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甘い海  作者: 砂糖 蜜姫
6/6

別れよう

私と智ちゃんは次第に深くなっていった。

でもなぜかケンカのたびに智ちゃんが別れようという内容の話をしてくることが

私には理解できなかった。


秋雄と付き合ってほぼ6年。

平和主義の秋雄はケンカになってもわめき散らすようなこともなく、

私の性格も良く分かっているし、私の言い分を全部聞いてから自分の意見を言う。

同じ年なのにそういう点では秋雄は大人だった。


今まで勢いで別れようなどという言葉は一度も出たことが無く、

その言葉は最後の切り札だと私たちは理解して、絶対口にしなかった。


でも智ちゃんは簡単に言ってしまう。

こんなに何回も別れを考えてしまうほど私のことを嫌いになるのなら、

いっそ別れた方がいいのだろう。

私が引き止めるからいけないのだ。

私のために言ってくれた甘い言葉も、別れようの一言ですべて泡になって消える。

その後私の中に残るのは、空虚感、猜疑心・・・。


もともと妻子ある身、私との付き合いも試用期間なんだろうな。

次言われたら本当に離れよう。付き合うべきじゃなかったんだ、私たち。



いつしか心でそう決めていた。

そんな日が来るのが少し怖いけれど、その日は案外早く訪れた。


仕事中からメールでもめていた。

内容はたいしたことではなかったが、智ちゃんはやはり、別れを口にした。


仕事が終わり、その日私は飲み会だった。

前の会社の後輩の寿退社の送別会とお祝いを兼ねた会だった。

私はサプライズゲストとして、その会場に呼ばれていた。


会場まで向かう途中に意を決して智ちゃんに電話した。

「今日のケンカのことだけど。別れようって言ってたよね、智ちゃん。

付き合いだしてまだ1ヶ月もたたないうちに、私は3回も別れようって言われたから

考えてたんだ。」

「え?別れるってこと?」と智ちゃんが焦った声で尋ねた。


「あんなに愛してくれて本当に嬉しかった。でも簡単に別れちゃうくらいの愛情だったんだなって。

短期間に別れを何回も告げられる私は智ちゃんと合わないんだよ。

もともと、妻子持ちの人と付き合うべきじゃなかった。

出会わなかったことにしとこ。今までアリガト。

嫌なこと沢山言っちゃったかもしれないけどごめんね。」


私は、一方的に話をして時間が無いと言って電話を切った。

とても悲しくて、自分が智ちゃんにつりあう女になれなかったことにも悔しくて、

嫁に負けたんだと思うと更に悔しくて泣いた。

無理やり切らずにいたら今度は引き止めてくれてたのかな。


風が強い日だった。通り過ぎるカップルや家路を急ぐサラリーマン。

ああ、この人にも家庭があるんだろうな。

家族って夫婦って一体なんだろう・・・。

別れてしまう前にもう一度二人きりでお話したかったな・・・。

もう会社で会う「坂本さん」でしかないだろう。


たった1ヶ月に満たない日々に起きた、楽しかったこと、ケンカしたこと、

愛し合ったこと、いろんなことが頭に浮かんでは消え、

その度に涙がこみ上げてきた。

私は手で涙をぬぐいながら風で乾かした。



送別会のお店まではまだ距離がある。

その間に気持ちを入れ替えよう。

家に帰ってから泣けばいいさ。


そうして送別会のお店へ近づいて来た。

「ああ!!!!舞さーーん!!!」と後輩の美貴がとおくから手を振っている。

今日の主役だ。

大荷物を両手に抱えて走ってくる。

近づいてくると顔は半泣きだ。

「舞さん、何で来てくれたの?誰が呼んだの?ぅ、嬉しい」と大袈裟なくらい私に抱きついた。

さっきまで泣いていた私もここまで泣いて喜んでくれる人が目の前にいたら

泣いてはいられない。


「サプライズゲストって言って呼ばれてたんだよ。ほら、もう泣かないの!主役でしょ。」

美貴は大学時代から仕事場まで一緒だった一つ下の後輩だ。

私のことをお姉さんのように慕ってくれる。

とても甘えん坊な女の子だ。


久しぶりの会社の仲間にわいわい楽しい飲み会。

店は私が以前働いていた時から使っている馴染みの小料理屋だった。

久しぶりの光景に失恋の痛手も癒された。


会社の皆は自分の彼氏の話や仕事場での話で盛り上がっている。

