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セーラー服と先生が夏を過ごす百合のお話。  作者: 櫻はる
【1章】君という存在について
2/7

かきこおり



 「やっほ」



真夏の暑い日、夏のセーラー服を着た彼女は私の前に現れた。彼女の声に返事をする前に、ベンチのある中庭の木陰に座った。人が少ない夏休み中の校舎には、どこか遠くから聞こえる蝉と、運動部の声しかそこにはなかった。

「まだ居たんだ。」

「うん、だってゆり先生に会えるでしょ?」

私の反応を見ながら、彼女はニヤッと笑った。そうだ、彼女はそういういたっずらっぽい子なのだ。

「知ってる?最近有名なあのかき氷屋さん。教室でみんなが話しててさー」

「かき氷?」

「そう!ふわっふわらしくてさ!もー食べたい!!」

かき氷…もうそんな季節なのか。と思った。

「……食べに行けばいいじゃない。」

「またそうやっていじわるする!一緒に行こうよ!!」

「無理。夏休みって言っても、それは生徒だけ。私は忙しいの。」

彼女はほほを膨らませて、不満げな表情を浮かべる。子供っぽいが、それも彼女の魅力なのだろう。

「ええーけち!」

「ケチで悪かったわね!」

「あれ?ケチって禁句だった?」

ごめん!と、全く謝罪の意味なんて含んでいない声で言ってきた。

「はぁ、そんなに食べたいならいつか一緒に行こ。」

「え!いいの!!やた!」

”いつか”なんて曖昧な約束でも彼女は喜んでくれる。まぁ、いつか本当に行けたら、きっと楽しいのだろうと。私のその”いつか”を想像した。


「ていうかさ、ゆり先生!やっぱり今年も、夏祭りの日見回り?」

「うん。どこかの誰かさんが、いつだかの夏祭りの日に川に落ちて、死にかけたからね。」

「へへ、その節はお世話になりました!」

照れながら、彼女は敬礼をしてそういった。なぜこのタイミングで敬礼なのかはわからないが、そんなことはいい。と自分なりに納得した。

「……なんであの時川に落ちたの?」

「んー……なんでだろうね!覚えてないや」


あの時と同じ、遠い笑顔で彼女は笑った。

本当になぜ彼女があの川に落ちたのか、わからない。あの時助けに来てくれた大人たちにも、彼女は

「へへ、気づいてたら落ちちゃった!迷惑かけてごめんなさい!」

とへらへらして言っていた。

その時、私は彼女を始めて遠く感じた。しかし、当時の私はそれどころではなかった。自分のことで精いっぱいだった。彼女が、なぜ遠い笑顔をしているのか、さえ問うのも忘れるほどに。


それ以来、彼女は遠い笑顔をよくするようになり、夏祭りが近づき水位が上がりだす時期に、川には地域の人や教師、交番勤務の警官がペアで交代しながら見回るようになった。


「じゃぁ、私仕事あるからそろそろ戻るね。」

「わかった!またね!ゆり先生!」


一人になると、夏蝉の声と暑さがより一層感じられた。

かき氷、食べたいな。

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