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第2章 最終話 筆が乗る

「じゃあ具体的にバンドを成功させる方法ですけど」



 筑波さんと澤田さんが話している間にスマホを拝借し、メッセージを送信して俺は告げる。



「俺とアンちゃんをバンドメンバーに入れてください」



 それはめちゃくちゃ単純な方法。上手いメンバーを加える。それが最短の道だ。



「アンちゃんのギターは間違いなくプロレベルです。まぁ技術だけで知識や機材の使い方はわからないだろうけど、それでも演奏の面だけで言えばこの中で断トツ。前にも言ったけど俺はピアノが弾けます。プロレベルとまではいかないけど、キーボード担当にしてもらえば必ず役に立ちます。断る理由ありますか?」



 抱き合っていた二人が俺へと視線を向ける。今までの俺は、この瞳を見ようとしなかった。その視線にどんな意味があるかなんて、気づこうとはしなかった。



「すごいドヤ顔……歪ませたい」

「ついでに言えば俺は作詞と作曲ができます。ギターボーカル、アゲハさん。ベース、澤田さん。ドラム、筑波さん。リードギター、アンちゃん。キーボード、俺。このメンツならすぐにとは言いませんが、一年以内にはデビューできますよ」



 怖いことを言っている澤田さんを無視して俺は続ける。独りよがりで傲慢な提案を。



「デビューしたいんですよね? ならこれ以上の選択はありませんよ」

「日車くん……私たちは……」


「別にいいでしょ? 本気でデビューしたいんだったら。手段を選ぶなんて普通の人間がやることですよ」

「そうかもね……でも……」


「どんな手を使ってでも勝つ。その気概がない人間に俺が手伝えることはありません。そのまま一生底辺で……」

「私たちはっ!」



 近所迷惑も厭わない大声が、部屋の中に満ち溢れていく。



「『ペンライディング』は……私たちの青春を綴るって意味で付けたバンド名なの。でも私たち馬鹿だったから……書くって意味のライティングじゃなくて乗るって意味のライディングにしちゃったんだ。でも筆が乗るって感じで縁起いいねって笑って……そういうバンドグループなの」

「……それで?」



 筑波さんの瞳が変わる。不安で泳いでいた瞳から、俺を非難する瞳。そして、力強い瞳へと。



「これ以上人が増えたら乗れなくて沈んじゃうから。私たちは三人でやるよ」

「……そっか」



 それが聞けてよかった。それに、



「まぁどっちがいいかなんてわかりませんからね。俺、まだ三人での演奏聴いてないんで」

「あれ? そうだったっけ? じゃあその上から目線は失敗だね。私たち三人の音楽を聴いたらびっくりするよ」


「変わりませんよ。俺は独りよがりで傲慢で上から目線なんで。たぶん誰に何を言われても変わらない。それが俺の個性なんで」

「ふふっ、そっか。まぁそういう日車くんも嫌いじゃ……」


「えーじくーーーーーーーーんっ!」



 筑波さんの心の叫びよりも大きな叫びが部屋に木霊する。そしてその声の主は俺の姿を見つけると一直線に飛びついてきた。



「えーじくん大丈夫ですか!? わたしに会いたかったんですよね!? かわいそうに……いっぱい愛してあげますからね……」

「ちょっ……まっ……!」



 アンちゃんに押し倒された衝撃で、背中に隠していたスマホがソファから落ちる。澤田さんのスマホからアゲハさんに送ったメッセージが表示されたスマホが。



「師匠……他人の家に勝手に入るなんてロックすぎる……!」

「……アゲハ」

「ひさしぶりだねー、この三人でこの部屋に集まるの」



 俺がキスされて意識を失いつつある最中、ようやく三人が顔を揃える。



「その前に……アンちゃんだっけ?」

「はい?」

「日車くん苦しそうだよ。離してあげたら?」



 筑波さんの声に口を放したアンちゃんはその唇を舌で舐めとり、笑った。



「この世はじゃくにくきょうしょくです。やめてほしいならわたしより強くなればいいんですよ、おざこさん」



 本当にこいつは……最強すぎる。



「ねーよわよわえーじくんっ。わたしのちゅーでもっとよわよわになっちゃえーっ」

「んぐっ……!」



 再びアンちゃんの舌が俺の意識を奪っていく。いつもならすぐに負けてしまうが、今ばかりは。もう少しがんばらないとな。



「……アゲハ、幸。楽器準備して」

「いいの? 近所迷惑になるからって家で楽器弾くの許してくれなかったのに」


「将来メジャーデビューするバンドの生演奏が聴けるんだよ。迷惑なわけが、ない」

「……へぇ、ロックじゃん」



 「それに」と告げ、また別の瞳が俺に向けられる。



「一匹では狼に勝てなくても、仲間となら。絶対に負けないから」



 そして演奏が始まる。初めて聴く、『ペンライディング』のライブ。その音色にアンちゃんの動きが止まった。



「……素敵な音」

「……そうだな」



 独りよがりで傲慢なギターに、それを抑えようと必死についていくドラム。どっちつかずなベースの音色が混ざり、高校生活を引きずったちょっと青臭い歌詞が轟く。



「売れるかはわからないけど、このバンド。俺は好きだ」



 『ペンライディング』のライブは、隣人に警察を呼ばれるまでずっとずっと続いた。

本当は前哨戦でしかなかったこのエピソードですが、思ったより気に入ったので一つのエピソードにしちゃいました。読者のことを考えてない傲慢な構成ですね。反省。でもようやく主人公の性格が掴めてきたので個人的に満足です。個人的すぎますが。


次回からは本来のエピソード、元家族や元クラスメイトとの戦いになります。こっちがあくまでメインなので、どっちかというと第3章というより第2章後半戦という感じです。それでも良ければお付き合いください。


それではここまでお読みいただきありがとうございました!!! ここまでおもしろかった、続きが気になると思っていただけましたら、ぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークお願いいたします! やっぱり短編クソ強ぇ!

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