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第1章 第4話 弱肉強食

「これ……すごいきもちいいんですよね……? わたしすごい楽しみです……」



 自分で押し倒しておいてなんだが、めちゃくちゃに期待しているアンちゃんの顔に思わず腕を放してしまう。俺自身こういうのは初めてだし、何よりこんなの間違ってる。同意の上ではあるが犯罪的だ。



「えーじくん……」

「うわっ!?」



 だがアンちゃんは小さい身体のどこにそんな力があるのか、逆に俺を押し倒すと腕を掴んで逃げられなくする。ちょっ……ほんとに力つよ……! 俺一応毎日鍛えてるんだぞ……いや、毎日川に潜って魚を獲っている人の方が力が強いのは当然か……。



「あのな、こういうのは好きな人同士がやるもので……!」

「大丈夫ですよ……2人ともきもちいいのはマンガで知ってるので……」

「っ……!」



 そして俺の抵抗も虚しく、俺とアンちゃんの口が重なった。



「んんっ……んん……!」

「んむ……んん……」



 抵抗する俺の口内を貪るように掻き回すアンちゃん。だがしばらくして普通に口を放した。



「あれ……? 思ってたよりきもちよくない……」

「当たり前だ……!」



 がっかりしているアンちゃんに少し怒りを覚えながらも、引き剥がしながら伝える。



「アンちゃん……君は少しおかしい。常識を知らない。これな、普通に犯罪だぞ……」

「まぁそうかもですけど……公園に泊まるのもよくないことなんですよね? 今さらじゃないですか」


「だからな……アンちゃんは普通の生活送れるんだって! 役所と話せば生活保護してくれるだろうし、年齢にもよるけど学校にも通えると思う。そうしたらもっとちゃんとした家に暮らせて、いいごはん食べられて、綺麗な服が着られる。そのためにも常識を身に着けよう。できる限り協力するから」

「えーいいですよ。確かにもっとおいしいごはん食べられるなら食べたいですけど……別に今の生活で満足してますからね。これ以上は別にいいです」



 ……はぁ。ダメだ……この子は。合わない。



「とりあえず焚火消してくる……バケツ借りるな」

「はいどうぞー」



 泥まみれのバケツを手に、家にもなっていないブルーシートから出る。……こういうタイプが一番嫌いだ。向上心のない、現状維持に甘えてるタイプが……。知らない世界に踏み入れるのが怖いのはわかる。でもちょっと努力しただけで生活が良くなるんだ。それすらしないのは怠惰というものだろう。



 公園のトイレで水を汲みながら決意する。アンちゃんとはここで別れようと。石をぶつけてしまった罪悪感と助けるために残っていたが、これ以上話していても無駄だ。変わろうとしていないのだから。俺がいてできることはない。



「……ん?」



 水を入れたバケツを手に戻ると、家に男子高校生っぽい服装の2人が入ってきているのが見えた。



「あれ? ホームレスじゃないの? 遊ぼうと思ったのに」

「いいじゃんエロい格好の美人。こっちの方が楽しそうだ」



 近づいてみると下卑た会話が聞こえてくる。ようするにホームレスをいじめようとブルーシートハウスに近づいたのだろう。それで予想外にアンちゃんがいたからそれはそれでって感じか。……クズ野郎共が。アンちゃんには負けても、こんな弱い者いじめをする連中には負けないだろう。軽く懲らしめてやるか。



「わたしもほーむれす……ってやつですけど」

「マジ!? 君くらいかわいいなら身体売ればいくらでも稼げんだろ!」

「もったいねー。こんなとこ捨てていい暮らしできんのによ」



 だがその足が、止まった。俺も、こいつらと同じだったからだ。



「別にいいでしょう……どんな暮らしをしても。わたしの人生です。わたしの……自由です」



 もちろん身体を売れだなんて思ってない。でも意味は同じだった。ホームレスなんてやめて普通に生きろと、偉そうに上から目線でお説教していた。



「あなたたちの人生を否定するつもりはありません。でもわたしは好きでこの生活をしてるんです。それの一体何が問題なんですか。どうして見下されなきゃいけないんですか。そういう人間が……一番嫌いです」



 向上心がないのは俺の方だった。変わろうとしていないのは俺の方だった。俺は……。



「よぉ、兄ちゃんたち。そんなところで突っ立ってないでさ、遠慮せずに入れよ」

「がっ!?」



 家の前にいた男の背中を蹴とばす。そしてもう一人も家へと投げ飛ばし、二人から自由を奪う。



「だっ……誰だよお前は……!?」

「えーじくん!?」



 誰だよ、か。そんなの捨てられた時から、わかっていたのに。



「俺も同じだよ。アンちゃんと同じ、ホームレスだ」



 その事実を受け止められないでいた。でも今は違う。



「ごめん……俺が間違ってた。いや、間違ってはないんだろうな。でもアンちゃんも、間違ってない。自由にやればいいんだ。それなのに俺は、普通に生きるのが幸せだって思い込んでた。ホームレスを、見下していたんだ。でも俺もホームレスになったからな……こっちの常識で生きないと、非常識なのは俺の方だ」



 男の一人の腹を踏みつけ、迫る。無法者のやり方で。



「弱い者いじめは楽しいよな。反撃してこないから優越感を満たせる。でもホームレスだから弱いって考えは甘いんじゃないか?」

「おっ……おい! 暴行罪だぞ!?」


「ホームレスもな。言ってしまえば既に罪を犯してるんだ。失うものなんて何もない。そんな相手によく喧嘩売れるよな。こっちは人を殺したら家に住めるんだぜ? 法律なんか気にするかよ」

「ひっ……ひぃ……!」



 まぁもちろん殺人なんてするつもりはない。そうしたら、アンちゃんといられなくなる。



「わざわざ法律に守られた世界にいたのに、法外な世界に軽い気持ちで遊びにきたのはお前らの方だ。弱肉強食。弱者が強者の餌食にされるのは……当然だよな?」

「ご……ごめんなさい……ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」



 高校生たちが逃げていく。荷物をその場に投げ捨てて。



「……これじゃ本格的に犯罪者だな。まぁいいか、どうせ失うものは何もないんだし」

「えーじくん……」



 部屋の隅。段ボールが足りなくて土になった場所にへたり込んでいるアンちゃんに、頭を下げる。



「ごめん、アンちゃんの嫌なことをしてた。でももう大丈夫だ。アンちゃんがいいなら……一緒にいさせてほしい。俺に帰る場所なんて、もうないから」

「えーじくん……!」



 アンちゃんが俺に抱きつき、さっきのように押し倒してくる。そしてそのまま俺の口内を貪り、笑った。



「なんか変です……さっきは全然きもちよくなかったのに、今はすごい幸せです……! 心臓がバクバクして苦しいのに……幸せな気持ちでいっぱいなんです……。どうしてなんでしょうか……!」

「ちょっ……ちょっとストップ……!」



 自由に気持ちをぶつけてくるアンちゃんと、たまらず待ったをかける俺。だがアンちゃんはどこまでも強欲に、自分らしく。唇を舐めて、微笑む。



「じゃくにくきょうしょく……なんでしょ? 満足するまで食べさせてもらいますから……ね?」

ここまででプロローグ終了となります。次回から本格的に物語がスタートし、主人公を裏切った人たちにも動きが出てきます。おもしろかった、続きが気になると思っていただけましたらぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークしていってください! お願いします! それでは本年はお世話になりました!

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