勇者パーティーの料理番〜仲間の裏切りで流刑地送りに。同じ境遇の女神に食事を出したら、スキル【食育】で大幅レベルアップ! 絶望の森を開拓して彼女と平和に過ごそうと思います。一方勇者たちは魔王に苦戦中
「え、俺がクビ……?」
異世界に勇者として召喚された同級生5人組。
俺たちは王様の依頼で魔王討伐へと向かい、艱難辛苦の末、いよいよ魔王の居城がある直轄領に入ろうとしていた。
そんな矢先、俺は突如として仲間のリュートにクビを宣告されてしまう。
「スザク、お前のためを思って言ってるんだ。どうか聞き分けてくれ」
リュートは俺たちのリーダーで、向こうの世界では学校のみんなに絶大な人気を誇っていたイケメンリア充だ。仲間想いで優しく、常に誰に対しても気配りのできるいいやつ−–
まあただ、これは表向きの顔なんだけど。
「待ってくれよ、どうしてここまできてクビなんだ? もう魔王との決戦も近いっていうのに……」
「−–チッ。俺がクビって言ったらクビなんだよ。……ククク……いいかスザクく〜ん、魔王を討伐すれば俺たち勇者パーティーには均等に褒美が分け与えられる。それも莫大な褒美がな!」
リュートは向こうの世界でも、欲しいもののために弱者から金銭をむしりとる強欲な人間だったので、俺はなんとなく先の展開が読めてしまう。
「だが、お前はこの旅で何をやった? いつもただ後方で、俺たちに料理を振る舞っていただけだろう。まともに戦えるスキルもない能無しの雑用が、俺たち真の勇者様たちと同じだけの褒美をもらっていいわけがない。つうわけで、お前はここで下りろ。そうすれば俺たちの手取りは増える。いいな?」
他の4人は向こうの世界でもリュートと仲の良かったリア充メンバーなので知らないだろうが、本来のリュートはこういう陰湿で狡猾な性格だ。
俺は向こうの世界でもそうだったように、旅の最中もリュートのストレスの捌け口として何度もきつくあたられたり嫌がらせを受けてきた。
それに耐えられたのも魔王討伐後はこの世界でも一人で生きていけるだけの十分な報酬がもらえると聞いていたからだ。
俺はあまり欲がないタイプではあったけど、さすがにここで簡単に引き下がるわけにはいなかった。
「待ってくれリュート。でも食事はどうするんだ? それに、レベル上げの観点からみても、俺が作る食事がないと、この先厳しいはずだけど」
「食事くらいどうにかする。まあしかし、スキル【食育】には世話になったな。お前が作った食事を食べればレベルが上がるんだから、かなり楽に旅ができた。だがもう俺たちには必要ない。こないだの悪魔幹部との戦闘で既にLv99に到達でカンスト済みだからな」
リュートは既に、俺が抜ける旨をしたため手紙を王様宛てに送っているという。
功績のあった料理番スザクを、危険な直轄領に連れていくわけにはいかない。よって、彼が王国に帰還したあかつきには手厚く労を労って欲しいとかなんとか、悪知恵を働かせて如何にも勇者然らしいことを書いているようだ。
他の4人もリュートのそれらしい話を聞いて、俺の離脱については納得しているという。
レベルがカンストしていて、食事もどうにかなるのであれば、確かに俺は不要。
まあ、少し主張できる部分もあるにはあったが聞き入れられないだろう。
リュートに痛いところをつかれた俺は、あいつの思惑通りに帰還するしかなかった。
あとはもう、ここまで頑張ってきた俺に王様がある程度の褒美を与えてくれることにかけるしかなかった。
だが、そんな願いは叶わなかった。
王国に帰還した俺は王直属の近衛兵に拘束されてしまったのだから。
◇ ◇
数日して、俺が捕えられた牢の前に刑務官がやってきた。
「料理番スザク。お前は悪魔と通じ、理由をつけて王国に帰還した。そしてあろうことか王の命を狙おうとした。よって死刑。絶望の森へ送ることとする」
「はぁ……本当、お人好しすぎるというか、少しでもあいつの言葉を信じた俺がバカだった……」
捕縛された時から、こうなるよう仕向けた犯人が誰かは予想がついていた。
リュートだ。
王にしたため手紙が本当にあいつが言う通りのものだったなら、こうはなっていないはず。
きっと、今刑務官が言ったような嘘の内容を王国側に報告したんだろう。
その理由も何となくわかる。
強欲なリュートのことだ。
ここまで勇者の一人として頑張ってきた俺に、王が褒美を与える可能性を考慮したんだろう。
そうなれば自分の取り分が減るもんなぁ。
自分の利益のために策を巡らして俺を消す。
あいつの考えそうなことだった。
しかし、今さら気付いたところであとの祭りだ。
◇ ◇
俺はその後、絶望の森と呼ばれる場所に送られた。
絶望の森は一度迷い込んだら二度と出ることが叶わないといわれる場所だ。
魔王領というのもあって余計に人々に恐れられており、俺たち5人が召喚された際、王から直々に近づかないよう忠告があったほどの危険地帯である。
しかもレベルの高い強力な魔物が多く生息しているらしく、まず迷い込んだら助からないという話だった。
