第2章 第2話 ロック
「たいりょーです!」
翌日。付近の川に移動した俺たちは、魚獲りに勤しんでいた。と言っても実際に魚を獲るのはアンちゃんの仕事。俺は家を作る役目だ。
「おー! いい感じです!」
「だろ? まぁほんとはちゃんとしたDIY道具ほしいんだけど」
家を組み立てたのは橋の下。ここなら雨風を凌げるし、人目も気にならない。そこで段ボールを分解。近くに捨てられていたものも使い、何層にも組み上げて補強。2人並んで寝ても充分なスペースを確保することにも成功。中々悪くない出来栄えだ。やっぱ俺何でもできるな……はっ!
「そういうところが独りよがりで傲慢で上から目線で……」
「ほらほら元気出してください。特別にえーじくんには大きめのおさかなあげちゃいます!」
「いや小さい魚の方がまずかった時対処できるから……」
「燃やしますよー! ファイアっ!」
俺の言葉を無視してさっそく焚火を始めるアンちゃん。ほんと自由だなー……。俺の場合自由にしたら独りよがりに……。
「……ん?」
どこかからギターの音がする。上手いな……少なくとも俺よりは。
「あ、昨日の悪口マン!」
「……ん?」
アンちゃんが指さした方を見てみると、言葉通り。昨日俺を散々ディスった革ジャンのロック女が坂に腰掛けながらギターを弾いていた。
「あーーーー! あたしの家がなくなってるぅぅぅぅっ!」
「は!?」
家がなくなってる!? どういうこと!? しかも俺の方に走ってきて……。
「あたしの家返せーーーー!」
「ふん」
「ぶべっ!?」
なぜか俺に放ってきた飛び蹴りをアンちゃんが弾き、掌底一撃。ロック女が一発で沈んだ。
「ここはわたしとえーじくんの愛の巣です。知らない人が入ってこないでください」
「あたしの家使っといてなに言ってんのさ……!」
家……使う……? まさか……!
「捨ててあった段ボールって……」
「あたしの家! あたしホームレスなんだよ!」
「えぇぇ……」
世間は狭い。ついにホームレスの知り合い2人目ができてしまった。
「あの……すいませんでした。お詫びに俺の分の魚あげます」
「いらない。ロッカーはね、肉と酒と女しか食わないんだよ」
とりあえず謝罪して魚を捨て……あげようとしたが、華麗に断られてしまった。
「その代わりに火をもらうよ。ロッカーはね、煙草を吸うんだげほっ!? げほっ!?」
「あーもったいない!」
なぜか焚火で煙草を吸おうとして煙にむせるロック女。たぶん煙草苦手なんだろうな……もったいない?
「吸えないならわたしもらっちゃいま……」
「アンちゃん!?」
煙草に手を伸ばしたアンちゃんの手を思いっきし掴んで止める。
「何するんですか?」
「こっちの台詞! 未成年は煙草吸っちゃいけないんだぞ!」
「わたし年齢わかりませんし……」
「それ以前に! アンちゃんが煙草吸うのなんか嫌!」
「別にえーじくんがいやならやめますけど……おじさんたちが美味しそうに吸ってるからもったいないって思っただけですし……わたし吸ったことないですし……」
「よかった……よかった……!」
上手く言葉では表せない安心感に満ちていると、ロック女がギターを弾き始める。やっぱり上手い。そういえば……。
「店員さ……筑波さんと知り合いなんでしたっけ?」
「まぁね。『ペンライディング』のギターボーカル。安芸花、通称アゲハとはあたしのこと。圭と幸とは高校からの付き合いなんだ」
「へー……」
「でもあたし高校すぐ辞めちゃってね。それからはこうやって演奏してお金をもらって生活してるんだ。ロックでしょ?」
んー……駄目人間だなぁ……。家庭の事情ならしょうがないけど、さっきの煙草見る感じ完全に形から入っただけっぽいし。
「すごく……ロックを感じます」
だがそんなことは言わない。なぜなら俺は傲慢じゃない。空気の読める男だからだ。
「でっしょー! ほら、バンドで売れなきゃ人生終わったようなもんだしさ。だったらギターに命懸けるべきでしょ。背水の陣。ロックを感じ……」
「別に普通じゃないですか?」
気持ちよく自分語りをしていたアゲハさんに水を差したのは、まさかのアンちゃん。何かわからない魚を貪りながら首を傾げている。
「生き物みんな命懸けて生活してるのなんて当然じゃないですか。それって特別ですか?」
「いや……でも普通の人はホームレスになってまで音楽やらないでしょ……?」
「結構いましたけどね。そう言ってすぐいなくなっちゃう人。まぁその人の人生ですしどうでもいいですが」
「あ……あたしはそういう凡庸な人とは違うから……!」
「そうですか? わたしの方が上手いですけど」
「ちょっ……ギターはバンドマンの魂……!」
アンちゃんがギターをひったくり、奏でる。
「「う、うますぎ……!」」
俺やアゲハさんでは比較にならないほどの演奏を。これ……たぶんプロ行けるぞ……。
「ア……アンちゃんどこでそんな演奏を……?」
「結構ギター持ち歩いてるほーむれす? 多いですから。子どもの頃から教わっていました」
「そ、そんだけ上手かったら金稼げ……」
「えーいやですよ。わたし結構音楽好きなんです。好きなことをお金稼ぎの道具にするなんて、それってぼーとくじゃないですか?」
ロ……ロックすぎる……! 生き方がハードロックだ……!
「し……師匠と呼ばせてください……!」
「アゲハさん!?」
突然土下座し始めたアゲハさん。そんなにロックに憧れるもんなの……?
「よかろう。まずはこのおさかなさんを食うのじゃ。なんか普通にまずいです」
「は……はい……がんばります……おえぇぇぇぇっ!」
こうして俺たちのホームレス生活に仲間が加わり。
「聞いたー? 日車グループの話」
「聞いた聞いた。なんか不祥事あったんでしょ? 大変だよねー」
同時期に、俺の実家の問題が表面化してきていた。
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