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銀の皇太子と漆黒の聖女と  作者: 枢氷みをか
第二章 ユーリシア編 第二部 暗雲低迷

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ユーリの戦い

 事の発端は、つい昨日の事だった。


 皇王シーファスにユーリから目を離すなと言われて、出来るだけ一緒に行動するようにしていたレオリアだったが、ほんの一瞬目を離した隙に、低魔力者のユーリを高官たちが取り巻いて悪態をく事態が二度起きた。


 二度目はレオリアがすぐに気付いて助けに入ったが、一度目の時には取り巻きに騎士もいたせいか、荒事に発展してユーリは怪我をした。軽いかすり傷程度で事態は収拾したのだが、レオリアはシーファスの言葉の意味を改めて実感する事になった。


「…すまない、ユーリ。父…陛下に忠告されたというのに私は……不甲斐ない…!」


 苦汁を舐めるように、レオリアはユーリの腕の手当てをしながら苦々しく眉根を寄せて悄然と肩を落とす。


 正直、父シーファスの言葉をレオリアは舐めていた。

 父にああ言われたが、言ってもここは自分が育った場所だ。そうそう危険などないだろうと甘く見ていたが、それは自分が高魔力者で、なおかつ皇太子だったからだと、レオリアはようやく理解した。


 ここで働く誰もが、皇太子である自分と今の姿のレオリアとで、その態度を大きく変えて接してきた。

 レオリアに敵意を向ける事は、もちろんない。レオリア自身は高魔力者だ。魔力至上主義者たちはレオリアに対してそれなりの態度を示してはいた。低魔力者であるユーリと一緒にいる姿を見止めるまでは____。


 まるで、高魔力者のくせに何故そんな虫けらと一緒にいるのだと言わんばかりの視線を向けて、手のひらを返したように敵意をむき出しにした態度を見せるようになった。『裏切者』という言葉をすれ違いざまに、レオリアにだけ聞こえるように囁かれた事さえある。


 はらわたが煮えくり返るような腹立たしさを感じはしたが、レオリアはできるだけそれを胸に秘めた。

 それはラジアート帝国の賓客という立場上、事を荒立てるわけにはいかない事と、何より事を荒立てた事でユーリの立場がなおさら悪くならないように斟酌しんしゃくしたからだった。


 それでも、とレオリアは思う。

 自分の目はどれだけ節穴だったのだろうか。皇太子である自分の目の届かないところで、彼らがどういう立ち居振る舞いをしているかなど考えたこともなかった。目前の出来事だけを信じて、その裏の出来事など知ろうとすらしなかった。知らなければならない立場にあるのに_____。


 その結果が、今目の前にいるユーリなのだ。

 ただそこに存在しているだけで、ユーリは彼らの攻撃対象になってしまう。そんな事が、自分が暮らしていた白宮と目と鼻の先で日常的に行われていたのだ。

 それを思えば何よりも腹立たしいのは、気づく気づかないに関わらずそれを看過してしまった自分自身だろう。


 レオリアは無意識にか、手当てを行う手に力を込めた。


「……っ!」

「…!すまない…!…大丈夫か?ユーリ」

「…はい、大丈夫です」


 痛みをこらえて笑みを落とすユーリを、レオリアは申し訳なさそうに視界に入れる。

 転んだ拍子に腕を柱に強打して、赤く腫れていた。骨に異常はなさそうで軽い打撲で済んだが、小柄な体なだけにやけに痛々しい。


(…こんなところにユルンを迎え入れるなど、到底無理な話だな……)


