第1章 第6話 採寸
「はぁ……っ、はぁ……っ」
「…………」
平日昼間のデパート。荒い息と涎を口からこぼしながら歩いているメイド服の女と、その首輪から伸びるリードを引いている男の2人組が闊歩していた。
「通報不可避!」
「ちゅー……ちゅーしませんか……?」
なんだこの不審者集団は……! ていうかなんで興奮してんだよアンちゃんは……締め付けられるの嫌いとか言ってたのに……いや待てよ。
「いいか、アン。メイドはご主人様に逆らっちゃいけないんだ。マンガもそんな感じだっただろ?」
「さ、逆らえない……!? え、えっちな格好で恥ずかしいのに抵抗できないなんて……ぅへへ……」
だからなんで興奮してるんだって……こういう時だけ世間の常識わかってるし……でもいい。これである程度コントロールできる。でも我慢させ続けると無理矢理押し倒されてキスされかねない。そうなったら本格的に通報される……!
「……とりあえずこの店にしとくか」
デパートの中にあるレディースの販売店を指さす。本当なら中古店がいいが、後々を考えると長く着れるものがいいし、値段も比較的安め。何より下着の中古なんてないだろうし、この状態で店のはしごなんて無理。この店に絞ろう。
「何かおさがしで……」
だが店に入った直後、大学生らしきお姉さんの店員の動きが止まった。しかも通報する気かバックヤードに戻ろうか悩んでいる感じだ。逃げるか止めるか……仕方ない。
「あの……普通の! 服を探してるんですけど……」
「ふ、普通の! 服ですね、かしこまりました……」
意を決して話しかけると、向こうも意を決した感じで応対してくれた。よし、これなら大丈夫。とりあえず汚れが目立たないように……。
「黒の下着試着させてくれませんか?」
……あれ? 変態発言すぎない?
「じゃあ……採寸からしましょうか」
だがギリギリセーフだったのか、店員さんはにこやかにそう答えてくれた。しかしアンちゃんが俺の背中に隠れて動かなくなってしまった。
「……どうしたの?」
「……やっぱりいやです。締め付けられるのもうやです……」
そして問題発言。これには店員さんからも笑顔が消えたが、俺もそうだった。
「……ごめん。嫌ならやめようか」
結局俺は昨日と同じことをしていた。嫌だってずっと言っていたのに、無理矢理連れ出していたんだ。下着はつけた方がいいし、あんな服で街を出歩くのはありえない。でもそれは、世間の常識だ。アンちゃんはそれでもいいと言っていたのに。
「これは俺のわがままだ。アンちゃんが嫌なら無理してやる必要はないよ。ただ……昨日の奴らみたいに他の人に……そういう目で見られたくなかった。そんな俺の、勝手なわがままなんだから」
「……えーじくん」
俺の言葉を聞いたアンちゃんが、一歩前に出る。
「わたしがんばります……。やっぱりいやですけど……えーじくんがわたしのことを気遣ってくれるなら応えたいですから……。その代わり、いつかわたしのわがままも聞いてくださいよ?」
「うん……がんばる」
「ではこちらに」
俺たちの会話を遠くから聞いていた店員さんがアンちゃんを試着室に連れていこうとする。だがアンちゃんが俺の腕を掴んだ。
「一人はいやなので……一緒に来てください」
「え?」
「え?」
俺と店員さんの困惑も虚しく、3人での採寸が始まった。
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