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12月2日(4) シャンパンとチョコレートケーキ

同時2話更新の1話目です。

 ブラウンズ・ホテルはロンドン最古のホテルで、ビクトリア朝の内装が格調高い。ドレスコードがゆるいブラウンズホテルでのクリスマス・アフタヌーンティーは私の中で旅のハイライトの一つだった。それこそ二人分のお金を払うから一人だけキャンセルでと電話を入れようかなと考えていた時にフィリップさんに出会った。ある意味運命的な出会いだ。そう、ロンドンで運命的な出会いをした男前にエスコートされている私はヒロインだ。


 予約した二人席へ絵に描いたような執事に案内され、「シャンパンはいかがですか」と言われたのでお願いする。デフォルトはモエ・シャンドンだが、追加料金次第ではドンペリとかボトルとかドンペリのボトルとか出てくるらしい。


 部屋には本物の暖炉がパチパチと音を立てていて、壁には作り付けの燭立てがある。天井や壁の重厚な作りで伝統的なタウンハウスの応接室に来た気分が更に高まる。


「なんだこれは。エールのように舌をくすぐるが、苦味はなく、すっきりした甘みが喉を滑り落ちる。何杯でもいけそうだ」


 土曜日午前中の情報番組のグルメレポーターか。まあ、モエ・シャンドンだから美味しいに決まっているけど。


「シャンパンです。軽めのワインを更に醗酵させるとビールのように炭酸が残ります。ワインなのでエールよりは強いお酒ですよ。今日は今後の予定があるから、グラス一杯だけにしておこうと思っていたのですが、フィリップさんが飲みたければ––」


「いや、リリカ嬢に合わせる」

「嬢は要りませんよ? 李梨花でいいです」

「リリカ。では、私はフィリップか、フィルで」

「フィル、ここはどんなに食べても料金は変わらないのです。たくさん食べてくださいね」


 紅茶はそれほど詳しくないので、アフタヌーンティーと書いてある茶葉をお願いする。サンドイッチは食べられるだけ出てくると知ったフィルはヤギのチーズとピクルスのサンドイッチも、スモークサーモンのサンドイッチも、シュリンプカクテルのサンドイッチも実質ひとくちで次から次へと吸引している。


「うまい。とにかくうまい。このチーズがたまらない。これはエビか? かみごたえがすごい。この薄紅色は魚か? 生なのに臭みがない。塩加減もサンドイッチにちょうどいい」

「マヨネーズが好きなのですね」

「マヨネーズとはなんだ?」

「油と卵黄を乳化させたソースです」

「実にうまい」


 美丈夫の口がブラックホールと化している。今まで遠慮していたのだろうか。今までもそれなりだったけど。特にホテルの朝食は。


 すこし呆れ顔になり始めた執事のセバスチャン(あまりにも執事風だがもちろん実際にはティルームのホールスタッフで、胸のネームプレートによると本名は「ガス」らしい)がお上品なサイズのサンドイッチを椀子そばよろしく運んでくる。まあ、ここは食べ放題をウリにしているアフタヌーンティーだ。せっかくだから元取ってもらおう。フィルは貴族らしく所作が綺麗だから嫌な感じはない。


「そういえば聞きたいと思っていたのですが」

「なんだ」

「クローゼットから出てきたとき、ナイトシャツを着ていましたよね」

「あれは別に夜専用ではないが」


「でもあの服は私から見れば寝間着です。で、寝間着と自分の靴で私と一緒にバスに乗って服を買って着替えましたよね」

「ああ、その話か。軽めの認識阻害を使った」

「にんしきそがい」


「そう、このあたりは認識阻害を使う者がいないのだな。おかげで私の術がよく効く」

「ずっと認識阻害を使っているのですか?」

「いや、リリカがこの服を買ってくれてからはほとんど使っていない。やはりずっと魔法を使っていると疲れるので、この街の者と同じ装いはありがたい」

「ずっとまほうをつかっている」


「この世界は魔力がいらないのだな。あると便利ではあるが、なくても身繕いも食事も旅もできる」


 あると便利と言われてもこちらはまったくわからないのですが。あ、でも、洗浄魔法は羨ましいかも。出先で汗をかいたときとか。あと、転移魔法も。通勤に便利そう。通勤ラッシュに悩まなくて良いかも。あと治癒魔法か。現代医学がないと、治癒魔法が命綱だな。ん?魔法が科学の発展を妨げているのか?


「治癒術も魔法なのですか?」

「ああ。治癒魔導士は一部の貴族しか雇えないが」

「お金のない人はどうするのですか?」

「平民の治癒士が薬草や瀉血で治療する」


 薬草はともかく、瀉血は体に悪そうだ。国民皆保険制度、万歳。ちなみに英国も皆保険だ。


 スコーンは焼きたてホカホカだ。添えられたクロッテッドクリームを塗ると、クリームがとろりと溶ける。クリームが滑り落ちる前にすばやく口に入れると、クリームの香りが鼻を抜ける。ジャムもフルーツの香りが強くておいしい。


「このパンも実にうまい」

「全部おかわりできますよ」


 私は続きのスイーツが気になるのでスコーンは二つにするが、フィルはセバスチャン、ではなく、ガスさんにお願いしてスコーンをおかわりしていた。

同時2話更新の1話目です。長いので2回に分けましたが、分けなくても良かったかな?

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