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6月の遠足、君と並んだ道


6月に入り、梅雨の気配が近づきつつあったが、まだ晴れの日が続いていた。中間テストが終わり、蒼人と空は結果を待つ間、サッカー部の練習に励んでいた。テスト勉強で図書室での時間が多かった分、グラウンドでの汗と笑顔が新鮮に感じられた。蒼人は空に教えながら一緒に勉強したことが思い出され、胸が温かくなった。空も「蒼人のおかげで数学、なんとか及第点だったよ!」と笑い、蒼人に感謝していた。




サッカー部の練習は、テスト明けで少し緩やかな雰囲気だった。先輩たちが新入生にパスやドリブルのコツを教えてくれ、蒼人と空はペアで練習に取り組んだ。

「ソ:なあ、蒼人! 今日、シュート練習しようぜ! テストお疲れ様って感じでさ!」

空がボールを手に持って笑う。蒼人は少し疲れていたけど、空の楽しそうな顔に釣られて頷いた。

「ア:うん、いいよ…でも、俺のシュート、外れる確率高いからな」

「ソ:大丈夫! 俺がゴール守るから! 蒼人のシュート、全部受け止めるよ!」

空が自信満々に言うと、蒼人の胸がまたドキッとした。友達として普通のことなのに、最近は空の言葉が妙に心に響く。グラウンドで空がゴールの前に立ち、蒼人がボールを蹴った。初めてまっすぐ飛んだボールが空の手に収まり、二人で「やった!」と笑った。

「ソ:蒼人、進歩してるじゃん! すごいよ!」

「ア:…空のおかげだよ。教えてくれるから」

空が近づいてきて、蒼人の肩をポンと叩いた。その手が触れた瞬間、蒼人は顔が熱くなるのを隠せなかった。友達以上、なのかもしれない。まだ自分にその答えは出せなかった。




練習後、先輩の一人が「新入生、最近頑張ってるね」と声をかけてくれた。佐藤というクラスメイトも部にいて、蒼人と空を「いいコンビだね」と笑顔で褒めた。蒼人は少し照れくさかったけど、空が「だろ? 俺ら、最高だよ!」と得意げに言うので、自然と笑顔になった。部活が終わると、二人はいつものように一緒に帰り道を歩いた。

「ソ:なあ、蒼人。来週、遠足あるじゃん。一緒に組もうぜ!」

「ア:え、遠足? うん、いいよ。どこ行くんだっけ?」

「ソ:校外学習で公園だよ。弁当持って、みんなで遊ぶやつ! 蒼人と一緒なら、絶対楽しい!」

空の明るい声に、蒼人も楽しみが膨らんだ。遠足の日が待ち遠しくて、夜、家で母に話した。

「ア:来週、遠足があって、空と一緒の班になれるかな?」

「母:大丈夫よ。空くん、蒼人を楽しませてくれるんだから。弁当、ちゃんと作ってあげるよ」

母の優しい笑顔に、蒼人もほっとした。遠足のことを考えると、空との時間がまた増えることが嬉しかった。




遠足当日の晴れた朝、蒼人は母が作ってくれた弁当を持って学校へ。クラスは4つのグループに分かれ、蒼人と空は同じグループになった。バスに乗り、近くの公園へ向かう間、空が窓の外を指差して「見て、蒼人! 木が緑でキレイだね!」と興奮した。蒼人も笑いながら「うん、きれいだね」と答えた。バスの中で、空が隣に座り、時々肩が触れるたびに蒼人の心が跳ねた。

「ソ:なあ、蒼人。公園でサッカーしようぜ! ボール持ってきたからさ!」

「ア:え、遠足で? でも、いいよ。楽しそう」

空が目を輝かせて言うので、蒼人も乗り気になった。公園に着くと、クラスメイトがグループごとに散らばり、芝生で遊んだり弁当を食べたりした。蒼人と空はボールを持って少し離れた場所へ。

