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しかし、いくら待っても痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると──「!……しぃ兄!!」
鉄錆びの臭いでいっぱいだ。兄の血が髪から滴っている。こちらを襲う化け物たちが「そいつを寄越せばお前は助けてやるぜ」と嗤う。「断る」と答えた兄の口からは、兄とは違う声が聞こえた。陽炎のようによく知った姿が揺らぎ変わってゆく。
目にしたのは光に透ける金の髪、冷たく無表情な美しい顔、黒い白目に薄碧の瞳、そして頭に二本の角。敵を切り裂く真っ赤な爪を持つ、鬼。
それは大好きだったアニメ『clear CLEAR』のキャラそのものだった。週刊少年漫画の人気連載作品で、ジャンルは現代ファンタジー異能バトルスリラー。主人公のユウとレイが、同級生の澪音の妖魔退治に遭遇し、ダークシリアスな世界に関わっていく物語。私が好きだったのは、6話から登場する上位妖魔鬼「し天」こと"透乃柊士"だった。
……兄さんと名前、一緒……。
物語中、し天は巫澪音に使役されることを拒みつつも、最終的にユウたちと友情で結ばれる。確か66話で彼は妖魔鬼の姿に転変化できるようになる。
「……妖魔鬼"し天"……」ぼそりと呟き、鬼形態の兄を見たが、兄は微かに目を瞬いただけで何も言わず、静かに見つめ返してくれたが、直ぐに視線を外した。




