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銀の皇太子と漆黒の聖女と  作者: 枢氷みをか
第一章 始まり 第一部 皇宮編

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別れと邂逅

「お嬢様、ご準備はお済みですか?」


 ティーナの元気な声が部屋中に響く。小さな自分の荷物を持ってひょっこりとドアから顔を覗かせていた。


「ええ、つつがなく」


 歩けない自分の代わりに準備のほとんどはティーナと皇宮の侍女たちがしてくれた。服を着替えさせ髪を整えたのもティーナだ。


 ベッドの周りの手が届く範囲だけでも自分でと思ったが、そもそもミルリミナの物と言えるものがほとんどない事に気づく。このひと月半で自分の物と呼べるのはユーリシアから貰った車いすと、シスカから暇つぶしにと貰った本だけだ。


 ユーリシアとはあれ以来一度も顔を合わせていない。何度か部屋まで訪ねてはくれたが、そのすべてをミルリミナは拒否した。おかげで婚約解消の話は立ち消えとなったままだ。


(……最初から判っていた事なのに…)


 ユーリシアが優しくするのは理由があっての事だと判っていた。自分が好かれているなどと自惚れた事は一度もない。それでも聖女としての自分を望んでいるとは思いもしなかった。


(…なぜ考えなかったのかしら?皇宮にいる者は皆、二言目には聖女なのだからと言ってきたわ。皇太子殿下なのだから他の者以上に聖女である事にこだわってももおかしくはない…。それでもユーリシア殿下だけは違うと思ってしまった…。私自身には価値など何もないのに……)


 ユーリシアから貰った車いすに目線が止まる。


 教会行きが決まった時、車いすも返してしまおうかと思ったがそれはやはり躊躇われた。

 車いすがなければ不便という事もあったが、何よりユーリシアから貰った最初で最後の贈り物だ。これだけはどうしても手放し難かった。


「…お嬢様?どうかなさいましたか?」


 考え込んだまま何も言わなくなったミルリミナを心配して、ティーナは顔を覗き込んだ。ミルリミナは我に返り、物思いにふけてしまったかと首を横に振る。


「…いいえ、なんでもないわ。行きましょう」


 そう言って笑顔を向けているミルリミナが気丈にふるまっている事を、ティーナは内心承知していた。


 あの日ミルリミナの様子が明らかにおかしい事に気付いて、すぐに皇太子を問い詰めた。いや、正確には『問い詰めに行こうとした』だろうか。

 執務室に入るとミルリミナと同じく、ひどく落ち込んだ皇太子の姿があった。どうやら婚約解消の話が出たらしいとラヴィから聞いて、ティーナはなるほどと合点がいく。あれほど慕っている相手から婚約解消の話が出れば、それは落ち込むだろう。

 その落ち込みようがあまりにひどく、さすがのティーナも皇太子を責め立てる気になれなかった。それで、そのまま執務室を辞去じきょしたのだ。


 なのであの日あの部屋でどういう会話がなされたのかは判らない。ただミルリミナが頑なに皇太子を拒んでいるのだけが判って、皇太子には酷だが訪問を断り続けたのだ。


 ただそれでもミルリミナが皇太子を嫌っているわけではない事はすぐにうかがえた。今も皇太子から貰った車いすを愛おしそうに撫でている。

 このまま皇太子と離れてしまっていいのかとも思うが、少し距離を置いてミルリミナの心を落ち着かせた方がいいような気もした。


「よろしいですかっ、皇太子さま!お嬢様が教会に行っても、根気よくご訪問なさってくださいね!皇太子さまがお諦めにならなければ、お嬢様は必ずお会いしてくださいますから!」


 とりあえず皇太子にはそう念を押しておいた。それを聞いた後の何かを決心したような皇太子の表情を見る限り、おそらく足繁く通ってくれるだろう。


(…私にできる事なんてそれくらいだわ。本当に世話の焼けるお二人なんだから)


 ティーナは車いすを押しながら小さくため息をつく。

 ふと前を見ると、皇宮医が待ち構えたように一礼するのが見えた。


「シスカ様?どうされたのですか?診察は終わったはずでは…」


 怪訝そうにミルリミナが尋ねると、シスカは膝をついて目線を合わせ優しい笑顔を向ける。


「教会まで私がご案内いたしましょう。殿下からは許可を得ております。慣れないお二人だけでは何かと不安でしょうから」

「…まぁ!ありがとうございます!」


 シスカの申し出は心底有難たかった。知り合いもいない教会に行く不安ももちろんあったが、聖女を敬愛してやまない集団の中に行かなければならない事が何より怖かったのだ。

 シスカは聖女が存在していること以外求めないと言ったが、他者もそうとは限らない。例えそうだったとしても聖女である事は強いるだろう。誰もが自分をミルリミナではなく聖女として見るその視線に耐えられる自信がまだなかった。


 だがシスカがいれば、きっとその視線から自分を守ってくれる。その安心感をシスカが与えてくれる事をミルリミナは判っていた。


(…不思議な方だわ)


