7月の教室、君と向き合った試練
蒼人と空は初めての試合を終え、サッカー部での絆をさらに深めていた。試合でのパスやハグを通じて、蒼人は空への恋心を「本当に好きだ」と自覚し、空もまた蒼人との時間を大切にしていた。しかし、そんな二人の関係に、思いがけない試練が訪れることになる。
月曜日の朝。週末の試合の余韻に浸ってた蒼人は、いつも通り教室に入った。空はすでに席についていて、蒼人を見つけると元気に手を振った。
「ソ:おはよー、アオ! 試合、楽しかったな! 今日も部活頑張ろうぜ!」
「ア:おはよう…うん、楽しかった。ソラ、試合後の筋肉痛は?」
「ソ:はは、ちょっと痛いけど大丈夫! アオは?」
「ア:俺も…でも、ソラと一緒なら頑張れるよ」
二人が笑い合う中、クラスメイトの佐藤がニヤニヤしながら近づいてきた。佐藤は試合当日、サッカー部の応援に来ており、試合後の蒼人と空がハグしてる場面を直接目撃していた。
「サ:お前ら、試合の後、めっちゃイチャイチャしてたな! 俺、しっかり見てたぞ。やっぱりBLカップルだろ?」
「ソ:バカ言うな! 俺ら、友達だよ! 普通だろ!」
空が笑いものにするけど、佐藤はさらに話を煽るように続けた。
「サ:いやいや、俺、試合後の2人がハグしてるの見たんだから! あれ、絶対ただの友達じゃないって。クラスのみんなにも話してきちゃった!」
蒼人は顔が熱くなり、俯いた。佐藤の軽いノリが、嫌な予感をさせた。試合の日に佐藤がいたことは覚えていたが、まさかそんな風に見られていたとは思わなかった。
朝のホームルームが始まる前、クラスの雰囲気がいつもと違うことに蒼人は気づいた。女子生徒たちがひそひそ話をし、時々蒼人と空の方を見ては笑っている。蒼人が不思議に思っていると、廊下から騒ぎが聞こえてきた。クラスメイトの一人が慌てて教室に入ってきて、叫んだ。
「生徒:大変だ! 学校中にビラが貼られてる! 蒼人と空がBLカップルだって書いてあるんだって!」
クラスが一気にざわつき、蒼人は凍りついた。空も目を丸くして立ち上がった。
「ソ:は? 何それ? 誰がそんなことしたんだよ!」
蒼人は動揺しながらも、佐藤の方を見た。佐藤は「俺じゃないって! 俺はクラスのやつらに話しただけだよ! でも…試合の後、見たからさ…」と慌てて弁解した。蒼人の心臓が激しく鼓動し、手が震えた。BLカップル、なんて。自分の気持ちはまだ空に伝えていないのに、こんな形で晒されるなんて。
蒼人と空は廊下に出て、ビラを確認しに行った。校舎の掲示板や階段の壁に、「サッカー部1年の山崎蒼人と星野空、BLカップル確定! 試合後のイチャイチャが証拠!」と書かれた紙が何枚も貼られていた。字はパソコンで印刷されたもので、誰がやったのかはわからない。生徒たちが集まってきて、クスクス笑ったり、驚いたりする声が響いた。
「ソ:ふざけんな! 誰だよ、こんなことしたの!」
空が怒ってビラを剥がし始めた。蒼人はただ立ち尽くし、頭が真っ白になった。
「ア:…俺、気持ち悪い…こんなの、嫌だ…」
蒼人が呟くと、空が振り返り、蒼人の肩を掴んだ。
「ソ:アオ、大丈夫だよ。俺がいるから。こんなの、気にしなくていい!」
空の真剣な目に、蒼人は少しだけ落ち着いた。でも、周囲の視線が刺さるように感じ、教室に戻るのが怖かった。
