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銀の皇太子と漆黒の聖女と  作者: 枢氷みをか
第二章 ユーリシア編 第三部 有備無患 

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嵐の前の

 皇宮に戻ってきたシスカから、ユルングルの手術の日程が五日後を予定していると聞かされて、皇王シーファスは逸る気持ちを抑えることが難しくなった。


 ユルングルが目覚めてから、シーファスは一度も隠れ家を訪れてはいない。

 それは行けば必ずユルングルがまた険しい表情を取ると判っていたからだ。

 あれほど弱ったユルングルに気を張るような真似をさせてはならない。親心という名の配慮をしたつもりだったが、決して心配をしていなかったわけではなかった。むしろ気を抜けば、なりふり構わずユルングルの元に駆けつけたい衝動に何度も襲われたが、毎日のようにルーリー経由でラン=ディアからユルングルの体調をつぶさに報告してもらう事で何とか自制を保っていられた。


 だが、手術となればそれも意味を成さないだろう。

 シーファスは書類に目線を落としたまま、傍に控えているデューイに声をかける。


「…五日後は公務を休む。終日、隠れ家にいるつもりだからそう思っていてくれ、デューイ」

「…!…ユルングル様に、何か……?」


 いつも無表情なデューイには珍しく不安げな視線を寄越す彼に、シーファスは小さくかぶりを振った。


「いや、その日は彼の心臓の手術を行う予定だそうだ。そう難しい手術ではないそうだが…傍にいてやりたい」


 そう言うシーファスの手がわずかに震えているのを見咎めて、デューイは小さく息を漏らす。


(…本当に、素直ではないお方だ)


 今日は朝からずっと、落ち着かない様子だった。

 平静を装ってはいたが、気が散って心だけがどこかに飛んでしまっているような、そんな雰囲気だろうか。

 その原因が息子の手術にあることを悟って、デューイは内心で呆れるように嘆息を漏らす。


 素直に言えばいいのだ。心配だと。難しくない手術だがそれでも不安に駆られて仕方がない、と。

 自分が傍にいたいから行くのだと素直に言えないのは、図らずも彼を長年放置してしまったような形になった事への罪悪感から来るものだろうか、とデューイは是非もなく苦笑を落とす。


「…承知いたしました。その日の予定はすべて別の日に回しましょう」

「…すまないな。…何かあればユーリシアに言ってくれ。もう、あの子一人でも対処ができるだろう」

「心得ております。…その日は必ず、アレイン殿を伴って行かれてくださいね」

「ああ、判っている」


 その会話をする間も、心がざわついて落ち着かない。

 この調子で五日も待てるだろうか、と無意識に嘆息を漏らすシーファスを、デューイは呆れと共に視界に入れて、小さく失笑を漏らした。


**


「久しぶりに顔触れがそろったな」


 そうユーリシアが言葉を落としたのは、ゼオンの部屋でのこと。

 シスカとゼオンがようやく皇宮に戻って来て、約十日ぶりに全員が揃った形となった。


「……約一名、ここをお出になった時よりも体調を悪くしてお戻りになった方がいますけどね」


 めつけるように、じっとりと重たい視線をベッドで寝込んでいるゼオンに向けたのは、彼の侍従であるアルデリオだ。

 ようやく完成に至って気が抜けたのか、白宮に着くや否やゼオンは再び高熱を出して寝込んでしまった。なのでゼオンの部屋にこうして一堂に会している。


「……言っておくが、お前が皇宮に戻ってからは無茶していないからな……ゲホッ!ゴホ…っ!」

「…それ以前の話です!!どうしてそう無茶なさるんですかっ!?誰が統括の看病をすると思っているんです!!」

「………シスカだろ」

「俺だって看ますよ!!!!」


 その二人のやり取りに、皆一様に苦笑を漏らす。


「…落ち着きなさい、アルデリオ。今日からはゆっくりと休むことが出来ますから」


 苦笑と共もにそう告げながらも、シスカはダリウスから、あまりゆっくりできる時がないと聞かされた事を思い出す。


 皇宮へ帰る直前、もうあまり時間はないとダリウスは告げた。

 そしてゼオンの体調がどれほど思わしくなくても、決して皇宮に彼を残して行かないように、と念を押すように何度も忠告をしていた。


 何の話をしているのか意を得ずにいたが、それでもダリウスは明言を避けた。それはダリウス自身何が起こるのか把握していないからか、あるいはユルングルから口止めをされているのだろう。