不倫なんて二股なんてするもんじゃないんだ。


携帯も床において話に夢中になっていた。

ふと見ると、未読メールのランプが点滅している。

「何時まで飲むの?」という智ちゃんからのメールだった。

もう別れたのにまだ心配してくるんだ・・・。

「わからないけど、終電までには帰るよ。」とだけ返信しておいた。


楽しい時間はあっという間に過ぎて帰る時間になった。

携帯にやたらメールが来る。

「舞さん、久しぶりに一緒に帰りましょうよ~!電車でまだ話したですぅ。」

と同じ方向に帰る後輩達2,3名がほろ酔いできゃぴきゃぴしている。


ふと、携帯を見ると

「近くに来てる。家まで送るから。柳通りのコンビニ裏にいます。」

とともちゃんからだった。

なんで来たんだろう。最後のお別れを言いにきたかな。

律儀な人だし。


「ごめん、彼氏が近くまで来てるから家まで送ってもらうわ~。今日は楽しかったよ!ありがと~!」

と後輩達に手を振って私は逆方向に急いだ。


どんな顔して会おうか。

バッグに入っていたガムを噛みながら、自動販売機で水を買い、そこへ向かった。


智ちゃんの車がそこにあった。

運転席のシートを倒して手を頭の後ろに組み、ボーっとしている智ちゃんがいた。


助手席にまわり、窓ガラスをコンコン、とノックする。

すぐにロックを解除してドアを開けてくれた。

「どうして迎えにきてくれたの?ありがとう。」

私は付き合っていたときと同じトーンで明るく接した。


彼はぶっきらぼうに

「心配だからきた。」とだけ言って、私の家の方向に車を飛ばす。

無言の時間・・・。

別れてしまったのに何を話していいのかわからない。

「何時からいたの?」

「10時45分くらいかな。」

「えーー、じゃあ私が来たのが11時半前だから結構待たせちゃったね!ごめんね!」

「いいよ。」


かなりぶっきらぼうだ。

そんな態度しかできないなら無理してこなくて良かったのに。


いつもの海辺に着いた。

今日は満月で街灯が無くても海が明るい。

「ちょっと潮風にあたろうかな。」と独り言を言いながら窓を開けた。


はぁ。どうしよ。まっすぐ家には行かなかったな。


「舞」

「何?ここまで来させちゃってごめんね!」

「舞、オレ舞と別れようなんてこれっぽっちも思ってないんだ。

ずっと愛してるし、今もどんどん気持ちは深まってる。本当に愛しているんだ。

オレが悪かった。本当にごめん。

別れるなんて言ってごめん。」


強気な智ちゃんが初めて下手にでた瞬間だった。

私は動揺した。

「な、なんで別れようってすぐ言っちゃうの?」

「自分でも分からないんだ。舞をオレのものにしたい、でもすぐにはできない。

舞はオレなんかすぐ捨ててしまうんじゃないか、って考えたり・・・。

失うのが怖くて・・・。でも・・・。

口が勝手にというか気づいたら言ってしまってるんだよ。」



「気づいたら言ってしまうってのは良く分からないけど。」

私は内心すごく嬉しかった。

ここまで来て、私に謝って、もう一度やり直そうと言いに来たのだ。


「本当にごめん。オレはあの後すごく後悔したんだ。オレの言った一言で

舞がオレから去っていく。会ってくれるか分からないけど謝りに行ってもう一度付き合おうって言いたいと思ったら居ても立ってもいられなくなって・・・。来ちゃった。」



「ありがとう。嬉しいよ。」

私は智ちゃんに抱きつき、厚い胸で再び泣いた。

「舞、ごめんね。大事にするから。付き合おう。別れるなんて言わないから。顔上げて」

そういいながら私の涙をぬぐってくれて、

優しくキスをした。涙の流れたほっぺにもキスした。



私は無言で何度も智ちゃんに抱きついて、智ちゃんの体温を感じていた。

ここにいる。

智ちゃんが私のところに帰ってきた。

またこの胸で大きな手のひらで私を包んでくれる。

いつも面白いことを言って笑わせてくれる。

デートできる。

またベッドで愛し合える。



智ちゃんの真っ直ぐな気持ちと、大きな体に私はすっかり心を奪われてしまった。

これが不倫だということも忘れて・・・。




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