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第1章 最終話 理由

「何しに来たんだよ。学校は?」

「今日蜂の巣が何個も見つかって危ないから休みになったんだよ知らないの? あーそっか退学になったから知るわけないよねー」



 尾歳の言葉にクラスメイトたちがクスクス笑う。えーと、カースト的には高めの男女6人。普段はこういう陰湿なことしないんだけどな……金もらってテンション上がったか。



「それで、何で高校から離れたここに?」

「やだなー、大切な友だちがホームレスになっちゃったから様子見に来たんだよ。ほら、これコンビニのお釣り。困ってるだろうからあげるよ」



 そう言って尾歳は小銭数百円を床に投げ捨てる。



「……ありがたくもらうよ」



 床に膝をついて拾い集めていると、上から笑い声が漏れてくる。別に前もこれくらいするけどな。金は大事だし。



「昨日どこで寝たの?」

「公園のブルーシートハウスで」


「へー。ちゃんと寝れた?」

「まぁ疲れてたからな。身体はバキバキだけど」


「ごはんどうしたのさ」

「夜は川の魚。朝は食ってないな。昼はゴミ箱を漁る予定」


「かわいそー。なんか奢ってあげよっか?」

「そうしてくれると助かる」



 見下す言葉を浴びながら金を回収し終え、立ち上がる。これでこいつらも満足しただろう。金ももらえてwin-winだ。いや……何なら聞いておくか。



「そういや俺を裏切って100万もらったんだっけ? それって一人ずつ?」

「んなわけないでしょ。全員で100万」



 うちのクラスは俺を除いて33人……実行役の尾歳は大目にもらったとして、一人3万から2万程度か……安いな。担任は別口でもらったとして、使った金額はせいぜ150万か200万。てっきりライバル企業が日車グループを潰すためにまず俺からと思ったが、この安さからしてそれはないか。第一俺から嵌める必要性もないしな……とすると誰が犯人なんだ……?



「日車くんにとってもう一生手が届かない金額だね。どう? 悔しい?」

「いや別に……100万程度だろ? そうでもないかな」

「そういうところがむかつくんだよ!」



 普通に返事をすると、尾歳が突然俺の横腹に蹴りを入れてきた。別に痛みはないが、突然大声を出されてびっくりした。



「どうせそうやって私たちのこと貧乏人だって馬鹿にしてたんでしょ? あんたみたいな金持ちはわからないだろうけどさ、100万円はね、大金なの」

「いやそれくらい知ってるって。俺も毎月必要経費除けば3千円くらいでやりくりしてたし」


「じゃあ100万程度なんて発想出るわけないでしょ!?」

「あーごめん、それは企業として考えてたから。個人にとって100万はすごい大金だよ。2万3万も高校生からしたら手が出ないよな。だから裏切るってのもわからなくない」



 でもなんていうかな……これくらい言わせてほしい。



「でも俺はいくら金を積まれたって友だちは裏切らない。それはホームレスになっても同じだ。別にそれが良いとか悪いとかじゃなくて、俺はそうだってだけだから。金で友だちを売ったことを責めてるんじゃないよ」



 たとえ裏切られたとしても、友人だったのに変わりはない。もうそうじゃないのかもしれないけど、それだけは伝えておきたかった。



「じゃあ俺忙しいから。また機会があったらな」

「……悔しがりなさいよっ!」



 店の中に戻ろうと背中を向けると、尾歳の絶叫がフロアを埋め尽くした。振り返ると、なぜか尾歳が歯ぎしりしながら俺へと迫ってきている。



「私はあんたを裏切ったんだよ? 学校を退学させられて、家を勘当されて! あんたは全てを失った! それなのになんで平然としてられるの!? 恨みとかないの!?」

「恨んでるよ当然だろ?」



 そう答えると、尾歳の足が止まった。一体何を勘違いしているんだか。俺は別に聖人ってわけじゃない。



「裏切られて恨まないわけがないだろ? 実際全てを失ったんだ。正直何発かぶん殴ってやらないと気が済まない。でもおかげで、手に入れたものもあるからな。あえて言わなかっただけだ。お前らに恨み言ぶつけても何の得にもならないしな」

「えーじくん……」



 顔を正面に向けると、アンちゃんが近づいてきた。黒を基調としたゴスロリ風の服を着たアンちゃんが。



「誰だよあの美少女……」

「日車の彼女……? なんでホームレスにあんなかわいい彼女ができるんだよ……!」

「あいつにはもう何もないはずなのに……」



 背中から男たちの声がする。視界に入らないからどうでもいいが。



「こういう服がよかったの?」

「いえどういう服にしたらえーじくんが喜んでくれるかわからなかったので店員さんに選んでもらいました……メイドさんが好きみたいなので……」



 いや別にメイド服が好きってわけじゃ……後ろで店員さん親指上げてるけどこんなホームレスいるかよ……。



「それ一着だけ?」

「いえ、安い服を合わせてごすろり? っぽくしたみたいなので……他にもいっぱい買えました!」



 アンちゃんが紙袋を広げると、メイド服の他にも何着か服が見える。これなら川で洗濯すれば毎日清潔な服着れるかな。店員さんに後でお礼言わないと。



「この人たちは?」

「俺の元クラスメイト」


「くらすめいと? お友だちですか?」

「そんなところ。仲良くはないけどな」


「そうですか。じゃあ急いで帰りましょう! 今日はお引越ししなきゃですし」

「だな。それじゃあ……」



 アンちゃんと並んで立ち去ろうとすると、尾歳が俺の前を塞いだ。その視線は俺ではなく、アンちゃんに向けられている。



「彼女さん? そいつやめといたほうがいいよ。元々金持ちだし勉強もできるけどさ、今はホームレスだし何もない。ゴミみたいな男だよ。こんな男と付き合うメリットってある?」



 事実過ぎて何も言えない。実際今の俺には何もない。だが当のアンちゃんは、かわいく首を傾げていた。



「めりっと……ってなんですか?」

「俺と一緒にいていいことあるの? って聞いてる」


「あー……んー……あんまないかもですね。よくわからんですけど」

「ひどい……」


「だってわたしが食べるおさかなさんの数減っちゃうじゃないですか! 服もほんとは買いたくなかったんですよ!?」

「ごめんごめん。なんか考えとくよ」



 アンちゃんが気にせず尾歳の横を通り抜けようとする。その腕を、尾歳が掴んだ。



「じゃあなんで……一緒にいるの……!?」

「一緒にいたいからです。理由なんてよくわからんです」



 異次元パワーが尾歳の腕を引き剥がす。アンちゃんを縛れるものは何もない。



「おすすめのゴミ捨て場あるんですよ。いいお弁当捨ててあったらいいですねー……」



 お人形のような姿をしながらぶっ飛んだ発言をするアンちゃんについていきながら、忠告する。



「金もらったってことは了承したってことだからな。身辺には気をつけろよ。たぶん相応に、やばいから」



 誰が犯人かはわからないが、何かが裏で動いているのはわかる。だが俺にはもう関係ない。既に落ちた先で、幸せに生きているのだから。

これにて第1章終了となります! 次章はもっとホームレスらしくなっていきます(?) あと登場人物が増えたりしていきますし、裏で動いている何かが出張ってきて、元クラスメイトや元家族が大変なことになっていきます。お楽しみに!


ここまでお読みいただきありがとうございました! おもしろかった、続きが気になると思っていただけましたらぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークしていってください! みなさまの応援が力になりますので、何卒何卒お願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 何と、馬鹿ども1人100万でなく(まあそれでも危ない橋とも言える)、たった3万ぐらいの為に、こんな事したの。
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