夏祭りと花火。
「じゃぁ、夏目先生は本部ということで、よろしくお願いします。」
「はい。」
夏祭り当日。
私は、女性ということもあり、見回りに本格的に駆り出されず、本部で何かあった時の対応や、情報の整理をする係となった。
「よろしくお願いします。夏目先生。」
「黒田先生、よろしくお願いします。」
黒田真衣先生。
この学校の英語の担当で、1年2組の担任をしている。
私と同じ教師2年目の25歳だ。
綺麗な顔立ちに長い髪で、すらっとした見た目をしている。
人当たりのいい性格から、教員だけでなく生徒からも人気のある先生だ。
「夏目先生、知ってます?本部って実際、何も起こらないからめちゃくちゃ暇らしいですよ。」
「そうなんですか?てっきりものすごい忙しいのかと。」
「なんか、去年の先生たちは暇すぎて恋バナとかして修学旅行の雰囲気だったらしいですよ~!」
「それって、いいんでしょうか?」
「も~、夏目先生って真面目ですね!私たちもしましょうよ!!恋バナ!」
「まぁ、何もなければ……。」
「夏目先生、やること先にやっちゃいましょう!」
結局、黒田先生が仕事ができる人だったため、30分ぐらいで先にやっておく仕事は終わった。
18時34分。
まだまだ見回りの先生たちは帰ってこない。待機だな。
「ふ~おわりましたね。」
「はい、黒田先生のおかげで思ったよりも早く終わりました。」
「いやいや、夏目先生の方こそ!もしかして、恋バナ楽しみでした?」
にやにやしながら黒田先生は聞いてきた。
この人、生徒がいるときと雰囲気違うんだな。
「黒田先生、なんか子供っぽいですね。」
「え!?そうですかね、お恥ずかしい。これでも舐められないように頑張っているんですけど……。ほら、うちの学校って女子高じゃないですか、だからか高校生なのにかわいい子多くて……。」
「そのままでも人気になりそうだと思いますけどね。黒田先生、綺麗ですし。」
「そうですか?じゃぁ、そうしてみようかな。」
照れたように黒田先生は目線をきょろきょろさせていた。
多分こういうところが生徒に人気なんだと思う。
私は……かなりとっつきにくい方だろう。
**********
「そういえば、夏目先生ってこの学校出身なんですよね。」
「えぇ、まさか、初めての学校がここになるとは思わなかったですけど。」
「夏目先生って、恋人とかどうやって作ってたんですか?」
「はい?」
「いやだって、女子高って出会いないじゃないですか。だから、どうやって出会うのかなって。」
「まぁ、確かに……。でも、残念ながら恋人いたことないので……。」
「え、一回も!?」
「はい……。」
「さすがに好きな人とかはいましたよね?もしかして、その人が忘れられないとか?」
「………………まぁ、……。」
「きゃー!え、青春じゃないですか!!」
「わー!!」なんて言いながら黒田先生は手を立ててはしゃいでいた。
雰囲気は、本当に修学旅行の夜みたいだ。
「言いたくなかったら大丈夫なんですけど、もしかして初恋ですか?」
「……はい。」
「うわ~!いいですね!!名前とか聞いても?」
「…………。」
「あ、ダメでしたか?」
「……いえ、多分、黒田先生も聞いたことあるかと。」
「有名人とかですか?」
「…………七瀬葵です。」
「え、それって……。」
「はい。私が高校3年生の夏、彼女は3階の空き教室から飛び降りました。」
「……でも、生きてるって……。」
「はい。……まだ目を覚まさないんです、あの子。なんでかな、」
「…………。」
「すみません。こんな暗い話。」
「いえ!聞いたの私ですし、それに、きっと目を覚ましてくれますよ。きっと、」
「……はい、私もそれを信じてます。」
「…………。」
「あ、私一回お手洗いに行ってくるので、その間よろしくお願いします。」
「わ、わかりました。」
黒田先生にその場をまかせ、私は誰もいない廊下にでた。
黒田先生に悪いことをしてしまったな。
あんなに恋バナを楽しみにしていたのに、まさか彼女もこんな暗い話になると思っていなかっただろう。
******
そのまま暗い廊下を進み、お手洗いにはいかず、自分の担任する2年4組のクラスへと入った。
黒田先生、ごめんなさい。
今日は少しだけ、ここにいたいです。
「あれ、ゆり先生!なになに~さぼり?」
さっきまでの重い雰囲気を一掃するような明るい声が和あたしの耳に届いた。
「……えぇ、少しここに来たかったの。」
「わーるいんだー、先生がさぼってもいいの?」
「よくないけど……今はあなたに会いたかったんだけど?」
「んふふ~なにそれ、そんなこと言っても何も出ないよ~♪」
くるくる~と宙を飛びながら嬉しそうに彼女は言った。
「そんなこと、できたのね。」
「そんなことって?」
「それよ、宙に浮いて、まるで幽霊みたい。」
