目で食らうケーキ
クリスマスの季節がやってきた。
赤と緑と、金と銀。キラキラ輝く、ハイテンションなデコレーション。買い物に行くたびに、あちらこちらにクリスマスの気配を感じる。変わり映えのしない穏やかな売り場には安心感があるけれど、季節感があふれるのもなかなか良い。見慣れたお菓子のクリスマスパッケージ、店内のちょっとしたところにあしらわれているサンタ…ずいぶんほほえましい光景だ。
たまに強引なコラボレーションなんかも出現して苦笑する事もあるけれど、それはそれで、まあ…楽しく見届けたくなる。思いがけないプレゼンは、荒みがちな心をお笑いの方面に引っ張り上げてくれるのだなあ。クリスマスだから靴を磨こうと提案するサンタ、サンタさんの大好物アンチョビパスタで乾杯しよう!サンタさんがはいても破れない丈夫なパンツはこれだ、トナカイも愛用している産毛そりが安くなってますよ……お笑いの最先端を行く芸人ですら思いつかないようなぶっこみに出会えると、ついついその心意気を買って手が伸びてしまうのだ。
そんな場の雰囲気に非常に飲み込まれやすい単純思考の私が、この時期、心をくすぐられまくるのが、クリスマスケーキのカタログである。
スーパーの入り口付近や、買ったものを詰め込むサッカー台の付近に置いてある、やたらと美味そうな表紙。さあ私を持って行くのです、遠慮はいりませんよと、どでんと積まれているペラペラのフルカラー冊子。
表紙を飾る、高級感の溢れるケーキ。ぺらりとめくればずらりと並ぶ…はしゃいだ面々。
どこのベストセラー作家が書いたんだと思うような洗練された煽り文句が個性豊かなケーキたちを讃え、断面図はやたらセクシーに内容物をさらけ出し、限定販売の文字は購買意欲を掻き立てようと弱気な者を惑わせ、数量限定商品です予約はお早めにの脅し文句は弱っちい貧弱なハートにぶっ刺さり、やたらとフレンドリーなパティシエの小粋な一言にキュンとして、ケーキがあるならアイスもねと強引に割り込んでくる氷菓各種に少々文句を言いたくなりつつもしっかりチェックをしてしまい、最近やたらとデカい顔をしている砂糖でコーティングされたパンにディスりたくなる気持ちを押さえつつ、甘いもんのあとはしょっぱいもんがなきゃダメだろうと全力で乗っかってくるオードブルの面々を穴があくほど見つめ……。
いやあ……、けしからん、けしからんぞう!!
こんなにおいしそうな面を並べられたら、選べないじゃん!!!
こんなにおいしそうな物を並べられたら、欲しくなるじゃん!!!
こんなにおいしそうな絵を並べられたら、買うしかないじゃん!!!
去年は無難にチーズケーキとティラミスと生クリームとアイスケーキを買ったんだよね。その前の年に限定の文字につられて奇抜なやつ買っちゃって微妙でさ、原点回帰が必要だっていうんで珍しくないのを買っちゃって…。個人的にはアップルパイがいいんだけど、家族はみんなそこまで好きじゃないからなあ、一人でワンホール食べるのはちょっときつくて勇気が出ない。娘が抹茶のやつがないってプンプンしてたんだよなあ…買うべきだよね、でもめっちゃ色々あるし、どれを選べばいいんだか。息子はいつもなんでもいいっていうんだけど、三年前にミルクレープのやつを買った時にめちゃめちゃうれしそうな顔してたんだよね、今年は買うべきだろうなあ。旦那は何を選んでどれだけ買っても結局自分の食べたいものを二つ三つ買ってくるから今年もスルーでいいよね……。
腹の上に猫をのせつつ、スーパーで貰って来たクリスマスケーキカタログに隅から隅まで目を通しましてですね。
‥‥‥ぐぅ~。
ああ、夢中になってたら、もうこんな時間だ。そろそろ晩御飯を作らねばなるまい。
というか、己の腹の音で我に返るとか、ちょっと…いや、ずいぶんさもしいなあ、もう。
目で食うクリスマスケーキは、実に…食欲をそそる。
ついつい、晩御飯をたくさん作りすぎてしまったのだけれども。
「今年のケーキはこれがいいな!!!アイスだったらさあ、長く持つから多めに買ってもいいんじゃない?!パネトーネって一日で食べたらダメなの?!それって勝手な思い込みだよね!!!」
「あたしはこれとこれがイイ!!てゆっか、今年はさあ、ターキー買おうよ!!!」
「飲茶、美味しそうだね」
食前にクリスマスカタログに魅入った家族のおかげで、おかずも五合のご飯も、余ることはなかったという、お話です‥‥‥。