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7月の終業式、君に伝えた本当の気持ち


7月下旬、夏の暑さがピークに達する中、学校は終業式を間近に控えていた。サッカー部はというと中体連の試合に向けてハードな練習が続いていた。グラウンドでは部員たちが汗を流し、顧問の田中先生が「あと1週間で試合だ! 気を抜くな!」と声を張り上げていた。しかし、その中に蒼人の姿はなかった。蒼人は最近、学校を休む日が増えていた。ビラ騒動以来、周囲の視線や噂が気になり、心が重くなっていた。サッカー部の練習にも顔を出さず、クラスメイトの佐藤も「蒼人、どうしたんだろ…」と心配そうに呟くほどだった。


空は蒼人の不在に強い不安を感じていた。試合の練習中も、蒼人がいないグラウンドがどこか寂しく感じられた。

「ソ:…アオ、なにがあったんだよ…」

空が独り言のように呟くと、先輩が「星野、集中しろ! 山崎がいなくて寂しいのはわかるけど」と声をかけた。空は頷きながらも、心の中は蒼人でいっぱいだった。


終業式の前日。空は我慢できなくなり、蒼人の家を訪ねることにした。サッカー部の練習が終わった後、汗だくのまま自転車を漕ぎ、蒼人の家に向かった。夕陽が町をオレンジ色に染める中、蒼人の家のインターホンを押した。

「ソ:…アオ、いるか? 俺だ、ソラだよ」

しばらくして、蒼人の母がドアを開けた。

「母:あら、空くん。蒼人なら、部屋にいるわ。…最近、元気がないから、空くんに会えば少しは元気になるかもしれないわね」

「ソ:ありがとうございます。俺、アオに会いたいんです」

蒼人の母に案内され、空は蒼人の部屋の前まで来た。ドアをノックすると、小さな声が返ってきた。

「ア:…誰? 母さん?」

「ソ:俺だよ、ソラ。入っていいか?」

ドアがゆっくり開き、蒼人が顔を出した。蒼人はパジャマ姿で、目が少し赤く、明らかに元気がなかった。

「ア:…ソラ、なんで…? 練習は?」

「ソ:練習終わったよ。アオが最近来ないから…心配でさ。会いたかったんだ」

蒼人は目を逸らし、部屋に空を招き入れた。


蒼人の部屋は少し散らかっていて、机の上には教科書やサッカーボールが転がっていた。蒼人はベッドに腰掛け、空は床に座った。

「ソ:アオ、最近どうしたんだよ? 学校も部活も休むんだし…俺、めっちゃ心配したんだから」

「ア:…ごめん、ソラ。俺、なんか…学校行くの怖くなって…」

蒼人が俯きながら呟く。空は真剣な顔で蒼人を見た。

「ソ:ビラのこと…まだ気にしてるのか? 俺、気にしないって言っただろ。アオが元気ないの、俺、見てられないよ」

「ア:…ソラ、ありがとう。でも、それだけじゃないんだ…」

蒼人が声を震わせながら言う。空は黙って蒼人の言葉を待った。

「ア:俺、ソラのこと…ずっと考えてて…。ビラのこと、みんなの視線、全部嫌だったけど…それ以上に、俺、自分の気持ちが怖かったんだ」

「ソ:…アオ、自分の気持ちって…何だよ?」

空が首をかしげる。蒼人は深呼吸して、勇気を振り絞った。

「ア:俺…ソラのこと、好きだ。友達としてじゃなくて…それ以上に、好きなんだ。試合の時も、体育祭の時も、ずっとソラのこと見てて…ソラが笑うと嬉しくて、ソラがそばにいると安心する。でも、こんな気持ち、ソラに迷惑だろ? だから…学校行けなくなったんだ…」

蒼人が涙をこぼしながら言う。空は目を丸くして、蒼人の言葉を聞いた。

「ソ:アオ…俺…そんなこと、思ってたなんて…」

空が立ち上がり、蒼人の隣に座った。そして、蒼人の手をそっと握った。

「ソ:アオ、俺…アオの気持ち、迷惑だなんて思わないよ。俺も、アオのこと…特別だと思ってる。アオがそばにいないと、俺、なんか寂しくて…。ビラのこと、俺も嫌だったけど、アオが元気なくなったのが一番辛かったんだ」

「ア:…ソラ、俺のこと、嫌いじゃない…?」

「ソ:バカ、嫌いなわけないだろ! アオ、俺にとって一番大事な存在だよ。…俺も、アオのこと、好きだよ。友達として…いや、もっと深い意味で…俺も、ちゃんと向き合ってみるよ。アオの気持ち、ちゃんと受け止めるから」

空が真剣な目で言う。蒼人は涙を拭いながら、空の手を握り返した。

「ア:…ソラ、ありがとう。俺、初めて…こんな気持ち、誰かに言えた…」

「ソ:俺もだよ、アオ。これから、もっと一緒にいよう。サッカーも、学校も…全部、アオと一緒がいい」

二人は見つめ合い、初めて本当の気持ちを伝え合った瞬間だった。


その夜、空は蒼人の家に少し長く滞在し、夕飯をご馳走になった。蒼人の母が「空くん、ありがとう。蒼人、元気になってよかった」と笑顔で言った。空も「アオのこと、これからもよろしくお願いします」と頭を下げた。帰り際、空が蒼人に囁いた。

「ソ:明日、終業式来いよ。アオと一緒にいたいからさ」

「ア:…うん、ソラ。俺、頑張ってみるよ」

蒼人が小さく笑う。空も笑い、自転車で帰路についた。


終業式当日、蒼人は久しぶりに学校へ行った。クラスメイトが「蒼人、元気になった?」と声をかけてくれ、佐藤も「ごめんな、俺が言いふらしたせいで…」と改めて謝った。蒼人は「もう大丈夫だよ」と笑顔で答えた。空が隣で「だろ? アオ、俺がいるからな!」と笑い、クラスが和やかな雰囲気に包まれた。


終業式が終わり、サッカー部の練習に向かう二人。中体連の試合が目前に迫る中、蒼人は久しぶりにグラウンドに立った。

「ソ:アオ、戻ってきてくれて嬉しいよ。試合、絶対勝とうな!」

「ア:うん、ソラ。一緒なら、俺、頑張れるよ」

二人がパスを出し合う姿に、先輩たちが「やっとコンビ復活だな」と笑った。蒼人の心は軽くなり、空との新しい関係に希望を感じていた。


家に帰ると、母が「学校、どうだった?」と聞いてきた。

「ア:うん…ソラがそばにいてくれたから、楽しかった。明日から夏休みだね」

「母:そうね。空くんと、楽しい夏休みを過ごしてね」

蒼人は笑顔で頷き、部屋に戻った。夜、ベッドで今日のことを思い出しながら、蒼人は独白した。

「ア:…ソラ、俺の気持ち、受け止めてくれてありがとう。夏休み、もっとソラと一緒にいたい」

終業式を終え、二人の関係は新たな一歩を踏み出した。夏休みが始まる中、二人の未来はさらに明るいものになっていく。


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