 できればその時が来るまでにはゼオンの体調が戻ってくれればと思うが、ダリウスの口ぶりから察するに淡い期待は抱かぬ方がいいだろう、と肩を落としてため息をくシスカを、ユーリは怪訝そうに視界に入れた。


「…ダスク兄さん…?どうしたんですか?」


 突然声を掛けられ、シスカは弾かれるように顔を上げて、慌てて取り繕うように笑顔を見せた。


「…いえ、何でもありません。それよりも額の傷はどうですか?ユーリ」

「…大丈夫です。もう痛みもほとんどありませんから」


 そう破顔するユーリを、ユーリシアは軽く眉根を寄せて見つめる。


「……話を聞いた時は肝を冷やしたぞ、ユーリ。いくらライーザを守るためとは言え、自分の体を盾にするなど無茶もいいところだ」

「…すみません、ユーリシアさん…!」


 恐縮するように、ユーリは元々小さな体をなおさら小さくして、申し訳なさそうに謝罪の言葉を落とす。


 彼を責めたいわけではなかったが、少しばかり叱責するような口調になるのはユーリを大事な友人だと思っている事の証左だろうか。


「…本当に、私が行くまでよく無事でいてくれた……」


 穏やかな瞳を向けてそう胸を撫で下ろすユーリシアに、ユーリはたまらず赤面を作って慌てて目線を落とす。


 この会話の流れからの、この台詞とこの表情は反則ではないだろうか。おまけに、いつにも増してなお一層穏やかで愛心の込めた声音で言われてはたまらない。


 ユーリシアの顔を直視できず、ユーリはバツが悪そうに口を開く。


「…あ、いえ…あの…!ライーザさんが助けてくれて……!彼、凄いんです…!あっという間に腕と足に巻かれた縄を切ってくれたので…!」


 もう何が言いたいのか自分でもよく判っていない。

 それでもいたたまれないほどの面映ゆさが黙っている事を許してくれなくて、しどろもどろと落としたユーリのその言葉に、ユーリシアの眉がぴくりと反応した。


 ライーザを褒めるその言葉が、嫌に鼻につくのはなぜだろうか。

 何に起因するものなのか理解できない不愉快さが胸に立ち込めるのを感じて、ユーリシアは思わずユーリから視線を外した。


「…?…ユーリシアさん?」

「…何でもない」


 素っ気ない返答をしたと自覚しつつも、改める気がないのは自分が何かに対して怒っているからだろう。

 その理由が判らないからなおさら不愉快だった。


(…そもそも、なぜユーリとアルデリオがウォーレン邸にいたのかも私は知らない……)


 いずれ必ず、すべてを話してくれるとユーリは約束をしてくれた。

 それでもやはり、知らない事があると不安になる。


 ユーリシアは心中に小さく溢れ出た不満を払拭するようにかぶりを振って、できるだけ平静を装うように、だけれども少しバツが悪そうに話題を変えた。


「…ユルンの手術は五日後だったな?」

「はい。正確にいつ行うかは実際のユルングル様の体調を診てディアが判断するそうですが、概ね五日後で間違いないかと」


 ラン=ディアから聞いた話だと、まだ体を起こせないものの意識は次第にはっきりしてきたようだった。それに伴って食事もきちんと摂るようになってきたので、不測の事態が起こらない限り五日後には問題なく手術が行えるだろう、というのがラン=ディアの見解だった。


