二人の協力者
ユーリシアは文字通り、飛び跳ねるように目を覚ました。
見覚えのない一室はすっかり昇った陽に照らされ、わずかに汗ばむほど暑い。ユーリシアは額に浮かんだ汗を拭い取るように、軽く右手を額に当てた。
(…一昼夜も眠ってしまったのか…)
わずかばかり開いていた窓に手を当て、大きく開いてみる。気持ちのいい風が、汗ばんだ体に心地いい。同時にこれほど汗ばむまで目を覚まさなかった事に、強い驚きを感じていた。今まで眠れなかった事が嘘のように熟睡してしまったようだ。
その理由を、ユーリシアは何となく承知していた。
昨日出会ったユーリという名の少年。彼がひどくミルリミナを彷彿させたからだ。
もちろんミルリミナではなかったが、ひどく疲れた体に訪れたわずかな安心感が、睡眠薬のごとく効いたのだろう。これほどすっきりした気持ちはいつぶりだろうか。
ユーリシアは窓から見える景色を視界に入れる。まるで廃屋のような、傷みの激しい家屋ばかりが続いている。
ここはまだ低魔力者の街だ。ではここは、あの少年の家だろうか。そんな事を思った矢先、部屋の扉が少し遠慮がちに開いた。
「…あら?目が覚めたの?」
そう言って扉から現れたのは、20代後半くらいの女だった。ユーリではなかった事にわずかばかり落胆したが、ユーリシアはこの女の顔をどこかで見たような気がした。
「…ああ、あの幼い子供を保護した女性か」
「あら!皇太子に覚えてもらえるなんて光栄ね」
言われてようやく、自分が帽子を被っていない事に気付く。透けるような銀の髪を持つのは、世界中探してもフェリシアーナ皇国、皇太子しかいない。
「ずいぶんと警戒心のない皇太子ね。あれほど熟睡するなんて驚いたわ。あなたを連れ帰ったのが私じゃなければ、今頃命はなかったわよ?」
「…私をどうするつもりだ?」
軽く揶揄する女に、ユーリシアは眉根を寄せる。だがその態度に機嫌を損ねたのは、女の方だった。
「…匿ってもらってその態度は何?皇太子ってのは恩も感じないわけ?」
もっともな言葉に、ユーリシアは二の句が継げず閉口する。
「…すまない。そういうつもりではなかったのだ…」
申し訳なさそうに肩を落として謝罪するユーリシアを女は目をぱちくりさせて視界に入れた後、腹を抱えて笑い出した。
「やだ!ずいぶんと可愛らしいのね!…素直に謝ってどうするのよ!嘘をついてるかもしれないわよ?私」
「……からかわないでくれ」
「あら、ごめんなさい」
バツが悪そうに顔を赤らめるユーリシアに、女は涙を拭いながら謝罪する。
「私はモニタよ」
「…ユーリシア=フェリシアーナだ。…一つ、聞いてもいいだろうか?なぜ私は貴女の家で匿われているのか教えてくれないか?最後に一緒にいたのは、ユーリという少年だったはずだが…」
「あの子は私の知り合いよ。あなたが急に眠って途方に暮れていたから、うちに連れてきたのよ」
話の途中で寝入ってしまったのか、と恥じ入って軽く視線を落とす。
「…ユーリはどこに?この近くに住んでいるのか?」
「…ずいぶんとあの子を気に入ったのね?…でも残念ながらあの子の家には行けないわ。ユーリは工房に住んでいるもの。あなたではあそこまで行けない」
ユーリシアは目を瞬く。工房、と小さく反芻してふと思い至った。
そういえば低魔力者の街に工房があると聞いた事がある。その工房で作られた品はどれも一級品で貴族たちもこぞって愛用している者が多いが、その所在を知る者は何故かいない。実際ユーリシアもこの街を散々歩き回ったが、工房を見た事はなかった。
ならばその理由は一つしかないだろう。あの遁甲の向こう側に、工房があるのだ。
「その工房にはどうすれば行ける?」