ホームルームが始まり、担任の先生がビラの件を把握して「犯人を見つけて厳重に注意する」と宣言した。しかし、噂はすでに学校中に広まり、休み時間には他のクラスの生徒までが蒼人と空を見にくる始末だった。女子生徒の一人が「本当なの? 付き合ってるの?」と聞いてきた。
「ソ:違うって! 俺ら、友達だよ! ただ仲いいだけ!」
空が苛立って答える。蒼人は黙ったまま、机に突っ伏した。友達、だよね。でも、俺の気持ちは違う。こんな状況で、どうすればいいんだろう。
昼休み、蒼人は一人で図書室に逃げ込んだ。静かな空間で、少しでも気持ちを落ち着けたかった。すると、空が追いかけてきた。
「ソ:アオ、いた! なんで一人でいるんだよ…俺、心配したんだから」
「ア:…ごめん。俺、みんなの目が怖くて…こんなことになって、恥ずかしくて」
蒼人が俯くと、空が隣に座り、そっと手を握った。
「ソ:俺は恥ずかしくないよ。アオと仲いいの、俺の自慢だから。こんなビラ、気にしないでいい。俺が守るからさ」
空の言葉に、蒼人の目から涙がこぼれた。
「ア:…ソラ、ありがとう。俺、ソラと一緒なら…なんとか頑張れるかも」
「ソ:当たり前だろ? 俺ら、最高のチームだよ」
空が笑いながら蒼人の頭をポンと叩いた。その瞬間、図書室のドアが開き、佐藤が入ってきた。
「サ:お前ら、図書室でもイチャイチャしてる…って、蒼人、泣いてる? ごめん、俺、試合の後見たこと話したばっかりに…」
佐藤が慌てて謝ると、空が「いいよ。けど、ビラ貼ったやつ、許さねえからな」と睨んだ。蒼人は涙を拭いながら、佐藤に小さく頷いた。
放課後、サッカー部の練習に向かう途中、先輩たちもビラのことを知っていて、からかうような声をかけてきた。
「先輩:お前ら、噂になってるな。まあ、仲いいのはいいことだよ」
空が「友達ですよ!」と笑いにするけど、蒼人は複雑な気持ちだった。練習中、空がいつも以上に蒼人を気にかけてくれ、パスを多めに送ってくれた。
「ソ:アオ、ほら! 俺がいるから、自信持てよ!」
「ア:…うん、ありがとう。ソラ、いつも助けてくれて」
練習が終わり、グラウンドの端で水を飲む二人。先輩が「本当にただの友達か?」と笑いながら去っていった。
帰り道、夕陽がグラウンドを染める中、二人は並んで歩いた。空が突然、蒼人の手を握った。
「ソ:なあ、アオ。俺さ、お前が落ち込んでるの、見てられなかった。俺、お前のこと…本当に大事だからさ」
「ア:…俺も、ソラのこと大事だよ。友達として…いや、それ以上に…」
蒼人が言いかけた言葉を、空が遮った。
「ソ:俺もだよ。アオ、俺にとって特別だ。ビラとか関係ない。俺ら、俺らのままでいいよな?」
蒼人は目を潤ませながら頷いた。
「ア:…うん、俺らでいい。ソラと一緒なら、乗り越えられる」
二人の手はしっかりと握られ、夕陽の中でその絆はさらに強くなった。
家に帰ると、母が「学校で何かあったの?」と心配そうに聞いてきた。
「ア:うん…ちょっと嫌なことがあって。でも、ソラが支えてくれたから、大丈夫」
「母:そう…空くん、いい子ね。蒼人が辛い時、そばにいてくれる人がいるって、素敵なことよ」
蒼人は母の言葉に頷きながら、今日のことを思い出した。夜、ベッドで空の手の温もりを思い出しながら、蒼人は独白した。
「ア:…空のこと、もっと大事にしたい。この気持ち、いつかちゃんと伝えたい」
ビラ事件は二人の絆を試したが、結果的に互いをより深く理解するきっかけとなった。夏休みが近づく中、二人の運命は新たな一歩を踏み出そうとしていた。