「…そうか」

「心配するほどの手術じゃない…ケホっ!不安になるだけ無駄だぞ…ゴホッ…!」


 安堵とも不安とも取れる声を落とすユーリシアに、ゼオンは咳込みながら、さもどうでもいい事のようにさらりと告げる。


「…だが、まだ誰もした事のない手術なのだろう?」

「…そもそも体にかかる負担が極限まで軽減された術式だ…ゲホっ、ゴホ…!何より…ゴホ…っ、…あのラン=ディアが執刀…ゴホっ、ゲホ…っ!!」

「…判った。心配をするのはやめるから、どうか喋らないでくれ……」


 激しく咳き込むゼオンに、ユーリシアは困ったように不承不承と了承の意を告げる。


 そもそも、どれだけ心配したとしても手術を近くで見守ることはできないのだ。その役目は、もう父である皇王が担うと直接本人から聞いている。


(…私はただ、この皇宮で祈る事しかできない……)


 祈ることにどれだけの意味があるのかは判らないが、それでも祈らずにはいられないのだろう。


 ユーリシアはいつだったか、ユルングルが自分の腕を掴んで遁甲を渡った日のことを思い出す。

 その痩せ細った彼の腕に、まだ兄だと知らなかった時でさえ胸がひどく痛んだ。今はきっと、その比ではないはずだ。


 いずれ必ずソールドールの地で元気になったユルングルと再会できる事を胸に強く刻むように願いつつ、瞼に残る弱々しいながらも雄雄しいユルングルの姿を脳裏に焼き付けるように、ユーリシアはゆっくりと瞳を閉じた。


**


「手紙、何だって?」


 お茶請けの焼き菓子を頬張りながら、ミシュレイは先ほどルーリーから受け取った手紙に目を通しているウォクライに声をかける。

 夕方前にウォクライの家でこうやってお茶を飲みながら焼き菓子を頬張るミシュレイの姿は、もうお馴染みの光景だ。


「…末の弟が五日後___いや、今日からだと二日後か。…心臓の手術を受けるそうだ」

「へぇっ!よかったじゃねえか!それで元気になるんだろ?」

「…まあ、無茶をしなければ…のようだがな…」


 悄然とため息をいて椅子に座るウォクライを、ミシュレイは怪訝そうに視界に入れる。


「何?旦那の弟ってそんな無茶ばっかりしてんの?病弱なのに?」


 その質問には答えず、ウォクライは小さくミシュレイを一瞥してから再びため息を落とした。


(…あの方が無茶をなさらないはずがない)


 一緒にいたのはわずかだが、それでもユルングルがダスクと同種の人間である事だけは理解した。そして自分が今ソールドールにいる事を鑑みるに、おそらくこれから何かしらのひと騒動があるのだろう。それに備えるために、自分をこのソールドールに向かわせたのだ。だとすれば、無茶と無縁ではいられないだろう。


 そして何より不安だったのが、手術をしてすぐソールドールに向かう旨が手紙に記載されている事だった。


(…手術を行った直後の弱った御身で十日の旅など、あまりにも無茶が過ぎる……)


 よくこれを、あのダリウスが承知したものだと思う。

 だが何度、手紙に視線を落としても、そこに書かれているのは紛れもなくダリウスの筆跡だった。


(……そうせざるを得ない、という事か……)


 三度みたびため息を落とすウォクライに、ミシュレイは呆れたように、だがことさら面白そうにケラケラと笑う。


「旦那にとって悩みの種なんだな、その末の弟って」

「…笑い事ではない。本当に…本当に体が弱いんだ」

「ふーん…。どんな奴?末の弟って。何歳?」

「…今年で24だ」

「俺より四つ下だ。仲良くなれそう?俺と」


 それには答える代わりに渋面を取った。

 ユルングルはミシュレイのような人間を煙たがりそうな気もしたが、意外に馬が合いそうな気もしたからだ。結局、明確な答えが見つからず、ウォクライは眉根を寄せるに留める。


