素戔嗚様、可哀想に…天照様、厳しすぎるぜ。」
東の淋しい地
素戔嗚と替矢姫は皇居から追われ、大和の東の寂しい地に住む。木造の小さな家で、替矢姫が機織りに励む。
「姫、寒かろう。神々に祈るよ」と素戔嗚が薪をくべる。
「尊、貴方の心で十分暖かいわ」と替矢姫が微笑む。
だが、天照の使者が再び現れ、冷たく告げる。「素戔嗚、さらなる咎があれば国外追放だ。」
替矢姫が怯える。
「尊、私がいるから…私が天照様の怒りを買ったのね。」
「姫、俺はお前を選んだ。神々もそれを認めるさ」と素戔嗚が励ます。
夜、星空の下で二人は誓う。「どんな試練も、共に耐える」と。






