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目を瞑れ、絶対に開くな。俺が"もういいぞ"と言うまで」
大きな大人の手が目隠ししてくる。爪は血赤で長く鋭い。爪で傷つけないよう、手は数センチ手前で視界を遮っていた。まぶたを優しく撫でるように閉じさせられ、兄の手が私の手を掴み、耳を塞がせる。「耳も塞いでろ」。頭を自分の膝に押し付けられた。
直後、兄が離れ、ぬくもりが消えて急に寒気を感じた。塞いだ耳に聞こえる、布が擦れ合う音、打撃音、動き回る音。生き物の何かの臭い。やがて、「ぐぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」という断末魔の声とともに静寂が訪れた。
「……もういいぞ」。兄のいつもの声が降ってきて、目を開けると兄はもう人間の姿に戻っていた。黒髪で切れ長の目は人間らしい色合いだが、顔は血塗れだった。「あたま……血が」「大丈夫。頭の傷は派手に見えるから」と兄は誤魔化した。私はただうなずくだけにした。兄のいつもと違う余裕のない雰囲気が別人になったようで接するのが嫌だったのだ。




