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第1章 第5話 引っ越し

「んん……?」



 目を覚ましてまず初めに思ったことは、いつもと天井が違うということだった。暗く閉塞感のあるブルーシート。そして次に身体の痛みを覚え、思い出す。俺がホームレスになったことに。



「くー……くー……」



 横を見ると、俺に寄り添いながら寝ている美少女。アンちゃんの姿があった。ていうか俺自分よりちっちゃな女の子に腕枕されてるんだけど……昨日寝る前何があったっけ……? あまり覚えてない。



「……起きるか」

「んん……」



 隣のアンちゃんを起こさないようゆっくりと立ち上がろうとすると、寝ているはずの彼女がその細い両腕で俺の身体をがっしりと掴む。相変わらずすごい力だ……寝起きとはいえ全く引き剥がせる気がしない。



「あれ……おはようございます……えーじくん……」

「ああ……おはよう」


「んんぅ……」

「!?」



 俺の抵抗に気づき目を覚ましたアンちゃんは。とりあえずといった感じで俺の身体の上に覆いかぶさると、有無も言わさずキスをしてきた。



「ちょっ……まぁ……!」

「んんぅ……んんむ……」



 やはりというかなんというか、どんな状態でも力では敵わない。その時間が続くことおそらく5分。



「おはようございます! えーじくん!」

「ぁぁ……ぉはよぅ……」



 めちゃくちゃ艶々になったアンちゃんが笑顔で挨拶してきた。



「あの……いきなりキスするのやめてもらっていい……?」

「いいじゃないですか。わたしも幸せ、えーじくんも幸せ。何も悪いことないじゃないですか。それに結婚するんですし」


「いや結婚はしないから……。それに言っただろ? こういうのは好きな人同士がやるものだって」

「す、好き……好き……ですか……」



 なぜか急に顔を真っ赤にし出したアンちゃんを無視し、外を確認する。焚火は消えているし、人影も見えない。遠くに見える公園の時計台は朝6時を指している。いい時間かな……。



「アンちゃん、引っ越しするぞ」

「なんでですか!?」



 あまり時間はかけられない。昨日高校生たちが命の代わりに差し出したカバンの中を漁る。



「勉強道具ないな……それはいいとしてパンとおにぎり……運動部なのかな、シャツとズボンもある。あと財布の中は……4万か。あいつらもいいとこ育ちだったのかな……」



 とりあえず財布の中から金を抜き、食料と服だけもらって残りは家の外に放り投げる。本当ならカバンもいただきたいが、それくらいは勘弁しておいてやろう。



「あの……なんで引っ越しを……?」

「言ってしまえばカツアゲだからな。あっちが先に仕掛けてきたとはいえ、それなりに大きな犯罪。警察に通報されたらさすがに逃げ切るのはきつい」


「そんなことされたらまたボコボコにしちゃえばいいじゃないですか!」

「発想が物騒……いやそれがここでの常識なのかな……。それはそれとして、まだ理由がある。ていうか一番なんだけど、ここら辺の魚は不味い! もっと上流の方に行こう。別に山の方でもいいだろ?」


「山……別にいいですけど食料調達大変になりますよ? わたしよくコンビニとかスーパーのゴミ漁ってるので」

「そんな田舎までは行かないよ。まぁ駄目だったら住処を変えればいい。ホームレスの利点だな」



 それに加えて、あと一つ。



「アンちゃん、服買おうか」

「なんでですか!?」

「なんでって……」



 腋とへそが見えるほど破れたブラウス。少し動いただけで中が見えそうなほどビリビリのスカート。もはや何の意味があるかわからないほどに穴だらけのニーソックス。片方しかない靴。そして……。



「頼むから下着をつけてくれ……!」

「? 履いてますよ?」


「スカート捲るな! そっちじゃなくて胸……その、目に悪いから……!」

「あーそっちですか。でもわたし締め付けられるの嫌いなんですよね」


「じゃあ胸が目立たない服買うぞ! 4万もあればそれなりの数揃うだろうから。でも服を買いに行くための服もないんだよな……」

「一応ありますよ? わたしの宝物コレクションですけど」



 アンちゃんはそう言うと、ブルーシートの壁を上げる。すると泥まみれのキャリーバッグが姿を現した。開けてみると、いくつかの布と青年誌が入っている。



「メイド服にチャイナ服……ナースにスク水……コスプレ道具ばっかだな」

「いっぱい落ちてました。でもその……これってえっちなことする時に着る服なんですよね……?」


「いやちが……くはないのか。どう見ても安物だし……。じゃあこの中でまともなのは……メイド服になるのかなぁ……これ着てくれる?」

「わ、わかりました……」



 今着ているものよりはかなりマシなのになぜか顔を真っ赤にしているアンちゃんを置き、家の外に出る。季節は春だが、すぐに夏になるだろう。冬よりはマシだが、夏は夏で大変だ。言ってしまえば終わることのないキャンプ。外にいることになるんだし、服はいくらあってもいいだろう。



「お待たせしました……」



 少し待っていると、メイド服を着たアンちゃんが出てくる。いや、メイド服だけじゃない。



「なんで……首輪……?」

「わたしマンガで見ました……」



 そう言って広げた青年誌に書かれていたのは、首輪をつけられたメイドさんが衆人環視の中を歩いているシーン。



「え、えーじくんはこういうことしたいんですよね……!? わ、わたしもしてみたいので……お願いします……!」



 そう希望するアンちゃんの顔は、欲望と興奮に満ち溢れていた。

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

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[良い点] このイかれてる世界観めっちゃ好きです応援してます!
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