罪人を護送する側も危険が伴うため、護送車の周囲には王国精鋭の騎士団がつくという豪華仕様っぷり。
入ったら二度と出られない森ではあるが、なんでも昔賢者が発明したアイテムがあれば迷わず往来可能と出発前に騎士たちが話しているのを聞いたので、彼らに関しては大丈夫なんだろう。
流刑地である森についたのは真昼だった。
騎士たちは拓けた場所に俺を置いてさっさと撤退。
俺は超危険な森に一人取り残され、あとは死ぬのを待つのみだ。
「あーあ。好きな料理に勤しんで、大切な誰かが隣で美味しいと言って微笑んでくれる……そんな平和な人生を送ってみたかったなぁ」
願いを口にしてもむなしいだけだった。
それよりこんな状況でも悲しいかな腹は減る。
俺は最後に美味いものでも食べようと、今までの旅で培った食にまつわるスキルで食事の準備にかかる。
まずは探知スキルで周辺に危険がないかを確認。
次に採取スキルで香草や木の実、果物、小動物などの食べられそうなものを効率よく探す。
食器や調理器具は、食料を切る際に使う裁断スキルを駆使し、伐採した木からこしらえる。
火起こしスキルもかかせない。
最後に調味料だが、これに関しては料理人泣かせの魔法の味付けというスキルがある。
使用者の思った通りの味付けにできるというもので、魔王討伐には一切役立ちはしないが、料理人なら絶対に欲しい便利スキルだ。
「う〜ん、まさかこんな森でもそれなりのものが作れるとは感動だなぁ。……でもこれ、最後の晩餐だよなぁ−–」
暗い気持ちを振り払い、ありがたく食べようとした時だった。
草むらからうめき声を上げて現れたものがあった。
「うう、いい匂い……お願いです。私は豊穣の女神、お礼は必ずしますので、どうか、どうか食べ物をめぐんでください〜……」
薄い白布をまとっただけの美しい金髪の女性。
露出の激しいその背中には白い翼が生えていた。
俺は驚いたものの、種族がなんであれ、これだけ衰弱しきっている状態で放ってはおけなかった。
彼女は俺が作った料理をよく食べた。
あまりに食べるので急ぎ追加で食材を探しにいったほどだ。
シンシアと名乗った彼女は天界を追放された女神らしい。
だが悪いことをしたわけではなく、俺と同じように知り合いにはめられたという。
なんでもとある男神のことを知り合いの女神が好きだったらしいのだが、その男神はシンシアさんに恋していた。
そのことを知ったその女神は激怒し、シンシアさんが何人もの既婚の男神を自慢の胸でたぶらかしていると神に密告した。
結果、下界の酷い場所に堕とされ、死にそうになっていたという。
「なるほど、シンシアさんも大変だったんですね」
「はい、ですがもう大丈夫です! スザクさんのおかげでお腹いっぱいになりましたから♪ それより……わたしは戦闘経験がないせいもあって、ここの魔物たちから逃げ回るばかりだったのですが、なぜか不思議と今なら勝てる気がします」
俺はハッとしてステータスウィンドウを開く。
女神にもレベルという概念があるようで、Lv1→20に一気にアップしていた。
各ステータスもかなり上昇している。
俺の固有スキル【食育】による効果なのは明白だが、それにしてもレベルやステータス値の上昇が著しい。
女神なのでかなりポテンシャルが高いのかもしれなかった。
勇者補正が入っている俺たちでさえ、Lv20の時はこれほど高いステータスじゃなかったし、その時と比べると二倍以上の差がある。
リュートたちがLv50の時の強さに匹敵するはずだった。
「……もう終わりかと思ってたけど、まだ人生を諦めるのは早いのかも」
俺が一度死を覚悟したのは、自身に戦うために必要なスキルや力がないからだった。
だけど、シンシアさんがいるなら何とかなるかもしれない。
その後、俺はシンシアさんに食事を提供し続けた。
彼女はその特異な性質と大食いなのもあってあっという間にレベルがカンストし、勇者たちですら相手にならないほどの逸材へと成長した。
当然、絶望の森で強力な魔物たちと遭遇してもなんの問題もなく撃退できてしまう。
俺はシンシアさんと話し合った。
女神という珍しい種族が森の外では生きづらいであろうこと、罪人扱いの俺も森の外ではまともに生きていけないことを鑑み、この地で協力して生きていくことを決めた。
最初は色々と問題があったけど、彼女が持つ固有スキル【豊穣の恵み】は季節によって様々な作物をこの地にもたらしてくれたので食べ物には困らなかった。
住居や人手不足の問題もたびたび流刑地送りにされてやってくる才能豊かな新しい仲間のおかげで整っていった。
そのうちの一人から聞いた話によると、勇者パーティーは未だ魔王城に到達できておらず、直轄領内で苦戦しているらしかった。
だけどもう俺には何の関係もない話だ。
いずれ俺がシンシアさんと結婚し、絶望の森を多彩な仲間たちと作物豊かな豊穣の国にしていくのはまた別の話だ。
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