7月のグラウンド、初めての試合と君の笑顔
体育祭も終わり7月に入り梅雨明けが早くも発表された。夏の強い日差しが校庭を照らし始めた。蒼人と空はサッカー部での活動にますます熱心になり、初めての練習試合が決まった。相手は近隣の中学校のサッカー部で、新入生にとっては初めての試合となる。体育祭でのリレーや騎馬戦を通じて二人の絆はさらに深まり、蒼人は空への気持ちが「友達以上」だと自覚していた。しかし、その気持ちをどうやって伝えればいいのか、まだ答えが見つからないままだった。
試合の1週間前、サッカー部の練習はいつも以上に熱を帯びていた。顧問の田中先生が「新入生も何人か試合に出すから、しっかり準備しろ!」と声をかけ、部員たちは気合を入れて練習に励んだ。蒼人はスタメンではないものの、途中出場の可能性があると言われ、少し緊張していた。
「ソ:なあ、蒼人! 試合、楽しみだろ? 俺、絶対スタメンで出るから、蒼人も後半出られるように頑張ろうぜ!」
空が汗を拭いながら笑顔で言う。
蒼人はパス練習をしながら、空の元気な声に励まされた。
「ア:うん…でも、俺、試合に出たら緊張してミスしそう…」
「ソ:大丈夫だって! 俺がいるからさ。蒼人がピンチになったら、俺が助けるよ!」
空が自信満々に胸を叩く。
その頼もしさに、蒼人の胸が温かくなった。友達として頼れる存在。でも、それ以上の気持ちが抑えきれず、蒼人は少し俯いた。
「ア:…ありがとう、空。俺、頑張るよ」
「ソ:おう! 俺ら、最高のチームだろ?」
空が蒼人の肩をポンと叩き、練習に戻った。
蒼人はその手の感触にドキッとしながら、空の背中を見つめた。試合で空と一緒にプレーできることが、緊張よりも嬉しさに変わっていくのを感じた。
練習の後、先輩たちが新入生を集めて作戦会議を開いた。
先輩の一人が「相手チームはパスが得意だから、守備を固めてカウンターを狙う」と説明。蒼人は控え選手として、試合の流れを見ながら準備するよう言われた。
空はスタメンとして出場が決まり、「俺、蒼人にいいところ見せるからな!」と笑顔で言った。
蒼人は「頑張れよ」と返すけど、心の中では「空がかっこいいところ見たい」と願っていた。
試合当日、朝から強い日差しがグラウンドを照らし、汗が滝のように流れる暑さだった。相手校のグラウンドに到着すると、保護者や他の生徒たちも応援に駆けつけ、賑やかな雰囲気だった。蒼人はユニフォームに袖を通し、ベンチで試合の開始を待った。
空はスタメンとして準備運動をしながら、蒼人に手を振った。
「ソ:蒼人、見ててくれよ! 俺、絶対点取るから!」
「ア:うん…頑張れ、空。俺、応援してる」
空の笑顔が眩しくて、蒼人はベンチから見つめた。
試合が始まると、空は中盤でボールを巧みに動かし、先輩たちと連携して攻め上がった。相手チームも強く、なかなか得点には至らない展開が続いた。蒼人はベンチから空の動きを目で追い、応援しながらも緊張で手が汗ばんだ。
前半が0-0で終わり、ハーフタイムに入った。部員たちは水を飲んで汗を拭い、田中先生が「後半はもっと攻めろ」と指示を出した。
空がベンチに戻ってきて、蒼人の隣に座った。
「ソ:はー、暑いな…でも、めっちゃ楽しい! 蒼人、後半出る準備しててくれよ!」
「ア:うん…でも、俺、緊張して…」
「ソ:大丈夫だって! 蒼人が出たら、俺がパス出すからさ。一緒に点取ろうぜ!」
空が蒼人の手を握って励ました。
その温もりに、蒼人の心がドキドキして、顔が熱くなった。
