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第3章 第2話 才能

「本日はよろしくお願いします!」

「『ペンライディング』さんね、よろしくー」



 昼のライブハウスを借りて行われた芸能プロダクションのオーディション。筑波さんたち三人が大きな声で挨拶すると、プロダクションの人間と思われる男が軽い感じで手を挙げる。まぁスカウトでもなければオーディションなんてこんなものだろう。



「で、君は?」

「はじめまして。『ペンライディング』のマネージャー、日車英司です」



 三人の横にいるスーツ姿の俺に気づいた男が目を向けてきたので名刺を渡す。とは言っても名前しか書かれていない意味のないものだが。



「マネージャーって……」



 スーツを着た子どもが玩具みたいな名刺を渡したことに笑いを堪えられない男。いまだに名乗りもしないことから本気で応対する気がないことがうかがえる。



「じゃあ圭、後はがんばれよ」

「はい、ありがとうございます!」



 とりあえず偉そうに筑波さんたちを送り出し、男に改めて軽く頭を下げた。



「兄がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」

「兄……日車……まさか……!」



 伝わってくれたようでよかった。これを知らなかったらここに来た意味がないからな。わかりやすく態度が変わってくれて助かる。



「お宅も大変でしょう。一応、日車グループの会社ですからね」

「いえ……その……はは……」



 痴漢冤罪で逮捕されたのは日車家次男。日車才蔵(ひぐるまさいぞう)。家柄があるとはいえ26歳という若さで日車グループの内の一社の経営を任されている優秀な人物だ。そう、優秀なんだ。女遊びは激しかったが、金を払って節度を持って遊んでいた。少なくともリスクの高い痴漢なんかをする男ではない。



 誰かに嵌められたのは間違いない。だがその誰かに心当たりがない。俺を嵌めたのもおそらく同じ人間だ。調査したいが、勘当された身では近づくことすらできない。だから中心から遠いこの芸能事務所の人間に、内情がどうなっているかを聞く。そのために俺はマネージャーに扮することにしたのだ。



「その……そちらも大変かと……。お兄様が逮捕されたなんて……」

「あぁ、私はあまり関係ありませんよ。既に家を出たので」


「家を……!?」

「今は才能溢れる若者を育成する仕事をしています。どうですか? 『ペンライディング』。悪くないでしょう?」


「はぁ……そうですね……」

「…………」



 俺が家を出たと聞くと、再び男の態度が変わる。事務所的には元々落とすつもりだったのだろう。デモを聞いて一応オーディションに招いた、仕事してますよと事務所内部に報告するための道具。まぁ実力的には仕方ないか。でも……。



「オーディションに招いてくださりありがとうございます。実績が浅いのでどこも相手してくれないんですよ。彼女たちも、私も」



 実力だけで戦っていけるほど大人の世界は甘くない。だが逆もまた然り。実力がなくても活躍している人たちもたくさんいる。



 俺もそうだ。損切りが苦手な俺に経営者としての才能はないが、才能がなくたって何とでもなる。経験さえ積めば、人は自然と成長するものだ。



「そんな見る目のあるあなた方となら、いいビジネスができそうです」



 手札が悪くても、使い方次第。教えてやるよ。格の違いというものを。

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