仮入団の低魔力者
父から騎士団に仮入団するという低魔力者の補佐を頼まれたユーリシアは、翌朝、早速レオリアに姿を変えて練兵場に足を運んだ。
きっと一悶着起こっているだろう、と思っていたユーリシアは、想像していたものとはまた違った騒動が起こっていることに目を丸くした。
「…カルリナ、一体何が起こっているのだ?」
取り巻きの中にカルリナの姿が見えて、ユーリシアはそちらに足を向け声をかける。
「…!レオリア様…!戻られたのですね」
レオリアの姿を見て取ってそう声を上げるカルリナの言葉に、ユーリシア自身失念していたようで同じく目を瞬いた。
(…そういえば、レオリアは用事で留守にしていたのだったな)
内心で苦笑を落とすように、ひとりごちる。
この変化の魔装具は姿を変えられるが、一番困るのは自分では姿が変わったかどうか確認ができない事だろうか。変化の魔装具を付けて鏡の前に立っても、姿はユーリシアのまま。おかげで自分が今ユーリシアなのかレオリアなのか判らなくなる時がある。
特にここしばらくはユーリシアとして変わらず皇宮にいただけに、レオリアが不在だったという実感がまるでない。姿が変わればレオリアとしての自覚が生まれて、気持ちの切り替えも容易につきそうなものだが、如何せんどちらに転んでも自分から見える姿は依然ユーリシアのままなので、なかなかに難しいだろう。
皇太子は療養中だと言って姿を見せなかった以前とは違って、父が表向き療養に入った時点で皇太子の療養は終わりを告げてしまった。これからは皇太子の公務をする時はユーリシアに、そして騎士団の公務をする時はレオリアになる。
これほど頻繁に姿を変えて、果たして自分が間違わずにいられるだろうかと内心で嘆息を漏らしながら、ユーリシアはカルリナの続く言葉を促すように頷いた。
「…どうも新しく仮入団として入った低魔力者が、なかなかの曲者のようですよ」
珍しく嬉々とした表情でそう告げて、カルリナはレオリアにも見えるように場所を開ける。
そこから見えたのは、高魔力者の団員と互角に立ち合う低魔力者の姿だった。
「おい…っ!!低魔力者に負けるなよ!!」
「高魔力者が低魔力者に負けるなんて恥だぞっ!!」
周りを取り囲む団員たちから野次が飛ばされる中、それでもその低魔力者はどこ吹く風でにやりと笑う。
「…そりゃそうだ。高魔力者が低魔力者に負けたとあっては、もう騎士団を名乗れないよな?」
「…!この…っ!!」
挑発されて、怒り心頭に発したのだろう。相手が低魔力者であるにも関わらず、思うように立ち合いの主導権を握れなかったことも、その要因になったのかもしれない。
怒りに任せて振り降ろされる剣をその低魔力者は難なくいなし、低魔力者とは思えないほどの力強い切り返しで応戦されて、高魔力者は思わずたじろいでわずかに後退した。
「……強いでしょう?」
カルリナの言葉にユーリシア___もといレオリアは返事を忘れて、立ち合いをするその低魔力者を注視していた。
確かに強い、と思う。
髪色は赤みがかった褐色と言ったらいいだろうか。見るからに低魔力者の髪色だったが、その動きは洗練されていた。圧倒するほどの強さ、と言うわけではないが、これは明らかに訓練された者の動きだ。何よりその動きが、レオリアにはある一人を否応なく彷彿とさせた。
(……まるで、ユルンのようだ……)
彼の剣筋は、低魔力者が好む虚の動きではない。
ユルングルと同じく真っ向からぶつかる実の剣だ。それもユルングルの癖がその剣筋によく反映されていて、レオリアは訝し気に思いながらも、目が離せなくなった。
「………っっ!!!!」
力負けして勢いよく地面に倒された高魔力者を見下ろして、その低魔力者はようやく決着がついたことを安堵するように大きく肩で息を吐いた。
「…さすが、高魔力者だよな。簡単には勝たせてくれないか…」
