村祭り/夜風/狗/猫形/満月
〈村祭り〉 La Vilagxa Festo
村祭りの夜。おおきな炎をかこむ、少女たち。みな赤色の晴れ着姿だ。鳴物にあわせ、素足で地面をふむ。地中には古い時代の女神がひそみ、恋心という呪いで地上の女を惑わすという。呪い封じのため、少女たちは輪になり力強く大地をふむ。誇らしげに笑いながら。輪に加われないわたしは、その様をこっそりのぞく。あの炎の下にはわたしの母も埋まっているのだ。呪いをうけてわたしを産み落とし、村にわたしをゆるしてもらうかわりに自ら土のなかに入った母が……。
〈夜風〉 Nokta Vento
丘の上、背の高い銀杏の木。黄葉が一枚、月の光を乗せ、下りてくる。衝撃を微塵も生まぬよう、繊細に着地、お役目果たせたと安堵。同時に、葉は前世でも隷属し使い捨てられる人間であったことを思い出す。またしても悔いながら生命を終える葉を、月の光は一顧だにせず、立ちあがる。美しい足で冷たい土を踏むと、姿は一匹の白猫に変ずる。目を細め、夜風を吸って街を見おろす。さて、人どもの世をどう変えて遊ぼうか。猫は野蛮な光の群れる巷に向け歩みはじめる。
〈狗〉 Hundoj
狗がきらいだ。ぼくがそばを通ると吠えるじゃないか。口を開けて、鼻の穴を開いて、こわい顔で。頭を割って、尻尾を何本にも分けて、こわい姿で。もっと腹を立てると攻撃してくるじゃないか。歯をむいて、棘を出して、毒の汁をまき散らして。いつもそんなふうなのに、ひとりぼっちでいるといつのまにか近づき人なつこく巻きついてくるじゃないか。心地よくなる音で体を包んでくるじゃないか。そして透きとおった卵をいくつもぼくに産みつけて、そ知らぬ顔で去っていくじゃないか。
〈猫形〉 Nekogata
「猫が化けた女」を専ら演じる役者たちがいる。猫形という。人間の女性との違いを仕草の細やかな工夫で示す、伝統芸だ。彼らに秘訣を訊くと、いかに視線から遠慮をなくすかがだいじとのこと。とくに、男に向ける目つきは、本当に目玉を光らせるつもりで……。でもそんな目の女性、いまは珍しくもなく、彼女らもこの世という舞台の上で、人間と猫がまざった様子で、演じつづけている。
〈満月〉 La Plana Luno
やはり満月は重いのだろうか、夜空の天井から離れて、おれたちの村に近いあたりの湖に、ゆっくり下りてきてしまった。
これはたいへんだ、朝までに空へもどさないと溶けてしまう、と年寄り連中がさわぐ。急いで、小山の上の神社に住まう、「ねこ様」をおよびした。
おさない子どもの姿だが、それはおれががきの頃から変わっていない。とても長生きしている、人ではない娘。なんたって、頭の上には猫の耳がついている。昼間はいつも眠そうで、夜になると村のなかやら森のなかやらを走りまわり、疲れると屋根によじのぼって寝たりする。おれががきの頃はいっしょに遊んだものだが、いまはおれのがきが遊んでもらっている、あつかいにちょっと困るかたなのだ。
おれの舟にねこ様を乗せ、湖面にぷかりと浮かぶ月のそばまでお連れする。ねこ様はおれの名をよび、舟をもっと近う、と指図する。
なんとかできるのだろうか、と心配していると、前に何度もやったことがあるゆえ、うたがうでない、とねこ様が言う。
ねこ様は、長い藁しべを持ってきていた。一方をその小さな唇にくわえると、もう一方の端を月の表面に付ける。なんだ、なにをなさるんだとおれが思ううちに、ねこ様が息をすうっと吸いこんだ。すると、大きな月が細い藁しべのなかにまるごとするりっと入ってしまった。おれはもちろん、ほかの舟や浜から見ていた村人も、みな驚いて声をあげた。ねこ様は次に上を向いて、ふううっと藁しべをお吹きになる。その先から、透明になった月が、少しずつ、少しずつ、ふくらんで、空中にあらわれた!
うすい膜だけの姿になった月は、頼りないようなのんきなような様子で宙に浮かび、風がちょっとでも触れると、ふるんふるんとおおげさに揺れる。その下側をねこ様が軽くたたき、また、小さな両手でぱたぱた風を送る仕草をなさると、月のやつ、こんな騒ぎを起こしておきながら、なんとも無邪気に夜空にもどっていく。
村のみなが顎をあげ、口をぽかんと開けて空を見ている。
透明な月は、いろんなところを突き出したりへこませたりしながら上がる。星や、浜のたいまつの明かりを受けて、ときどき縁が光る。
雲のひとむらがいっとき月を隠す。そして雲が過ぎたあとは、もう円い月がもと通り輝いている。
やれやれ終わったと、ねこ様は大あくび。今日は思いがけない役目を果たし、夜でも眠くなってしまわれたらしい。ほれ、早く浜へ舟をかえせとねこ様はおれの尻をたたく。言われなくても、もう艪を漕ぎはじめている。
村のみなもそれぞれの家に帰っていくが、残る人影もある。神社の神主さんと、何人かの年寄りが、月のうつる湖を舟の上でながめ、酒をのみ歌って夜をあかすようだ。
夜なかに元気なやつらじゃの、とねこ様はふだんの自分のおこないを忘れたように、あきれておられる。
ねこ様は年寄り連中の名前もすべておぼえていて、よびかけながら神社に帰っていく。