 何とはなしに、いずれユルングルを皇宮に、と思っていたが、現状を鑑みると不可能に近い。

 だからこそ父と母は皇宮からユルングルを逃がしたのだろう。それは苦渋の決断だったに違いない。


 そんなことを考えているとなおさら気が滅入って、レオリアは悄然とため息を落とした。


「…本当に済まなかった」

「…謝らないでください。レオリアさんが悪いわけではないんですから」

「…いや…彼らの管理が行き届いていないのだ。その責は私にある」

「…そんなことは……」

「やはり冷やした方がいいだろう。待っててくれ、氷を取ってくる」


 ユーリの言葉を遮るように告げて、レオリアはおもむろに立ち上がり逃げるようにその場を立ち去った。

 ユーリから逃げたのではない。

 ユーリの痛々しい姿を視界に入れるたびに己の不甲斐なさが突き付けられ、ユーリに慰められるたびに情けなく惨めな気分になる。

 レオリアはそんな、しがない自分の心から逃げたのだ。


 そうして逃げた結果、ユーリは二度目の魔力至上主義者たちからの襲撃を受けることになる。


**


「自分を守る手段が必要になるな」


 事の詳細を聞いたゼオンは、第一声でそう告げる。


「守る手段…ですか?」


 腕を冷やしながら、ユーリはゼオンの言葉をオウム返しに繰り返した。


「四六時中レオリアが傍にいるわけにはいかんだろう。…かと言って何か武芸をたしなんでいたかという質問は愚問だろうしな」

「…申し訳ありません…!」

「ああ、いい。謝る必要はない。つい最近まで杖を突いていたんだ。これに関しては仕方がないだろう」


 というていを作ってくれているゼオンに、ユーリは内心で人知れず感謝する。


「…レオリアさんが離れている時は俺が付き添いましょうか?」

「同じことだ。絶対にユーリから離れないという保証はない。何かあればユーリを置いてお前だけが駆けつけなければならない事態が発生する可能性も否定できんだろう」

「それは……まあ…」


 アルデリオはあくまでゼオンの侍従だ。ゼオンに何かあれば、どうしたってゼオンが優先になる。

 悄然と肩を落として言葉尻を濁すアルデリオをよそに、後ろで会話を聞いていたレオリアがさもありなんと口を挟んできた。


「武芸の嗜みがないなら学べばいいだろう」


 その言葉に、ゼオンとアルデリオは思わず目を瞬く。

 確かにレオリアの言うことは正論だろう。普通であれば、二人とも当然真っ先に思い浮かぶことだ。

 だが、ゼオンとアルデリオが知っていて、レオリアが知らないことが一つだけある。


 ユーリが、本当は女だということだ。

 それもレオリア…いや、ユーリシアの懸想けそうの相手だ。


 だからこそ、自然とその考えが淘汰されていた。例え外見が男になっても、筋力までもが男になったわけではない。筋力も運動能力も当然女性のまま。それも十七年間、病に伏してほとんどベッドから出たこともない病弱な無魔力者なのだ。最近になってようやく健康な体を手に入れはしたが、その筋力はと言えば普通の女性よりもさらに弱いだろう。


 ゼオンはちらりといかにも弱々しい小柄なユーリの体を視界に入れて、頭を抱えるようにため息を小さく落とした。


「……却下だ」

「なぜだ?」

「ユーリを見ろ。どう見ても武芸ができるような体型じゃないだろう」

「小柄な女性でも騎士になれるのだぞ?男のユーリにできないはずがない」


 だから女なんだよ!と叫びそうになるのを、ゼオンは何とか抑える。


「魔力量が違う!ユーリは男だが低魔力者だ。その中でもかなり低い。高魔力者の女と低魔力者の男ならどっちが強いかくらい判るだろう…!」

「ユルンは強いぞ。彼は魔力量だけで言えば低魔力者の中でも最下層だが、剣技は私よりも上だ」


 体は聖女に乗っ取られはしていたが、剣を交えた感覚だけは体が覚えていた。

 魔力を載せた剣も、そしてどれだけ剣速を上げても、ユルングルは病に伏した体でそのどれもを見事にいなして見せた。余裕があったとは言わないが、彼が万全な状態であれば自分は間違いなくユルングル一人に負かされていただろう。