疲れ切ったように額から流れ落ちる汗を拭うその低魔力者に、観戦者たちから歓喜とも野次ともつかない声が一斉に降り注ぐ。実際には歓声と野次が半々と言ったところだろうか。
低魔力者の彼はその雄たけびにも似た声に驚いて目を丸くしたが、もっと彼を驚かせたのは負かされた彼と同じ高魔力者たちがその事実を容認できず、次は自分と立ち合えと怒号を上げながら我先に迫ってきたことだろう。
「……おいおい、嘘だろ…?高魔力者と二戦続けてなんて冗談じゃないぞ……」
辟易したように呟いた彼の胸ぐらを勢いに任せて誰かが掴んだところで、よく通る声が響く。
「…そこまでだっ!!!!!」
その声で興奮していた団員たちは瞬く間に我に返って、その声の主を振り返った。
褐色の肌に白髪を携えたその中魔力者の指導者は、低魔力者と高魔力者の間に割って入り、彼を守るように前に立ちふさがる。
「…もう勝負はついただろう。立ち合いはここまでだ」
「…!ですが……!」
「高魔力者が低魔力者に負けたのです…!このままでは騎士団の名折れ……っ!!もう一度立ち合いをお許しください…っ!!」
「今の彼に勝ったところで汚名を返上できるのか?」
言って、後ろに佇む低魔力者を振り返る。
満身創痍、と言うわけではないが、この一戦だけで体力を使い切ったのか肩で息をして今にもその場にへたり込みそうな様子に、高魔力者たちから小さな喧騒が起こった。
「再戦を申し込みたいなら日を改めるべきだ。…本当に汚名を返上したいと思っているのならな」
レオリアの言葉にようやく冷静さを取り戻した団員たちを見渡して、レオリアは言葉を続ける。
「…陛下から彼の世話をするように仰せつかった。彼の身柄は私が預かる。……異論はないか?騎士団長」
暴動が起きてもおかしくない状況だったにも関わらず、ずっと後ろで事の成り行きを見守っていた騎士団長を、レオリアは睨めつけるように見据える。
おそらく低魔力者が高魔力者に勝ったという事実が面白くないのだろう。むしろ暴動が起こることを望んでいるようにほくそ笑んでいた騎士団長の姿を、レオリアは視界の端でずっと捉えていた。
声を掛けられた騎士団長はいかにも面白くなさそうに小さく舌打ちをして、そのまま何も言わず副団長と共に踵を返す。その様子にたまらず呆れたようにため息を落とすレオリアに、低魔力者の彼はまるで我関せずな声を上げた。
「……何だか騎士団にもいろいろ問題がありそうですね」
「…!…貴方は……」
そこまで言ったとこで、レオリアは周りの目を気にして口を噤む。
聞きたいことは山ほどあるが、それは二人になった時がいいだろう。
レオリアは改めてその低魔力者に向き直って、手を差し出した。
「…私はレオリア=スウェンヴェールだ。ラジアート帝国皇弟ゼオン様の従者だが、シーファス陛下に請われて今は騎士団団員の中魔力者たちの指導を担っている。…貴殿の名を聞いてもいいか?」
貴殿、と小さく口の中で反芻したその彼は、何やら面映ゆそうにレオリアから視線を逸らす。
「あー…俺は……いや、私はライーザ=ライフォードと申します。よろしくお願いいたします、レオリア…様?」
何故だかひどく、たどたどしく名乗りながら慣れない様子でレオリアの手を握るその彼の顔を、レオリアは慌てて見返した。
名乗ったその名に、聞き覚えがあったからだ。
目を丸くして自分を見返すレオリアに、自分の正体を察したと理解したのだろう。ライーザと名乗った男は、今度はにやりと不敵な笑みを返した。
そうして、レオリアの耳元で小さく呟く。
「よろしく、弟さん」
**
彼の名を初めて聞いたのはモニタの口からだった。
ユルングルとは兄弟のようだったと聞いて、不覚にも嫉妬に似た感情を会ったこともない彼に抱いたことを思い出し、ユーリシアは多少バツが悪そうに彼から目線を逸らした。