 シスカも同じく神官だ。そしてミルリミナを聖女として扱っている事は間違いない。なのになぜかシスカに聖女と呼ばれても嫌な気はしなかった。


 おそらくシスカは『少女に宿った聖女』ではなく『聖女が宿った少女』として見てくれているのではないかと、ミルリミナは思う。だからこそ聖女として扱いながらも、ミルリミナ本人を尊重してくれるのだろう。ミルリミナにはその心遣いがとても暖かかった。


 シスカは喜ぶミルリミナの顔を確認すると笑顔を見せて立ち上がり、ティーナに歩みを進めるよう目線で促す。


「…おや、それは私が差し上げた本ですか?」


 ふとミルリミナの膝に置かれた本が目に留まった。十日ほど前に暇つぶしになればと渡した本だ。だいぶ昔からある物で装丁も傷んできているが、それを大事そうに持っていてくれた事にシスカは嬉しさが込み上げてくる。


「はい。とても面白い小説で気に入ってしまって。もう何度も読み返しているのですよ」

「それほど気に入っていただけるのでしたら、新しいものをお贈りすればよろしかったですね。申し訳ございません」

「いいえ!お謝りにならないでください!…私は嬉しいのです。これほどになるまで持っていらしたという事は、シスカ様にとってとても大事なご本なのでしょう?それを頂けた事がとても嬉しいのです」


 申し訳なさそうな笑顔のシスカに慌てて首を横に振り、愛おしそうに本を撫でる。そんなミルリミナを、シスカはまるで失ったものに邂逅したような顔で見つめている事に、ティーナは気付いた。


「…その本は私の妹が大事にしていたものなのです。ミルリミナ様と同じくその小説をとても気に入っておりました。…今はもう亡くなってしまいましたが、読み手のいなくなったその本が哀れで読んでいただける方を探していたのですよ」

「…まあ!…そんな大事なものを私に……?」

「ええ、きっとその本も新しい読み手に出会えて喜んでいる事でしょう」


 暖かく優しい笑顔でそう答えたシスカを見受けて、ミルリミナは本を大事そうに胸に抱く。

 今までこれほど大事にしている物を贈ってもらえた事などあるだろうか。それはこの人なら大事にしてくれるという信頼の証に等しい。


 魔力がないというだけでそのような信頼を寄せてくれる相手がいなかったミルリミナにとって、この本は唯一無二の宝となるだろう。


「……大事にいたします」

「…はい」


 傍で見ていてこの二人の間には何かしらの絆のようなものが存在しているとティーナはずっと思っていた。


 ミルリミナは皇宮医を心底信頼し、皇宮医はミルリミナを心底慈しんでいる。それは『皇宮医に対する信頼』と『神官の聖女に対する慈しみ』だと思っていたが、そうではない。

 ミルリミナは家族以外から受けた無償の愛情に兄のような親愛感を覚え、皇宮医は失った妹とミルリミナを重ねて慈しんでいるのだとようやく理解した。


(…ご令妹さまの身代わりではなく、お嬢様を尊重なさった上で慈しんでくださるのはさすがだわ)


 微笑ましい二人のやり取りを見ながら白宮を出ると、すでに馬車がミルリミナの到着を待ちわびていた。馬車には教会に掲げられている聖女の紋章が刻まれている。その周りには皇宮にいる騎士とはまた違った雰囲気の騎士たちがこうべを垂れて威儀いぎを正していた。


「彼らは神殿騎士たちです。ここからは教会が貴女の身辺警護をいたします」

「お目にかかれて光栄でございます、聖女様。私は神殿騎士団団長キリア=ウォクライと申します」


 馬車の前に立っていた一人がミルリミナの前まで歩み寄り、膝をついてこうべを垂れる。あまりに仰々しいその態度にミルリミナは狼狽してしまい、そんなミルリミナを見て取ってシスカは大仰にため息をついた。


「ウォクライ卿。ミルリミナ様はまだ聖女としての扱いに慣れておられないとお伝えしたはずです。頭をお上げ下さい」

「いいえ、神殿騎士が聖女様にご無礼を働くわけには参りません。これは最低限の礼節です。ご容赦いただきたい」


 そう言って顔を上げたその左目には大きな創傷の痕があった。年の頃は40代半ばだろうか。体格も良く顔の創傷痕のせいか騎士というよりも傭兵のような雰囲気がある。


「申し訳ございません、ミルリミナ様。彼は昔から頭の固い男で、私の護衛を務めていただいた時も散々、平民の出だからと申し上げたのですが、一向に態度を崩してはくださらなかったのです」