 ゼオンは応酬を重ねてくるレオリアを視界に入れて、たまらず呆れたように盛大にため息を落とす。


「あいつを引き合いに出す奴があるか…!あれは天才だぞ!そんなのと比べられるユーリの身にもなってみろ!」

「そうだ、ユルンは天才だ。だが、どれだけ才があっても努力を怠ればその域に達しはしない。今ゼオン殿が彼を天才と評したのは、ユルンが努力を怠らなかったからだ。そして、努力をしなければ才があるかどうかは判らない。ならばできるかどうかをここで論じても意味はないだろう。できないと決めてかかるのは論外だ。…違うか?」


 冷静かつ的確なレオリアの言葉に、ゼオンは思わず閉口する。

 反論する術を失ったゼオンは、たまらず嘆息を漏らした。


「…おぉ…!統括がシーファス陛下以外の方に言い負かされるところなんて初めて見ました…!」

「…うるさいぞ、アル」


 口が達者なところだけは、ユルングル同様シーファスに似たらしい。

 困り果てて癖っ毛だらけの赤黒い髪を掻いたところで、二人のやり取りを聞いていたユーリがおずおずと言葉を挟んできた。


「…あの……。僕、やります。…いえ、やりたいです…!」


 その言葉に、ゼオンとアルデリオはさらに目を丸くして、レオリアはにこりと微笑む。


「ユーリさえよければ私が手ほどきしよう」

「……!はい…!ぜひお願いします…!」


 何やら勝手に話が進んでいくので、ゼオンは諸手を挙げるように肩を落として、もう一度、盛大にため息を落とす。ユーリの身を案じたつもりだったが、どうやら不要だったらしい。

 ゼオンは軽くめつける様にレオリアを視界に入れると、言い訳するように言葉を落とした。


「…いいか。俺はちゃんと止めたからな。後でグチグチと文句を言うなよ」

「……?言うわけがないだろう」


 怪訝そうな顔を向けるレオリアに、ゼオンは呆れたとも面白いとも見える笑顔を見せる。

 ユーリの正体が判った時のユーリシアの顔が見物だと思ったことは、言わずもがなだろう。


**


「それで容認したのですか…!?」


 輸血を受けたばかりの体を起こして、一部始終を聞かされたダスクは詰め寄るようにゼオンに言葉を荒げる。


「本人がやりたいと言い出したんだぞ。俺にどうしろと言うんだ。あのお嬢ちゃんの首根っこでも捕まえて部屋に監禁しろとでも言うのか?」

「……!…あのおてんば娘は…!!」


 ダスクは枕元に置かれていた変化の腕輪を手に取ると、すかさずベッドから飛び跳ねるように下りて、その勢いのまま駆け出す。ゼオンは慌ててその手を掴もうと試みたが、ダスクの腕は難なくその手をすり抜けた。


「おい…!待て、シスカ…!」


 ゼオンの制止を聞かず部屋を飛び出したダスクの背中に、彼は忌々しく舌打ちを落とした。




「左が疎かになっているぞ!ユーリ!」

「…はい!」

「前ばかり見るな!もっと視野を広く持て!」

「…はい……!」


 騎士たちの練兵場の端で、剣が交える音と共にレオリアの叱咤の声が響く。


 周りの騎士たちは侮蔑と怪訝が入り混じったような視線を向けてきたが、二人は全く意に介さなかった。

 当初、練兵場に現れた二人を追い出そうと試みた騎士たちもいたが、皇太子ユーリシアからの許可は得た、と書状まで渡されては黙って見ているしかない。


 そうして邪魔にならないよう練兵場の端だけを借りて訓練を始めたのだが、思いのほかレオリアの手ほどきは容赦がなかった。

 昨日初めて剣を握ったことなど一切考慮せず、ユーリの動きが少しでも悪いようなら容赦なくそこをつついた。当然、打ち身擦り傷は時間と共に増えていき、昨日の打撲痕も、もはやどれだったか定かではない。