「俺とはまだ面識がなかったですよね?皇太子さん」
そう彼が聞いてきたのは、白宮にある皇族専用の訓練場に場所を移動した後だった。
騎士団の練兵場ではあまりに人目があるため、立ち入った事が何も聞けず場所を移したのだが、自分を皇太子だと知っている事に複雑な感情が表出して、ユーリシアはまたもや胸の内に広がるもやもやとした感情を押し隠しながら、腕に付けた変化の魔装具を取って姿をレオリアからユーリシアに戻した。
「…ユルンの内情についてずいぶん詳しそうだな。それは彼から直接聞いたのか?」
ライーザには視線を向けず、見るからに不機嫌そうにそう言い放った後になって、ユーリシアは内心で、しまった、と嘆息する。
別に彼が悪いわけではないのだ。
だがユルングルが自分の出生の秘密を教えるほど彼のことを信頼しているのかと思うと、胸の内に苦いものが広がっていくようで、気分が悪い。
何より『ユルングルの弟』という椅子は本来自分が座るべき場所だった。そこを彼が座っているのかと思うと、彼を妬む気持ちがせり上がっていくような気がして、たまらなく自分が嫌になるのだ。
(…私はきっと、嫉妬深いのだろうな……)
そして独占欲が強いのだ。
それはユルングルに限らず、ユーリに対してもだ。誰かに対して執着心を抱いたことのないユーリシアにとって、この感情はひどく厄介で度し難い。
内心で自嘲するように嘆息を漏らしたところで、そんなユーリシアの心情を全く知らないライーザは慌てて頭を振った。
「まさか!あいつが自分の事そう易々と話したりなんてしないですよ!…あいつは警戒心が馬鹿みたいに強いですからね。それでいつも俺は苦労するんですから」
「…!では……貴方はどうして私が皇太子だと……?…いや、それよりも一体どこまで知っている?」
「…あー……それは……」
その質問にライーザはなぜか返答に困って、言葉を探すように視線を宙に泳がせる。
その煮え切らないライーザの態度に、自分が気付かないうちに失態を冒してしまったのかと、ユーリシアは一瞬どきりとした。
「…まさか……工房の皆も勘づいているのか?私とユルンの事____」
皇太子だと知られないように目深に帽子を被ったつもりだったが、それでもこの目立つ髪色が見えていたのだろうか。あるいは、皇太子の顔を知っている者がいたのかもしれない。皇族の顔は市井にはほとんど知られることはないが、婚姻の儀は平民でも見ることが出来る。その時の自分の顔を覚えている者がいてもおかしくはないだろう。
そんな事が頭をよぎってユーリシアの心を焦燥感が襲ったが、ライーザはやはり大きく頭を振った。
「いえいえ!弟さんが皇太子さんだと知ってるのは俺とモニタとキリさんくらいじゃないですか?ユルンが皇子だと知ってるのは、おそらく俺とモニタくらいか……でも、みんな薄々ユルンが皇族に近しい身分じゃないかと思ってはいますよ」
「そう……なのか……?」
「…あいつ、口は悪いけど立ち居振る舞いがどう見ても平民じゃないでしょ?腹が立つけど品位はあるし育ちがいいのもすぐ判る。ダリウスさんがいたから貴族だろうって言うのは容易に察しがついたけど、あれほど皇族を恨んでるからその関係者じゃないかって、みんなよく噂してましたよ」
なるほど、とユーリシアは頷く。
確かにユルングルは市井に降りたとは言っても、あのダリウスに育てられたからかその所作はどれも綺麗だった。貴族の出であることは容易に察しが付くだろうし、ユルングルが皇族を恨んでいる事はもはやリュシテアの中では公然の秘密なのだろう。
「……まあでも、俺もモニタも詳細までは知らなかったんで、皇子は皇子でもてっきり皇王さまの落とし胤かと……」
「……!それは___!」