「あ、これ?すごいでしょ!意外と歩くフリより楽なんだよね~」
「歩くフリだったのあれ。」
「うん♪」
そういうと彼女はふわふわくるくると、自由に飛び回って見せた。
てっきり彼女はフィクションとかで見るような、幽霊のふわって浮くような動作ができないものだと思っていた。
まぁ、実際まだ生きているしそこまで違和感はなかったが。
「ゆりちゃん、私にそんなに会いたかったの~?」
「えぇ、とっても。」
「なに!?今日素直じゃん!!」
「……まるでいつも私が素直じゃないみたいないいぶりね。」
「あれ、違うの?あ、っていうか!ゆりちゃん、なにあの綺麗な先生と二人きりになってんの!?浮気!?」
「浮気ってね……私たちそういう仲じゃないでしょ。」
「……そうだけどさ……。」
「っていうか!見てたの!?」
「……まぁ、この体も暇なもので!」
「えへ♪」なんて笑いながら彼女は笑った。
絶対悪いと思ってないでしょ。
「で、どこまで聞いてたの?」
「ん~とね、ゆりちゃんの好きな人の話~。」
「全部じゃない!!」
「あ、でも好きな人の名前は聞いてないよ?だって、本人の口からききたいじゃん?親友だし。」
「あ……そう。親友。」
「そうそう!で、誰なの?」
「……言いません!」
「えぇ~!なんで~??あの美人な人には教えたんでしょ!ねぇ~!」
「……言ってない。」
「あ、嘘だ!ゆりちゃん嘘ついてる!!ねぇ、教えてよ~!し~り~た~い~!」
「あぁ、もう!うるさいな!」
ふわふわと視界の周りでウロチョロする彼女がずっと何か耳元で言っている。
そんなやり取りをしていると、窓の外が明るくなり、遅れて大きな音が聞こえてきた。
「わぁ~!みて!ゆりちゃん!花火!!」
「……えぇ。」
「綺麗だね。」
「うん。」
そういえばちゃんと二人で花火を見るのって、初めてだったけ。
「ねぇ、ゆりちゃん。」
「なに?」
「私、ゆりちゃんと花火見れて幸せ。」
「……えぇ、私も。」
それからしばらく、どちらとも無言でずっと花火を見ていた。
*******
「黒田先生、すみません!遅くなりました……って寝てる?」
「……すぅ。」
「ちょ、黒田先生?起きてください!」
「……あれ、夏目先生どうされたんですか?」
「もう、仕事中ですよ?」
「えへへ、あ、花火見ました?」
「えぇ、すみません。花火見てて遅くなっちゃって……」
「いいんですよ!花火はそんなに見れる機会があるわけじゃないんですから!ちゃんと見れたならよかったです!」
そういうと黒田先生は、「ん~」と伸びをして立ち上がった。
「あ、そろそろ見回りだった先生たち帰ってきますね!」
「もうそんな時間ですか。」
「はい!あ、見回りの先生に何か買ってきてもらいましょうよ!」
「なにか?」
「焼きそばとかですよ~!夏祭りと言えば定番じゃないですか!」
「いや、ダメですよ!ってか絶対に無理ですって。」
「えぇ、残念。」
「黒田先生は二日目の見回り担当じゃないですよね?なら明日買えばいいのでは……。」
「そうですよね!えへへ、たのしみです!夏目先生も明日休みですか?」
「いえ、私は教頭先生にお願いして明日も一応……」
「ダメです!!」
「え?」
「お祭りは人生で何回楽しめるかわからないですよ?一緒に行きましょ?」
「いや、でも……。」
黒田先生の圧に圧倒されていると、見回りだった先生たちが順に帰ってきた。
教頭先生ともう一人の先生が最初に職員室に入ってきた。
「いや~暑かったですね。」
「ほんと、夜とは思えなくて……。あ、夏目先生ちょっと」
「はい。」
教頭先生に呼ばれ、隅の方に行った。
「夏目先生、この前明日も見回り参加してくれると言っていただいたじゃないですか。」
「はい、特に予定もないですし。」
「いやでもね、今って残業に厳しいでしょ?だから、休んでください。」
「え、でもそれじゃぁ……。」
「大丈夫です。人手は足りてます。」
「……はい。」
突然の話に曖昧な返事をしていると、横から黒田先生が出てきた。
「夏目先生、明日一緒に行きましょ!」
「……でも……。」
「おや、いいじゃないですか。若いうちに行った方がいいですよ?この年になると生徒と会うのが嫌で行きたくなくなりますから。」
「……わかりました。」
教頭先生にも押され、了承すると、黒田先生は大きい声で「やったー!」などと言っていた。
夏祭りは高3のとき、彼女と行ってから行っていない。
久々の夏祭りに少し心がふわっと高鳴った気がした。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
ランクインもして、めちゃくちゃ嬉しいです!
これも読んでくれてる皆様のおかげです。
ありがとうございます!
2章始まりました!
これからもよろしくお願いします!