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経典 La Principa Libro
いにしえの世、人はみんな空っぽだった。
そのあまりの呆けぶりをあわれんで、星が経典をさずけてくれた。
人間の心のありさまはね、すべてその経典に書かれてある。
それを写字僧たちが、世に生まれることが決まったひとりひとりのいのちに書き写すことで、ふつうの感情というものが人に備わるんだ。
けれども生まれくる人の数は膨大、写字僧は数人。いたらぬところが多々生ずる。
字を書きまちがえたり、一行を書きわすれたり。いねむりして、文章を混ぜちゃったり!
ほほ、なんてやつらだろう!
だからね、いいかい、君が自分を愛せず傷をつけたがるのも、写字僧たちのせいさ、君が変なわけじゃない。
――連中も、涙が出る気持ちはわすれずに書いてくれたみたいだね。
Fino