「あー…言いたいことは判ってます。皇王さまの前でうっかり口を滑らせちゃいましたからね。顔は笑ってましたけど目は全く笑ってなかったんで、このまま命を取られるんじゃないかと背筋が凍りましたよ……」
「…ああ……うん…まあ、そうだろうな……」
その時のことを思い出して身震いするライーザに、ユーリシアは度胸があるなと内心で思いつつ同情にも似た苦笑を落とす。
皇王である父は自他共に認める愛妻家だった。
側妃は取らず母だけを愛した父にとっては、落とし胤など聞き捨てならない話だろう。
「…まあ、その流れで、俺はユルンの粗方の事情を皇王さまから聞いたんですよ」
「そう……か…」
何やら妙な安堵感が溢れて、ユーリシアはたまらず小さく息を落とす。
「…ユルンとは兄弟のように仲が良かったと聞いていたから、てっきりユルンから聞いたものだと…」
ぽつりと落としたその言葉に、ライーザはぴくりと眉を動かす。
「……誰が言ったんです?それ」
「え…?」
「…俺とユルンが仲がいい?しかも兄弟のように?…冗談じゃない…!一体俺が!どれっ!だけっ!あいつに振り回されたと思ってるんです!あいつは何でも自分を基準に考えるんですよ!自分を凡人だと思い込んでる天才が一番厄介だって知ってます!?何でもお前ならできるだろうって無茶ぶりしてくるんですよ!!あいつはっ!!!」
「…いや、気持ちは判るが私に言われても……」
今まさに自分もその状況に置かれているのだ。
ライーザと全く同じことを半月ほど前に思っただけに同情を禁じ得ないが、それを自分に言われてもどうしようもない。
「今だってあいつの無茶ぶりでこんなところにいるんですよ!!皇宮に潜入するのはこれで二度目!!今回はまだ皇王さまの手引きがあったから良かったものの、一度目なんてこの警備の厳しい皇宮に一人で忍び込むのにどれだけ苦労したか…!!!」
「…!……待て……潜入…?それも二回も……?…今回もユルンに言われて騎士団に入ったのか?」
「……!」
怒りに我を忘れ、その勢いで自分が失言してしまったことに気づいて、ライーザは慌てて口を押える。
だが、もう手遅れなのだろう。ユーリシアは強い視線で返答を待っているようで、このまま見逃してくれるような様子ではない事に、ライーザはさらに困惑した。
「…一体ここに何をしに来た…!ユルンは何をしようとしているのだ…!?」
強い口調で問いただしてくるユーリシアにライーザは軽く後ずさったが、ややあってから観念したように小さく口を開いた。
「……言うなって言われてるんですよ、ユルンから。…何があっても決して口を割るなって」
「…ユルンに……?…だがユルンは今も一日のほとんどを眠って過ごしているのだろう?」
定期的にラン=ディアからルーリー経由でユルングルの病状を報告する文がユーリシアの元に届けられていた。
そこには、目覚めはしたが未だ意識が判然とせず、起きてもすぐにまた眠りに入って食事もままならないと書かれてあった。それを読む限り、今のユルングルに細かな指示が出せるとは到底思えない。
ライーザはユーリシアの問いかけに、肯定するように頷く。
「…元々はもっと前に来るはずだったんですよ。でもあいつがあんな事になって、手引きしてくれるはずの皇王さまはユルンに付きっきりだし、あいつはなかなか目覚めないしで延びに延びて今日になったんです…」
「…父はユルンから詳細を聞いているのか?」
「手引きする約束をユルンと交わしただけですよ!何をしに行くか内容までは知りませんし、知られちゃ困るんですってば!」
「知られて困る事をしに来たのか…!」
「そういう事じゃなくて……っ!!」
度重なる応酬にライーザはもう諸手を上げる寸前だった。
知られて困る事をしに来たのは事実だが、どうやらユルングルにとってはまた別の意味で知られては困るのだと、ライーザは承知していた。それだけに決して口を割るわけにはいかなかったのだが、どうにもこの状況を打破できる術がもはや自分にはない。