 そんなウォクライの態度に、ミシュレイは末の弟の人物像を想像して軽く失笑する。


「ははっ!気難しい奴なんだ?」

「…いや、そうではない。確かに警戒心は強いが、話せば気さくで、よく気の付く優しい子だ。…まあ、その……少々口が悪いのが玉に傷だが……」


 バツが悪そうな、居心地が悪そうな、それでいて後ろめたいような、そんな何とも言い難い表情でぽつりと落とすウォクライを、ミシュレイは再びケラケラと笑った。


「何だ、それ!何で弟にそんなに気を遣ってんだよ!!まるでご主人様だな!!」


 気を遣っているのだ、と言いたい衝動をこらえて、ウォクライは相変わらず自覚なく核心を突いてくるミシュレイを恨めしそうにめつける。


 仮にも相手は第一皇子なのだ。

 元々の優しく穏やかな気性をダスクから聞いているだけに、あの口の悪さを残念に思ってしまったことは否めないが、本来自分はそれを諌める立場にはない。


 それでもつい口を突いて出てしまった事への気まずさから出た遠慮がちな態度を、見事にミシュレイがすくい上げてくるので、なおさら居心地が悪い。ウォクライはそんな気まずさも一緒に飲み込むように、お茶を口に含んだ。


「それで?弟はいつこっちに来んの?まさか手術してすぐとか言わないよな?」


 揶揄するようにケラケラと笑いながら再び的を射てくるミシュレイに、ウォクライはげんなりと肩を落とす。


「…そのまさかだ」

「…は!?本気で言ってんの!?」


 言って目を丸くした後、今度は腹を抱えて盛大に笑う。


「うわーっ!!さっすが旦那が手を焼くだけのことはあるなぁ!!やることが無茶苦茶だわ!!」


 それには少なからず同意する部分も多くあるので苦笑すら落とすことも難しい、とウォクライはたまらず閉口した。


「あー…でも、残念。俺明日から買い付けに行くからしばらく街出るんだよな…。間が悪いよなぁ、俺もその弟に会いたいのにさ」

「…買い付け?あんたがか?」

「俺が行かないと、低魔力者だからって法外な値を吹っかけてくるんだよ、あいつら」


 ミシュレイは、ここソールドールにある低魔力者の村落の取りまとめのような事もしている。それは自分が作った村落であるという事以上に、元来面倒見がよく世話好きな性格が高じて、と言った方が的を射ているだろう。

 そんなミシュレイを慕って、低魔力者たちは何かあると必ずミシュレイを頼った。買い出しもその一つで、武器製造を生業にしているこの村落では必要不可欠な重要事項を、ミシュレイが担っている。


「…旦那も今日、領主のとこに行くんだろ?」

「…ああ」


 ミシュレイの言葉に、ウォクライはお茶を飲みほした後、小さく頷く。

 今日は午後からソールドールの領主に謁見する事になっていた。それは魔獣討伐の功績が領主の耳に入って、ぜひ会いたい、という使者からの申し出に答えた形だった。


「…褒美でもくれんのかな?まあ、そんな奴とは思えねえけど」

「…知っているのか?」

「直接話したことはねえけど腐れ外道って事だけは知ってる。あいつ、低魔力者を人間と思ってねえんだよ」


 珍しく渋面を取って不快を表わすミシュレイに、ウォクライは視線を向ける。


「あいつに暴力を受けた奴とか、馬車に轢き殺された低魔力者はいっぱいいる。一度ぶん殴ってやろうと思って領主館に行った事あるけど、あいつ俺みたいな強い低魔力者には怯えて出てこねえんだよ。…弱い者にだけ大きな顔をする卑劣な奴さ」


 典型的な諂上欺下てんじょうぎかを体現した人物なのだろう。


「…確かにこの国は低魔力者には冷てえよ。でもあいつは度を越してる。噂じゃ、あのいかれた魔力至上主義者のデリック=フェリシアーナの後ろ盾があるとかないとか言われてる。…傭兵に対してだって耳障りのいい事ばっか言ってっけど、腹の内ではどう思ってんだか…!」

「…珍しいな。あんたが人を悪しざまに言うのは」


 ミシュレイは意外とそういう事を嫌う人間だった。

 傭兵の中でも低魔力者であるミシュレイにあからさまに嫌悪を示す者もいたが、それに対して軽口は叩くもののへらへらと笑って受け流すような人間であることは、もうすでに周知の事実だ。だからこそ、傭兵の中でも魔力量の有無にかかわらずミシュレイを慕う者は多かった。