 そうして何度目かに土を掃くように倒れこんだちょうどその時、慌てて練兵場に足を踏み入れたダスクは傷だらけのユーリが目に入って、思わず声を上げた。


「ユーリ…!!」

「…!ダスク兄さん…!」


 急いで駆け寄り、ダスクはユーリを抱き起こす。


「もう打ち合いをなさっているのですか…!?ユーリは昨日剣を握ったばかりの初心者ですよ…!」

「…少し感じを見ただけだ」

「少し感じを見ただけ?これがですか!?打ち身擦り傷だらけではありませんか…!」


 よほどユーリの痛々しい姿に衝撃が走ったのだろう。

 怒り心頭に発したように声を荒げるダスクを落ち着かせようと、レオリアはできるだけ諭すようにゆっくりと言葉を続けた。


「…ダスク、鍛錬をしている以上、傷はつきものだ。下手に加減をすれば後々大怪我に繋がりかねない。…お前にも判るだろう?」

「やり過ぎだと申し上げているのです…!ユーリは貴方の_____!」

「ダスク兄さん…!」


 ダスクの言葉の先を悟って、ユーリは慌てて遮るようにダスクの名前を呼ぶ。


「…ダスク兄さん、僕は大丈夫ですから。これくらいの傷なら大したことはありません」


 言って、ユーリは抱き起こすダスクの手から離れて、いつもと変わらぬ笑顔を向ける。

 その笑顔に少しばかり落ち着きを取り戻したダスクは、小さく息を落として諭すように言葉を続けた。


「…ユーリ。貴方は他と比べても臂力ひりょくが特別弱い。そもそも剣術には向かない体なのです」

「…それも考慮している。模擬刀を持ってみろ」


 レオリアは落ちているユーリの模擬刀を拾って、ダスクに渡す。


「……!軽い…!」

「比較的軽いレイピアを想定した模擬刀だ。臂力ひりょくが弱くても、これならさほど問題はないだろう」

「…ダスク兄さん。レオリアさんは僕のことをきちんと考えてくれています。だから____」

「今日の鍛錬はここまでです」


 ユーリの言葉を遮るように、ダスクはぴしゃりと言い放つ。そして有無を言わさずユーリを片手で抱きかかえておもむろに立ち上がった。


「あ、あの…!ダスク兄さん…!」

「彼の手当てをします。…よろしいですね?レオリア様」


 淡々と告げるダスクの表情からは、感情が読み取れない。怒りもなく、戸惑いもなく、ただ無感情なままレオリアを静かに見据えていた。

 レオリアは一瞬何かを言おうと口を開きかけたが、その後ろにダスクを追って事のあらましを見守っていたゼオンの姿を見止めて、不承不承と口を噤んで息を落とした。


「…判った。ユーリを頼む」


 ユーリを抱きかかえたまま軽くこうべを垂れて練兵場を後にするダスクの背中を視界に入れながら、レオリアは近づいてくるゼオンにぽつりと言葉を落とした。


「…私はやり過ぎただろうか?」

「少しな」


 その返答に、レオリアはたまらず目を丸くする。


 当然、相手が本当に男ならやり過ぎなどではない。あれくらいの打ち身や擦り傷などは取るに足らない程度だ。

 だが相手は女なのだ。レオリアも女相手だと判っていれば、あれほど荒々しくは指南しないだろう。


(…ミルリミナ相手なら指南すらせずに必死に止めるだろうがな)


 だが、これに関してはレオリアが悪いわけではない。レオリアにとってユーリは男なのだ。これを責めては酷だろう。それでもこう答えたのは、ミルリミナを妹と重ねて見ているダスクの気持ちが判るからだ。


