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梅雨のグラウンド、君と触れた距離


6月中旬、梅雨の季節がやってきた。校庭は雨に濡れ、教室の窓には水滴がぽたりと落ちる日々が続いていた。蒼人と空はサッカー部での活動を通じてますます仲を深めていたが、雨のせいでグラウンドでの練習ができない日は、体育館で基礎練習やミーティングが行われた。蒼人は最近、空と過ごす時間が長くなるほど、自分の気持ちが「友達以上」だと確信しつつあった。でも、それを認めるのはまだ怖かった。


ある雨の日、体育館でのサッカー部の練習中、蒼人と空はいつものようにペアでパス練習をしていた。体育館の床は少し滑りやすく、蒼人はボールを蹴るたびに慎重になっていた。

「ソ:蒼人、もっと強く蹴ってみて! 俺、ちゃんと受け止めるからさ!」

空が笑顔で言う。蒼人は少し緊張しながらボールを蹴ったが、力加減を間違えてボールが空の足元を通り過ぎ、体育館の隅に転がった。

「ア:あ…ごめん、強く蹴りすぎた…」

蒼人が慌てて謝ると、空が「いいよ、俺が取ってくる!」と走ってボールを拾いに行った。戻ってきた空は、汗で少し濡れた髪を指でかき上げながら、蒼人のすぐそばに立った。

「ソ:ほら、蒼人! もう一回だ!」

空がボールを渡そうと近づいた瞬間、体育館の床が滑り、空がバランスを崩して蒼人に倒れ込んだ。蒼人も咄嗟に受け止めようとして、二人で床に倒れ込んでしまった。

「ア:うわっ…! 空、大丈夫…?」

「ソ:う、うん…ごめん、蒼人。滑っちゃった…」

二人は体育館の床に座り込んだまま、顔を見合わせて笑った。蒼人は空が自分に覆いかぶさるような形で近くにいることに気づき、心臓がドキドキした。空の汗とユニフォームの匂いが混じり、蒼人の顔が熱くなる。

「ソ:蒼人、顔赤いよ? 怪我した? 大丈夫?」

空が心配そうに蒼人の顔を覗き込む。距離が近すぎて、蒼人は慌てて目を逸らした。

「ア:だ、大丈夫…! ちょっと暑いだけ…離れてよ…」

「ソ:えー、でもさ、蒼人の顔、めっちゃ可愛いなって思ったんだから!」

空が笑いながら言うと、蒼人はさらに顔が熱くなり、空の肩を軽く押した。

「ア:やめてよ、そういうこと言うの…恥ずかしいって…」

二人がそんなやり取りをしていると、近くで練習していた先輩たちが「星野、山崎、仲いいなあ!」とからかうような声をかけてきた。蒼人は慌てて立ち上がり、空も「へへ、そうですよ!」と笑いながら立ち上がった。だが、先輩の一人が「なんかさ、恋人みたいだな、お前ら」と冗談っぽく言うと、蒼人の心臓が跳ねた。恋人みたい。自分でもそう思う瞬間があるから、余計にドキッとしてしまった。


練習後、雨が小降りになったので、部員たちは体育館の外でクールダウンをした。蒼人と空は並んでストレッチをしながら、今日の練習について話していた。

「ソ:なあ、蒼人。さっき、俺が倒れたとき、めっちゃドキドキしたんだから!」

空が笑いながら言う。蒼人はびっくりして、空をじっと見た。

「ア:え…何? ドキドキって…怪我するかと思ったってこと?」

「ソ:うーん、それもあるけど…蒼人に近づけたから、なんか嬉しくてさ」

空が無邪気に笑う。蒼人はその言葉に胸が締め付けられ、顔を赤くして目を逸らした。

「ア:…空、変なこと言うなよ…恥ずかしいだろ…」

「ソ:え、恥ずかしいって何? 俺、蒼人が大好きだから、普通に嬉しいだけだよ!」

空がそう言うと、蒼人の心がさらに乱れた。友達として大好き、だよね。でも、空の言葉があまりにもストレートで、蒼人は自分の気持ちを抑えるのが難しくなっていた。


その夜、蒼人は家で母と夕飯を食べながら、今日のことを少し話した。

「ア:今日、部活で空と一緒に練習してて…先輩に、恋人みたいってからかわれたんだ」

「母:あら、それは面白いね。蒼人と空くん、仲いいものね。恋人みたいって、どんな感じだったの?」

母が笑いながら聞く。蒼人は顔が熱くなり、慌ててご飯をかき込んだ。

「ア:う、うるさいな…普通に友達だよ…」

母は「そうね、友達でもそんな風に見えるって、素敵なことよ」と優しく笑った。蒼人は母の言葉に少し安心したけど、心の中では「恋人みたい」という言葉がぐるぐる回っていた。