「言ったでしょ?あなたでは行けない。…理由は聞かないで。私は裏切り者になりたくないもの。匿ってもらっただけ有難いと思って」
そう突き放すように告げるモニタだが、その言葉とは裏腹に申し訳なさそうに映ったのは思い違いだろうか。
どちらにせよ、どうやら頑なな態度を見る限りモニタから遁甲の情報は得られないだろう。力ずくで聞き出すという手もなくはないが、女性に対して、ましてや一晩匿ってもらった恩義もある相手に実力行使は忍びなかった。
「…では一つだけ教えてほしい。その工房に、漆黒の髪の少女はいないだろうか?」
ひどく切実に、そして縋るようにユーリシアは尋ねる。せめてその情報だけでも欲しい。そして彼女がひどい目に遭ってはいないか、あるいは怪我をしてはいないか、その事だけがどうしても懸念を抱かずにはいられなかった。
そんなユーリシアの視線を受けて、モニタはややあって一つ息を落とす。
「…知らないわ。少なくとも私は見た事がない。……力になれず申し訳ないわね」
本当に知らないのだろう。モニタは誠実に、そして心底申し訳なさそうに応えてくれているように、ユーリシアには感じられた。
(…結局、ここまで来て何の情報も得られないのか……)
ユーリシアは目に見えて落胆した。もう何度、落胆しただろうか。目の前でミルリミナの姿を捉えても、そのたびに手からすり抜けていく。
このまま一生、ミルリミナを見つける事はできないのだろうか。
絶対見つける、と気概を持つ事が最近では難しい。気が付けば、そんな事ばかり考えてしまう。そんな弱気な心を奮い立たせる何かが、ユーリシアの中でまさに尽きようとしていた。
モニタはうなだれて気落ちしているユーリシアに、一通の手紙を差し出した。
「…これは?」
「昨晩、あなたの従者という人が残していったのよ。ラヴィ=クラレンスって名乗っていたかしら」
「…ラヴィが?」
「…見られないように連れてきたはずなのに、あなたの従者は優秀なのね」
モニタの言葉を聞きながら、ユーリシアは封筒から手紙を取り出す。見慣れたラヴィの筆跡で書かれていたのは、皇太子が体を壊した為ひと月ほど療養する事を陛下に願い出た、という内容だった。そしてこう締めくくられていた。
(勝手をいたしまして申し訳ございません。ですがご公務がなくなれば、その分ミルリミナ様の捜索にお時間を取る事ができましょう。ひと月しかございませんが、思うようになさってください。そして、どうかお体をお休めになる事もお忘れなきよう。また明日、そちらにお伺いいたします)
ラヴィの心遣いが有難い。いつも無茶な自分を支えてくれた。だからこそ自分は自由に振る舞えるのだ。改めてラヴィの存在の大きさを、ユーリシアは感じずにはいられなかった。
「さぁ、それを読んだらもう帰ってくれる?いつまでも匿うわけにはいかないのよ」
「…モニタ嬢。ユーリは私が皇太子だと知っているのだろうか?」
「…え?…いえ、知らないわ」
怪訝そうに、モニタは答える。
「…ユーリはまた街に来るか?」
「…あまり頻繁ではないけれど、また来ると思うわ……」
ならこの街に留まれば、またユーリに会えるかもしれない。そのお膳立てはラヴィがしてくれた。ユーリならミルリミナの事を知っている可能性は充分ある。何しろあの遁甲の向こう側で暮らしているのだ。もし面識がなくても、探ってもらう事はできないだろうか。彼なら協力してくれるかもしれない。
ユーリシアにはあの少年だけが最後の頼みの綱のように思えた。
「モニタ嬢。この街に私が住める部屋はあるだろうか?広くなくても構わない。雨風がしのげればそれでいい」
「まさか、この街に留まるつもり!?…やめなさい!ここにはあなたの命を狙ってる者も多いのよ。悪いことは言わないから帰りなさい」