皇王ならユルングルからの指示だと言えば多少の事は目をつぶって見逃してくれるが、ユーリシアは自分が納得するまで問い詰めるだろうから少しも疑問を持たせるな、とユルングルから強く念を押されていただけに己の失態が恨めしい。
できるだけユーリシアと目を合わせないようにそっぽを向くライーザに、ユーリシアは小さくため息を漏らす。
「……別に邪魔をするつもりはない。ユルンがする事ならきっと必要な事なのだろう。…ただ、教えてくれれば私にも手助けができるかもしれない」
「…いや、だからそういう事じゃないんですよ……その………」
そこまで言って再び口を噤むライーザに、ユーリシアは訝し気に眉根を寄せながら続く言葉を待つ。決して見逃してくれない事を悟って、このままでは埒が明かないとライーザは不承不承とため息を落とした。
「………詳しい事は俺にも判りませんよ?あいつはいつも詳しい説明は何もしてくれないので。ただ……」
そう前置きしてもう一度躊躇うように口を閉ざした後、ややあってから再びその重い口を開いた。
「……何をするか教えたら、間違いなく皇王さまの命は救えない…って」
「……!」
ライーザの口から出た言葉に、ユーリシアは言葉を失う。
これを言ったのが他の誰かならば気にも留めなかっただろう。だが、言ったのは他でもないユルングルだ。あの教皇と同じ予見の力を持つユルングルの言葉だけに、決して看過する事は出来ないのだ。
嫌に現実味を帯びたその言葉に、ユーリシアの心はまるで少しづつ恐怖に侵食されるようにざわついた。
「……それは……ユルンの予見なのか……?」
「予見…?いや……確かにユルンは馬鹿みたいに勘が鋭いし、あいつが言ったとおりになる事は多いですけど……」
(…彼はユルンの能力を知らないのか……)
小首を傾げて怪訝そうに眉根を寄せながら口ごもるライーザの様子に、ユーリシアは一人得心する。
「…ではユルンは父を守るために動いているのだな?」
「……いや…ユルンの口ぶりでは多分、守りたいのは____」
軽く思案した後、言葉尻を濁しながら自分に強い視線を向けてくるライーザに、ユーリシアは再び目を丸くした。
「…!………私……?」
茫然自失と訊き返してくるユーリシアに、ライーザは無言のまま頷く。
「……それは…どういう……?」
「だから俺にも判らないんですってば!もうこれ以上は聞かないでください!俺の所為で皇王さまも皇太子さんも命を奪われたなんて事になったら寝覚めが悪いですからね!」
もうこれ以上は一切答える気はないと意思表示するように、ライーザは顔を逸らして目を閉じる。だが、何かしら反論が飛んでくるだろうと思っていたライーザは、その追撃が何もない事に訝し気に思って、ちらりと瞳を開いてユーリシアを一瞥した。
「……?皇太子さん…?」
ライーザの視界に入ったのは、まるで難解な問題を突きつけられてどうしたらいいものかと困惑しているような、あるいは混乱しているようなユーリシアの姿だった。
「……どうしました…?」
「…いや……どうして、ユルンが私を……?」
「どうしてって……そりゃあ、弟だからじゃないですか?だって実の兄弟なんでしょ?」
「…!」
何がそんなに難しいのかと言わんばかりに当然のように答えたその返答に、ユーリシアは思わず弾かれるようにライーザに顔向ける。
それでライーザはさらに何を悩んでいるのか判らなくなって、怪訝そうに小首を傾げながら言葉を続けた。
「……よく判んないですけど、とりあえずしばらくは厄介になりますので、よろしくお願いしますね!」
言って、ここぞとばかりに逃げるようにそそくさとその場を去るライーザを、未だ心の整理がつかないユーリシアはただ茫然自失と眺めていた。