次の日、クラスでは遠足の写真が掲示板に貼られていた。蒼人と空が肩を寄せ合って笑っている写真を見て、クラスメイトの何人かが「星野と山崎、めっちゃ仲いいな」と囁き合った。女子の一人が「ねえ、もしかして…付き合ってる?」と小声で言うと、他の子が「え、マジ? なんか、そう見えるかも!」と笑った。蒼人はその話を耳にして、顔が真っ赤になった。

「ア:ち、違うって…! 普通に友達だよ…!」

蒼人が慌てて否定すると、女子たちは「ふーん、そうなの?」とからかうように笑った。空が教室に入ってきて「何? 何の話?」と聞くと、女子が「星野、山崎と付き合ってるって噂になってるよ!」と冗談っぽく言った。

「ソ:え、俺と蒼人が? へえ、恋人かあ! いいね、それ!」

空が笑いながら言う。蒼人はさらに顔が熱くなり、空を睨んだ。

「ア:空、からかうなよ…! 恥ずかしいって…!」

「ソ:え、俺、蒼人となら恋人でもいいと思うけどな! 蒼人、めっちゃ大事だし!」

空が無邪気に笑う。クラスメイトが「えー、ガチっぽい!」と盛り上がり、蒼人はもう耐えきれず、机に突っ伏してしまった。空が「蒼人、顔赤いよ! 可愛いなあ!」とさらにからかうので、蒼人は「もうやめてくれ…」と呟くしかなかった。


放課後、雨が上がったのでサッカー部の練習がグラウンドで行われた。蒼人はまだクラスの騒ぎを引きずっていて、少し上の空だった。空が「蒼人、今日、元気ないな。どうした?」と心配そうに聞いてきた。

「ア:…クラスのやつらが、俺たちのこと恋人みたいって…空も変なこと言うから、なんか…恥ずかしくて」

「ソ:え、俺、蒼人が大好きだから、そう言われても嬉しいけどな。蒼人は嫌だった?」

空が真剣な顔で聞く。蒼人はびっくりして、空を見た。

「ア:嫌じゃない…けど…俺、よくわからなくて…」

蒼人が言葉を詰まらせると、空がそっと蒼人の手を握ってきた。

「ソ:俺、蒼人が大事だからさ。蒼人が嫌じゃなかったら、それでいいよ」

空の温かい手に、蒼人の心がさらに乱れた。友達として大事、だよね。でも、蒼人の心はもう「好き」を抑えきれなくなっていた。


練習中、蒼人と空はまたペアでパス練習をした。空が「蒼人、もっとこっち見てよ!」と笑いながらボールを蹴ると、蒼人も笑顔で受け止めた。先輩が「ほら、また恋人コンビがイチャついてるぞ!」とからかうと、部員たちが笑った。蒼人は恥ずかしかったけど、空が「いいでしょ、俺ら仲いいんだから!」と笑うので、どこかホッとした。

「ソ:なあ、蒼人。俺さ、蒼人といると、いつも楽しいよ。ずっとこうやってたいな」

「ア:…俺も、空といると楽しい。ずっと…こうやってたい」

二人が見つめ合うと、部員たちから「うわ、マジで恋人っぽい!」と声が上がった。蒼人は顔を赤くしながらも、空の笑顔に心が温かくなった。


夜、蒼人はベッドで今日のことを思い出した。クラスの噂、部活でのからかい、空の手の温もり。友達以上の気持ちが抑えきれなくなっている。梅雨のグラウンドで、二人の距離はさらに近づいていた。でも、周囲の視線が気になる蒼人。次はどんな出来事が待っているのか。少し不安だけど、空と一緒なら乗り越えられる気がした。



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