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5月の図書室、君と勉強する時間


5月も下旬に差し掛かり、校庭の新緑が一段と濃くなっていた。中学1年生の蒼人と空は、サッカー部に入部してからさらに仲を深めていた。部活の練習で一緒に汗を流し、帰り道に他愛もない話をしながら笑い合う日々。そんな中、初めての中間テストがやってきた。クラスではテスト範囲のプリントが配られ、先生が「ちゃんと勉強するように!」と念を押す。蒼人は勉強はそこそこ得意だったけど、空は少し苦手意識を持っているようだった。




放課後、教室で空がテスト範囲のプリントを眺めながらため息をついていた。

「ソ:うわー、数学、範囲広すぎ…俺、方程式とか全然わかんないよ」


空がプリントを机に広げて頭を抱える。蒼人は隣で教科書を整理しながら、空の困った顔をちらっと見た。

「ア:空、勉強すれば大丈夫だよ。…一緒にやる?」


「ソ:え、マジ? 蒼人、頭いいもんな! 助けてくれー!」


空が目を輝かせて蒼人の腕をつかんだ。蒼人はその勢いに少し驚きながらも、なんだか嬉しくて小さく笑った。

「ア:うん、いいよ。図書室で勉強しよう。静かだし」


「ソ:やった! 蒼人、最高! 俺、蒼人にめっちゃ感謝してるからな!」

空が笑いながら蒼人の肩をポンと叩く。その手が触れた瞬間、蒼人の胸がまたドキッとした。テスト勉強なのに、なんでこんなに緊張するんだろう。




二人はランドセルを持って図書室に向かった。5月の夕方、図書室は静かで、窓から差し込む陽光が木の机を温かく照らしていた。蒼人と空は奥の席に並んで座り、教科書とノートを広げた。蒼人は数学の教科書を開き、空に方程式の解き方を教え始めた。

「ア:ほら、ここの問題。まず、xをまとめて…こうやって移項するんだよ」


蒼人が丁寧に説明しながら、空のノートに解き方を書き込んでいく。空は真剣な顔で蒼人の説明を聞きながら、時々「へえー」と感心した声を上げた。


「ソ:蒼人、めっちゃわかりやすい! 俺、こんなの初めてわかったかも!」


「ア:よかった…じゃあ、次はこの問題やってみて」

蒼人が問題を指差すと、空が「うーん」と考え始めた。しばらくすると、空が急に蒼人の手を握ってきた。


「ソ:なあ、蒼人! この問題、俺、わかんない! もう一回教えてくれ!」

空が無邪気に笑いながら、蒼人の手をぎゅっと握る。蒼人はびっくりして顔が熱くなり、慌てて手を引いた。


「ア:ちょ、ちょっと…手、離してよ…自分で解けるって」


「ソ:えー、でも蒼人の説明、めっちゃ好きなんだもん! もう一回、な?」

空が少し拗ねたように言う。蒼人はドキドキしながらも、もう一度問題を解き始めた。空が近くでじっと見つめるので、蒼人は緊張してペンが少し震えた。


「ア:…ほら、こうやって…解けるだろ?」


「ソ:うん、わかった! 蒼人、俺の救世主だよ!」

空が笑いながら、蒼人の肩に軽く頭を乗せてきた。蒼人はその瞬間、心臓が跳ね上がりそうになった。友達同士でこんなこと、普通だよね? でも、なんでこんなに意識してしまうんだろう。




勉強が進むにつれ、二人はだんだんリラックスしてきた。数学が一段落すると、次は社会の歴史を一緒に復習することに。蒼人が年号を覚えるコツを教えると、空が「俺、年号覚えるの苦手なんだよな…」と呟いた。


「ア:じゃあ、語呂合わせで覚えよう。ほら、平安時代、794年は…」


「ソ:‘鳴くよ(794)ウグイス平安京’だろ? それ、小学校で習った!」

空が得意げに言うと、蒼人が小さく笑った。


「ア:そうそう。じゃあ、この年号は?」


蒼人が問題を出していくと、空が「うーん」と考えながら、時々蒼人に甘えるように「教えてくれよー」と駄々をこねた。蒼人は「もう、仕方ないな」と言いながら、空のノートにメモを書いてあげた。

「ソ:蒼人ってさ、めっちゃ優しいな。俺、蒼人と勉強してよかった」

空がふと真面目な声で言った。蒼人はびっくりして、空を見た。

「ア:…俺も、空と勉強できてよかったよ。楽しいし」


「ソ:だろ? 俺ら、最高のコンビだよな!」


空が笑いながら、蒼人の手をまた握ってきた。蒼人は今度は手を引かず、そっと握り返した。友達として、楽しい時間。でも、蒼人の心の中では、空への気持ちが少しずつはっきりしてきていた。




図書室が閉まる時間になり、二人は荷物をまとめて外に出た。夕陽が校庭をオレンジ色に染め、5月の風が柔らかく吹いていた。蒼人と空は並んで歩きながら、今日の勉強のことを話した。

「ソ:なあ、蒼人。明日も一緒に勉強しようぜ! 俺、蒼人に教えてもらいたいんだ」


「ア:うん、いいよ。…でも、空もちゃんと自分で解くんだからな」


「ソ:はーい! でも、蒼人が隣にいてくれると、俺、頑張れるんだよな」


空が無邪気に笑う。その言葉に、蒼人の胸がまた温かくなった。頑張れる、か。蒼人も、空がそばにいると、いつもより頑張れる気がした。




家に帰ると、母が夕飯の準備をしていた。蒼人はランドセルを置いて、母に話しかけた。

「ア:今日、図書室で空とテスト勉強したんだ」


「母:へえ、楽しそうね。空くん、勉強はどう?」


「ア:うーん、ちょっと苦手みたい。俺が教えてあげたけど…楽しかったよ」


母は「蒼人が教えてあげるなんて、偉いね。空くん、いい子だものね」と笑った。蒼人も笑ったけど、心の中では図書室でのやり取りがぐるぐる回っていた。空の手の温もり、肩に寄りかかってきた感触。全部が特別で、胸が締め付けられるような感覚だった。




夜、蒼人はベッドに寝転がって天井を見た。今日のことを思い出す。図書室の静かな時間、空の笑顔、握った手の感触。友達として楽しい時間だったけど、蒼人の心の中では、空への気持ちがもっと大きなものになっている気がした。

「ア:…空のこと、好きなのかな…」

小さく呟いて、蒼人は自分の気持ちに初めて向き合った。まだはっきりとはわからない。でも、友達以上の何かがあるのは確かだった。テスト勉強を通じて、空との距離がまた少し近づいた。蒼人はそのことに嬉しさと少しの怖さを感じながら、眠りについた。




次の日、朝の教室で空が「蒼人、おはよー! 今日も勉強頑張ろうな!」とやってきた。蒼人は「うん、頑張ろう」と笑顔で答えた。5月の終わりに近づく教室で、二人はテストに向かって一緒に頑張っていく。蒼人の心の中で、友情と恋心が少しずつ混ざり合い始めていた。


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