「皇太子だと気づかれなければ大丈夫だろう」
「あなたの髪色を見ればすぐに正体が知れるわよ!」
「…そうだな」
ユーリシアは己の髪を手に取ってみた。腰まである銀の髪はさらさらと音を立て肩に落ちる。日に照らされた髪は、まるで水面が太陽の光をキラキラと照り返すように、肩に当たるたび、えも言えぬ輝きを放った。
確かにこれでは目立ちすぎるだろう。かと言って髪は決して別の色には染まらない。帽子を被るしかないのだが、この長い髪はただひたすら邪魔にしかならなかった。
ユーリシアは左手で髪を持ち、服に隠し持っていた小型のナイフを右手に握って結わえている髪の根元にあてた。
「え…!ちょっと…っ!?」
何をするかを悟って慌てて止めに入るモニタを待たず、ユーリシアはナイフを勢いよく真上に引き上げた。銀に輝く長い髪は見事に断裁され、ユーリシアの左手に収まっている。その髪を、ユーリシアは惜しげもなく地面に投げ捨てた。
「これならまだましだろう」
「…勿体ない。せっかくの綺麗な髪を…」
「髪などすぐに伸びる」
言ったところで、部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「…誰かしら?」
ユーリシアがいる事で訪問者を警戒しているのだろう。モニタは扉を開けず声をかける。
「…どなた?」
「…クラレンスです」
答えた相手も声を潜めている。モニタは扉を開け、昨晩と同じくフードで顔を隠しているラヴィを招き入れた。
「…!」
部屋に入った途端、視界に入ったベッドの上で座している己の主の髪を見て、ラヴィは絶句する。一呼吸おいてラヴィはフードを取りながら大きく息を吐いた。
「…まずは髪を整えましょう」
モニタから鋏を借りたラヴィは、乱雑に切られた髪を丁寧に揃えて髪型を整えた。短髪、とまではいかないが、それでもかなり短くなったユーリシアは、だいぶその印象が違って見える。元々端正な顔立ちではあったが、長い髪がなくなった事で、よりその顔立ちがはっきり見えるようになり、精悍で凛々しい印象が強い。その姿を見たモニタは感嘆の声を上げた。
「あら、そっちの方が良く似合ってるじゃない!それにしても従者ってほんと何でもできるのねぇ」
まるで他にも従者を知っているような口ぶりだったが、あえてそれには触れず、ラヴィは小さく頭を下げる。
「お褒めにあずかり光栄です。何でもできませんと主のお世話ができませんから」
「…ラヴィには世話をかけてばかりだな」
「そうお思いになられるのでしたら、少しは自制なさってください。無茶ばかりされるので、こちらは気が気ではありませんよ」
「…すまない」
申し訳なさそうに笑って、ユーリシアは謝罪する。
「…顔色がずいぶんよろしくなりましたね。昨夜も熟睡なさっていたご様子でした」
ラヴィはユーリシアの表情を窺い、安堵したように微笑んだ。
「…しばらくはこの街に滞在するおつもりですか?」
「そのつもりだ」
「では空き部屋がないか探して参ります」
ユーリシアに軽く頭を下げて部屋を出ようとしたラヴィに、モニタは一つため息を落としながら声をかけた。
「…下が空いてるわ」
「…え?」
「ここの一階よ。空き部屋なの。…どこか判らない所に行かれるより、まだ近くにいてもらった方が安心だわ」
「…いいのか?」
おずおずと聞いたユーリシアに、モニタは眉根を寄せながらも、やむを得ないといったふうだった。
「いいも悪いもないじゃない。どれだけ止めてもあなたは出て行く気なんてさらさらないんでしょ?…私の見えない所であなたに何かあったら後味が悪いじゃないの。…幸いこの辺りは私の知り合いも多いし、生活の面倒も見てあげられるでしょ」