「ソ:ほら、蒼人! さっきのシュート、もう一回やってみて!」

空がゴールの位置に立ち、蒼人がボールを蹴った。今度はゴールに近く、空が「ナイス!」と飛び跳ねて喜んだ。二人で笑い合い、芝生に座って汗を拭った。

「ソ:蒼人と一緒だと、なんでも楽しいな。俺、蒼人のこと本当に大事だよ」

空が真剣な顔で言う。蒼人はドキッとして、目を逸らした。

「ア:…俺も、空のこと大事だよ。友達として…」

「友達として」という言葉に、少しだけモヤモヤした。友達以上、なのかもしれない。まだ確信はなかったけど。





昼になり、グループで弁当を広げた。蒼人の弁当は母の愛情たっぷりで、卵焼きや唐揚げが入っていた。空が「うわ、蒼人の弁当、うまそう!」と目を輝かせ、交換しようと言ってきた。

「ソ:なあ、卵焼き一つくれよ! 俺の唐揚げと交換だ!」

「ア:え、いいよ…でも、空の唐揚げ、油っぽそうだけど」

「ソ:大丈夫だって! ほら、食べてみて!」

空が笑いながら唐揚げを蒼人の弁当箱に置き、蒼人も卵焼きを渡した。食べながら、二人は肩を寄せ合って笑った。風が吹いて弁当が少し揺れるたび、空が「危ない!」と蒼人の弁当を支えてくれた。その優しさに、蒼人の心がまた温かくなった。

「ソ:蒼人の弁当、母さん上手いね。俺の、父ちゃんが適当に作っただけなんだけど…」

「ア:いいよ、空の唐揚げも美味しい。…母さん、喜ぶかも」

空が「じゃあ、次は蒼人の母さんに感謝しよう!」と笑う。蒼人も笑ったけど、空との距離が近すぎて、胸がドキドキしすぎて困った。





遠足の後半、クラスでゲームをしたり写真を撮ったりした。空が「蒼人と一緒に撮ろうぜ!」とカメラを手に持つ。二人で並んで立つと、空が蒼人の肩に手を回してきた。

「ソ:ほら、笑えよ、蒼人! いい記念になるから!」

「ア:う、うん…笑うから、離して…」

蒼人が照れながら言うと、空が「えー、いいじゃん!」とさらに近づいた。写真を撮った後、クラスメイトから「仲いいねー」と笑い声が上がった。蒼人は恥ずかしかったけど、空が「だろ? 俺ら、最高だよ!」と笑うので、自然と笑顔になった。





帰りのバスで、空が疲れたように蒼人の肩にもたれてきた。

「ソ:蒼人、今日楽しかった…ありがとうな」

「ア:…俺も、楽しかったよ。空と一緒で」

空の寝息が聞こえ、蒼人はそっと見つめた。友達として、こんなに安心できる人がいる。だけど、心の奥では友達以上の気持ちが膨らんでいる。遠足の写真を手に持つと、二人の笑顔が目に焼き付いた。

「ア:…空のこと、好きなのかな」

小さく呟いた言葉が、バスの中で風に消えた。テスト後のこの日、空との時間が蒼人の心をさらに動かしていた。





家に帰ると、母が「遠足はどうだった?」と聞いてきた。

「ア:楽しかった。空と一緒で、サッカーしたり弁当食べたり…」

「母:いいねえ。蒼人、楽しそうでよかった。写真、見せて?」

蒼人は写真を見せながら、空とのことを話した。

母は「空くん、いい子だね。蒼人が幸せそうで安心だよ」と笑った。

蒼人も笑ったけど、心の中では「好きなのかな」という思いが消えなかった。




夜、蒼人はベッドで写真を見つめた。空の笑顔が、今日の出来事が、全部が頭から離れなかった。友達として大事な存在。でも、もっと深い気持ちがある気がする。遠足で二人の距離がまた近づいた。次の部活や学校生活で、どうなるのか。蒼人はその答えをまだ見つけられず、でも楽しみな気持ちで眠りについた。


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