 まさか、あのユーリシアとダスクの板挟みになるとは夢にも思っていなかったゼオンは、困り果てたようにため息を落とす。


「…まあ、あれは過保護だからな。あまり気に病むな」


 これにもやはり、あれほど疎んだユーリシアをなだめる日が来るとは、とゼオンは自嘲に似た笑みを落とした。


**


「…すみません、ユーリ」


 今は不在となった皇宮医の医務室に入って、ダスクは開口一番に謝罪を口にする。


「…怒りに任せて貴女の正体を口にするところでした」

「…いえ、ダスク兄さまは私をおもんばかってくださっただけですから。気に病まないでください」


 おもんばかる相手がユーリではなくミルリミナだと判って、自然と口調もミルリミナに戻る。そうなるとなおさらミルリミナと重なって、痛々しい姿に思わず目を逸らした。


「…今の姿は確かに男ですが、貴女は紛れもなく女性なのです。もし貴女に再び一生消えない傷が残ったりでもしたらどうします。そしてそれが他ならぬ殿下によって付けられた傷だとしたら、あの方はまたご自分をさいなむことになるのですよ?…そう考えたことはないのですか?」


 ユーリの傷の処置をしながら、ダスクはたしなめるようにユーリに告げる。


 ユーリ__ミルリミナの体には、今もユルングルに付けられた矢傷の痕が残されている。

 この傷は一生消えない。

 ユルングルは決して口には出さないが、自分がつけたこの傷に対して負い目を感じている事は一目瞭然だろう。だからこそ、ユルングルはユーリに甘い。どれほどユーリが自分の意に沿わない事をしても、ユルングルは不承不承と受け入れる。それはユーリに対して、贖罪の気持ちがあるからだ。


 そして目前で己を守って凶弾に倒れたミルリミナの姿を目の当たりにしたユーリシアもまた、言わずもがなだろう。

 あの時期のユーリシアはひどく憔悴しきっていた。誰にも責められない代わりに、ずっと自分を責め続け、苛み、憎んだ。また同じことが起これば彼はもう二度と自分を許さないだろう。


 ダスクが慮った相手はミルリミナだけではない。ユーリシアの心もまた、同じく慮ったのだ。


 それが判って、ユーリは少し困った笑顔を向けた後、軽く瞼を閉じた。


「…御心配には及びません。ユーリシア殿下は、決して私を傷つけたりなどなさいませんから」

「……!」


 なぜ、と問いかけようとユーリに視線を向けたダスクの動きが止まる。

 少しも疑念のない、確信を得た満面の笑顔をユーリはたたえていた。


「ユーリシア殿下はきちんと加減なさっておいでです。私の技量に合わせて、そして時には私が怪我を負わないように動いてくださいます。…私は、あの方の足手まといにはなりたくありません。男になってもお傍にいると決めたのです。…ユーリシア殿下はそんな私を___僕を守る存在ではなく、共に歩く友人として扱ってくださいました。僕は、そんなユーリシア殿下の期待に応えたい…!」


 凛と前を見据えて告げるユーリの姿が、皇妃ファラリスと重なる。

 の人もまた、己の意思を貫き通す強さを持った人物だった。


 ダスクは不承不承とため息を落として、困ったような笑顔をユーリに向けた。


「…貴女は思った以上にお転婆ですね」

「そのようです」


 くすくすと笑いあったあと、ダスクは再び小さく息を落としてユーリを視界に入れた。


「…判りました」

「では…!」

「ただし、一つだけ条件があります」

「……条件…ですか…?」


 訝し気に小首を傾げるユーリに、ダスクは満面の笑みを見せる。


「明日から十日間、毎日ユーリシア殿下と立ち合いを行ってください。その立ち合いで一度でも殿下から一本取れれば認めましょう。無論、取れなければ剣術はやめてもらいます」

「……!ま、待ってください…!殿下から一本取るだなんて…!無理です…!」


 あまりの悪条件に、ユーリはたまらず声を上げる。

 狼狽するユーリをよそに、ダスクは構わず屈託のない笑顔を返した。


「おや?殿下の足手まといにはなりたくないのでしょう?甘えていてはいつまで経っても強くはなれませんよ?」

「……っ!」


 痛いところを突かれて、もはや反論の余地もない。

 言葉に詰まるユーリをさらに追い込むように、ダスクは笑顔と共に告げる。


「いいですね?ユーリ」


 その笑顔が嬉々としていたことは言うまでもない。



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