「…いや、さすがに生活の面倒まで見てもらうわけには……」
「だってあなた、自炊なんてできないでしょ。それとも一日三食この彼に食事を運んでもらうつもり?」
もっともな意見に二人は閉口する。食事が作れるのならラヴィも共に住み込んで用意するが、残念なことに料理に関しては門外漢だ。かと言って、モニタが言うように一日三食、食事を運ぶのはあまりに非効率的だろう。
二人が目線を合わせて、どうしたものかと困惑しているのを見て取って、モニタは大仰に腕を組んで見せた。
「お願いしますって一言、言えばいいのよ。それとも何?平民の女に借りを作りたくないわけ?」
言われて二人は互いに目を見交わし合い軽く吹き出した。これはモニタなりの優しさだ。気兼ねせずに頼めばいいと言外に含んでいるのを察して、二人は頷く。
「殿下」
「…ああ、よろしく頼む。モニタ嬢」
モニタも満足げに頷く。
「よくできました」
**
ユーリシアと別れたラヴィは、すっかり茜色に染まった低魔力者の街の中、帰路に就こうとしていた。
ユーリシアの住まいに関しては、何を言うでもなくモニタがいろいろと手を回して、あっという間に人一人が住めるだけの体を整えてくれた。あの手際の良さから察するに、何かしら人に指示する立場にあるのかもしれない。
ここは低魔力者の街だ。間違いなく反乱軍『リュシテア』の手の者が存在しているだろう。用心するに越した事はないが、少なくともモニタに関しては警戒を解いてもいいような気がした。仮に彼女が『リュシテア』の人間であっても、おそらくユーリシアを売ったりはしないだろう。
そう思わせる根拠が、ラヴィにはあった。
モニタのユーリシアを見つめる視線に、敵意を全く感じられなかったからだ。むしろユーリシアに害が及ばぬよう、細心の注意を払っているようにも見えた。その理由は判らなかったが、モニタに任せても問題はない、という確固たる安心感がラヴィの中に芽生えていた。
部屋の準備をモニタに任せている間、ラヴィは工房に関して情報を集めるべく街に出ていた。だが、この街の者にとって、工房は重要な施設なのだろう。工房の名が出ると皆一様に口を噤み、決してその情報を外部に漏らすまい、とする彼らの結束が見て取れた。それは難航を極めたが、偶然小耳に挟んだ工房の職人が通うという店の情報だけが、かろうじてラヴィの元に舞い込んだ。
その情報を頼りにようやく店を探し当てたのは、もう日が傾きかけていた頃。店主のキリという男は痩身で気難しそうに見えたが、話してみると穏やかな、人好きのする笑顔を向ける壮年の男だった。
「…あんた、もしかしてあの皇太子さんの従者さんかい?」
そう問われた時は、一瞬どきりとした。
聞けばどうやら、モニタの家に運び込む際、手を貸してくれたらしい。あのモニタが信頼しているという事は、警戒を解いても構わないだろう。ラヴィは回りくどい訊き方はやめて、単刀直入に工房について尋ねてみたが、やはりこれに関しては他と同じく、冷ややかな対応しか返ってこなかった。
ここに住む者は、とりわけ工房に近い人間になればなるほど結束が固い。まるで一枚岩のようだ、とラヴィは思う。付け入る隙もなく途方に暮れたラヴィは、一か八かでキリにこんな提案をぶつけてみた。
「皇太子さんをここで働かせる…?」
キリは目を丸くする。
「はい。お給金はもちろん頂きません。工房の情報も漏らす必要はない。ただ殿下をここで働かせていただくだけでいいのです」
そうすれば何かしらの情報がユーリシアの耳に届くだろう。おそらくここで情報を集める事が一番の近道だとラヴィは考えたのだ。
「…ああ、…いや、だがなあ……」
キリは何かしら考えている風で、肯定と否定を何度も繰り返す。