「ア:…うん、頑張るよ。空と一緒なら、俺、できるかも」
「ソ:だろ? 俺ら、無敵だよ!」
空が笑いながら蒼人の肩に軽く頭を乗せた。その瞬間、ベンチにいた先輩が「またイチャイチャしてるな」と笑い、蒼人は慌てて顔を背けた。空は「何がイチャイチャだよ! 友達だろ!」と笑いものにしたけど、蒼人の心は複雑だった。友達、だけど、それ以上の気持ちが抑えられない。
後半が始まり、試合はさらに白熱した。空が何度もシュートを試みるも、相手のゴールキーパーに阻まれた。
後半15分、田中先生が「山崎、準備しろ」と蒼人に声をかけた。蒼人は緊張しながらユニフォームを整え、ピッチに立った。初めての試合、初めての大勢の前でのプレー。足が震えたけど、空が「蒼人、こっち!」と声をかけてくれた。
「ソ:ほら、蒼人! パス出すぞ!」
空がボールを蒼人に送り、蒼人は必死で受け止めた。
ぎこちなくドリブルしながら前に進むと、相手選手に囲まれた。
「ア:うわ…どうしよう…」
「ソ:蒼人、俺に返せ!」
空が駆け寄り、蒼人がパスを出すと、空が一気に抜け出してシュート。
ボールがゴールネットを揺らし、観客席から歓声が上がった。蒼人は呆然としながら、空が走ってきて抱きついてきた。
「ソ:蒼人、ナイスパス! 俺ら、点取ったぞ!」
「ア:…うそ、俺、パスしただけなのに…空、すごいよ!」
空が蒼人をぎゅっと抱きしめ、汗だくのまま笑い合った。観客席から「仲良すぎだろ!」という声が聞こえ、クラスメイトの佐藤が「またBL疑惑増えるな」と笑った。蒼人は恥ずかしくて顔を赤らめたけど、空の笑顔が嬉しくて、胸が温かくなった。
試合は1-0で勝利し、部員たちは喜びを分かち合った。試合後、グラウンドの端でクールダウンしながら、空が蒼人に話しかけた。
「ソ:なあ、蒼人。今日、蒼人が出てくれてよかった。俺、蒼人と一緒に点取れて、めっちゃ嬉しかった」
「ア:…俺も、空と一緒でよかった。初めての試合、怖かったけど…空がいたから頑張れた」
「ソ:だろ? 俺ら、最高のチームだよ。ずっと一緒にサッカーやろうな!」
空が笑いながら蒼人の頭をポンと叩いた。その仕草に、蒼人の心がまたドキドキした。友達として最高のチーム。でも、蒼人の中では「ずっと一緒」がもっと深い意味に感じられた。
帰りのバスの中で、空が疲れて蒼人の肩にもたれてきた。
「ソ:蒼人、今日楽しかった…ありがとうな」
「ア:…俺も、楽しかったよ。空と一緒で」
空の寝息が聞こえ、蒼人はそっと見つめた。友達として、こんなに安心できる人がいる。だけど、心の奥では友達以上の気持ちが膨らんでいる。バスの中で、蒼人は静かに独白した。
「ア:…空のこと、本当に好きだ。どうしたら、この気持ち伝えられるかな」
その葛藤は、夏休み前の学校生活や部活でのエピソードにつながる次話への期待感を残した。
家に帰ると、母が「試合、どうだった?」と聞いてきた。
「ア:勝てたよ。俺、後半出て…空と一緒に点取れたんだ」
「母:すごいじゃない! 蒼人、楽しそうね。空くんとのこと、いつも嬉しそうに話すね」
蒼人は笑ったけど、心の中では「好きだ」という気持ちが頭から離れなかった。夜、ベッドで今日の試合を思い出しながら、蒼人は写真を見つめた。空の笑顔が、グラウンドでの抱き合いが、全部が鮮やかで、胸が締め付けられるようだった。
「ア:…夏休み、もっと空と一緒にいたい。気持ち、伝えられるかな」
7月の試合を通じて、二人の絆はさらに深まり、蒼人の恋心は一歩前進した。