 そのミシュレイがこれほどあからさまに人に対して嫌悪を示すという事は、よほど腹に据えかねているのだろう。


 ミシュレイは渋面を取る事をやめずに、残ったお茶を一気に飲み干して湯呑を勢いよく卓に置きながら告げる。


「旦那も直接会えばよく判るさ。気を付けなよ、何企んでるか判ったもんじゃねえから」


**


 ウォクライは約束の時間に領主館を訪れ、侍従に案内されて領主であるベドリー=カーボンの私室へと足を踏み入れた。


「…キリア=ウォクライと申します」


 短い簡素な挨拶だけを済ませて、軽く頭を下げる。

 礼を尽くす気になれなかったのは事前にミシュレイからその為人ひととなりを聞いたからだ。人道に悖る行為を平気で行う人間に下げる頭はなかったが、ユルングルから領主からの信頼を得られればなおいい、という指示があるだけに無下にはできなかった。


「…顔を上げなさい」


 不承不承と頭を下げたウォクライに想像通りの品のなさそうな声が降って来て、内心げんなりしながら頭を上げる。


「…ふむ。傭兵にしてはまだ品のありそうな顔をしているな」

「…恐縮です。…それで?私に用とは?」

「せっかちな奴だな。…まあいい。お前の噂は聞いている。ずいぶんと統制力があるそうだな?お前が来てから魔獣討伐がずいぶん楽になったと聞いたぞ」

「……恐れ入ります」

「…謙遜しないか。面白い奴だな」


 言って、ベドリーはくつくつと笑う。


「…そんなお前を見込んで、要職に就かせてやろうと思ってな。お前には傭兵たちを取りまとめてこの街の護衛に当たってもらいたい」

「…?それは…魔獣討伐とは違うもので?」

「判らん奴だな。ここ最近、皇都でもきな臭い噂が絶えんだろう?…ああ、そんなことお前たち傭兵には判らんか」

「きな臭い噂、とは?」


 下卑た嘲笑を落とすベドリーを無視して、ウォクライはいかにも涼しい顔で問いかける。それがことさら面白くないのか、ベドリーは軽く眉根を寄せて一度鼻を鳴らしてから不機嫌そうに返答した。


「…誰かが謀反を起こそうと画策しているとかしてないとか……まぁ、誰とは言わんがね」


 にやにやと含みのある言い方が、また腹立たしい。


「…皇都はここから遠いが何が起こるか判らんからな。有事の際にこの街を守る人間が欲しいのだよ」

「…ここにも騎士はいると存じますが?」

「…口答えするつもりか?そんな危険な任務を我が領地の騎士にやらせるわけないだろ。彼らは私の身の安全を守るのが仕事だ。危険な任務はお前たち傭兵が適任なはずだろ!そのために高い金を払ってやってるんだぞ!」


 その高圧的な態度にミシュレイが毛嫌いする理由が理解できて、ウォクライは内心で嘆息を漏らす。


 つまりは自分を守る騎士が減っては困るのだ。

 どれだけ街の人間や傭兵に高圧的な態度を取っても、この領主が害されないのは騎士に守られているからに他ならない。その騎士が一人でも減ってほしくはないのだろう。


 だが、傭兵は違う。

 どれだけ死のうがまた金を積み上げて集めればいいだけの事。危険な任務をさせるのはちょうどいい。

 砂糖に群がる蟻のように、金をちらつかせれば傭兵はいくらでも集まる。元々そういう土地柄なのだ。そうやっていくらでも傭兵を集めても、魔獣討伐の為と言えば誰に怪しまれるわけでもない。堂々と武力を集めることが出来る。


(…その集めた武力で、謀反を起こすという事か……?)


 だからユルングルは自分をここに寄越したのだろうか。

 そんな考えが頭に浮かんで、ウォクライは軽く思案する。


 彼ら傭兵を謀反に使うかどうかは別にしても、危険な目に遭わされることに違いはないだろう。

 政治的な考えは自分には判らないが、ひと月も共に魔獣討伐を行った彼らは仲間に等しい。

 その彼らが危険に晒されると言うのであれば、選択肢は一つしかない。


「…承知いたしました。そのお話、お受けいたしましょう」


 ウォクライは未だ不機嫌そうに眉根を寄せるベドリーに礼を尽くすように、深々とこうべを垂れて見せた。

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