「…ここはなあ、言ってみれば敵陣の中枢のようなもんだ。『リュシテア』の人間も通う者は多いし、いくら帽子を被っていても何かの拍子で脱げないとも限らない。危ないんだよ、皇太子さんには。…判るかい?」
「殿下であればたとえ見つかっても、ご自分で対処できるでしょう」
「いやいや!こんなところで争わんでくれよ!」
「ご安心ください。荒事をしようというわけではありません。見つかればすぐに逃げます。貴方はひどく懇願されたので仕方なく雇っただけだと言い張ってください」
悩んでいるキリに、ラヴィはもう一押しする。
「貴方にご迷惑はおかけいたしません。…いえ、見つかれば貴方にも迷惑はかかるでしょう。ですが何かしらの罰が下るのでしたら、必ず貴方をお助けします!どうか…っ」
「いや、それは別に構わないんだが…。……なら一つだけ条件を出してもいいかい?」
「条件…ですか?」
「俺が隠れてくれ、と言った時は店から出てほしいんだ。ここの二階でも店の奥でもいい。別に聞き耳を立ててくれても構わんが、何にしろ顔を出さんでほしいんだ」
「それは…殿下と合わせる客を選別される、という事ですか?」
「まあ、平たく言えばそういう事だな。本当に見つかっちゃならない相手が店に来た時はとにかく隠れててくれ。俺は刃傷沙汰は見たくないんだよ」
妙な違和感がラヴィを襲う。何か釈然としないものが胸に立ち込め、喉が詰まるような感じ。
(…何だろう、この違和感は)
その正体が判らぬまま、ラヴィは条件を呑んで店を辞去し、ユーリシアに店で働けるよう取り計らった旨を伝えて、帰路に就いたのだ。
茜色に染まる街並みを見つめながら、そこを行き交う人たちに目線を向ける。
この街の人間は皆、結束が固い。数年前に訪れた時は活気など微塵もなかったこの街は、今では行き交う人の表情はひどく晴れやかだ。それはおそらく『リュシテア』による変革だろう。だからこそ、この街の人間は『リュシテア』に対する信頼が厚い。それが強固な結束に繋がっているのだと思う。
なのに、なぜだろうか。キリの態度は『リュシテア』よりもユーリシアの身の安全を守ろうとしているように感じられてならない。仮にも皇太子の命を狙っていたにもかかわらず、だ。
思えばモニタもそうだ。なぜかユーリシアを擁護するような動きを見せる。これは彼らが『リュシテア』ではない為なのか、もしくは皇太子の命を狙っているのはごく一部の人間だけなのか、ラヴィにはその判断がつかなかった。どちらにせよ彼らはこの低魔力者の街にあって、その存在が異質なほどユーリシア側に立とうとしている。なのに、工房の事は一様に口を閉ざす。結束が固いと思わせる反面、その態度はひどく一貫していない。それが違和感に繋がったのだろうか。
その答えが、すぐそこにあるような気がした。もうそこまで出かかっているのに出てこない、そんな感じ。
ひどく消化不良な気がして、不快気に向けた街並みの中に、ラヴィは突然、見知った人物を見たような気がして目を瞬いた。もう十六年その姿を見ていない、彼の後ろ姿。
ラヴィは慌てて後を追って人波をかき分けたが、もうそこに彼の姿は見当たらなかった。いや、ただの見間違いかもしれない。彼は十六年前、消息を絶ったままだ。必死の捜索にもかかわらず、結局見つからなかったと聞いている。その彼が、これほど近くにいるはずはない。
だが、とラヴィは思う。あれは確かに彼のように見えた。最後に見たのはまだ彼が19の頃。十六年も経てばその面持ちや印象は変わってもおかしくはないが、一つだけ変わらないものがある。まるで獅子の鬣のように輝く、金色の髪だ。
それが本当に金色に輝いていたのか、それとも夕刻の日の光がそう見せていただけなのか、ラヴィにはもう判然としなかった。