「仮にも大司教様相手に態度を崩せるはずもございません。シスカ様はもう少しご自分のお立場というものをご理解ください」

「……こういう男なのです」


 呆れたようにため息をつくシスカが何だか面白くてミルリミナはくすくすと笑みをこぼす。

 シスカが平民の出だという事には驚いたが、何より同じ教会内にシスカが心を許せる相手がいた事がミルリミナには嬉しかった。


「ミルリミナ=ウォーレンと申します。ご足労頂き感謝いたします、ウォクライ卿。これからよろしくお願いいたしますね」


 屈強な男に物怖じせずに屈託のない笑顔を見せて挨拶をするミルリミナに、ウォクライは一瞬目を瞬きながらも微笑みを返し一礼する。それを見受けてシスカはミルリミナに向き直った。


「では行きましょう。…失礼いたします」

「……!」


 そう言ってシスカはミルリミナを軽々と抱き上げ馬車に乗せる。

 長身ではあったが男の中ではかなり華奢な印象があっただけに、その重さを感じさせない力強さにミルリミナのみならずティーナも驚きを隠せなかった。


「…シスカ様は力持ちなのですね」

「こう見えても高魔力者ですから」


 そう言って悪戯をした子供のように笑って自分の髪を指さす。

 青みがかった銀髪を見ればユーリシアに匹敵するほどの魔力を有している事が窺い知れた。初めてシスカを見たとき、あまりに綺麗な青銀髪に見惚れていた事を今更ながら思い出す。


「私は後ろの馬車にいますので、何かあれば騎士たちにお申し付けください」

 不安を与えないよう優しく声をかけ、後をティーナに託す。ティーナが頷きミルリミナの正面に座るのを見届けると、シスカは静かに馬車の扉を閉めた。


「ウォクライ卿、車いすはお願いいたしますね」

「承知いたしました」


 言って車いすを他の騎士に託した後、後ろの馬車に乗り込むシスカに追従する。


「…どうですか?彼女は」

「私の顔を見て動揺されなかったご令嬢は彼女が初めてです。さすがは聖女様に選ばれたお方ですね」


 『さすがは聖女様だ』と言わない所が好ましい。

 頭は固いが役職で人を判断しない事を長年の付き合いでシスカは理解していた。


「できるだけ私もお傍にいるつもりですが、皇宮医の仕事もあり四六時中というわけにはいきません。私がいない間はよろしくお願いしますね」

「そのつもりです」


 ウォクライの返答を聞いてシスカは頷く。

 この男がミルリミナの傍にいれば安心だ。危険は元より無礼を働く神官たちからも守ってくれるだろう。基本穏やかな者が多いが中には神官という身分に胡坐をかいている者も少なくない。できれば教会にいる間はつつがなく過ごしてほしいとシスカは思う。


(……それが彼女を騙している罪滅ぼしになるとは思っていないが…)


 胸に疼く罪悪感を吐き出すように、シスカは小さくため息を落とした。

 ふと外に目をやると、車いすの積み込みが終わったのかウォクライの合図で馬車が動き出す。

 少しずつ速度が増していく中、ミルリミナは蒼宮に視線を向けた。


(……結局ユーリシア殿下はお見送りに来てくださらなかったわ…)


 自分がずっと拒否し続けていたのだ。来てくれなかった事に悲しむ権利も怒る権利もない。だがそれでも来てほしいと願った自分は、あまりに身勝手でわがままなのだろう。


(…きっともう、殿下は教会には来てくださらないわね…)


 来たとしてもそれはミルリミナに会う為ではない。

 次に会うときは正式に婚約解消を告げに来るときだろうか?

 それとも聖女としての自分を必要とした時か。それならば自分は聖女に徹しなければならない。聖女としてユーリシアの隣に立つために。


 次第に遠ざかっていく皇宮を背に、ミルリミナは小さな決意を心に刻んだ。


**


「…よろしかったのですか?ミルリミナ様のお見送りをされなくて」


 遠ざかっていく馬車を窓から見つめながら、ラヴィは静かに問うた。

 問われた本人は執務室で書類と向かい合っている。


「…行ったところで嫌がられるだけだろう。……これ以上、嫌われたくはない」


 できれば見送りはしたかった。したくないはずがない。だがあれ以来、何度部屋に訪問しても顔を見せてはくれなかった。見送りに行ったところで彼女の態度に変わりはないだろう。


 正直傷つけられたのは自分だと思う。笑顔で自分と会話をしながら突然婚約解消を申し出てきたのだ。時折見せる何とも言えない笑顔は心の中で婚約解消を決意していた事に対する罪悪感の表れだろう。


 だがユーリシアは婚約解消を拒否した時のミルリミナの顔が忘れられなかった。

 間違いなくあの瞬間、自分はミルリミナを傷つけたのだ。それは判るのに、何がそれほどミルリミナの心に刺さったのかが判らない。

 何度も謝ろうと部屋を訪れたが何をどう謝ればいいのか見当がつかず困り果てていた。正直面会を拒否してくれた事に少なからずほっとしている自分がいる。


 だが嫌われた事はもう決定的だろう。これ以上不興を買ってさらに嫌われるのはどうしても避けたかった。


「……すまない、少し外の空気を吸ってくる」


 重苦しいため息をついて、ユーリシアは執務室を後にする。ユーリシアを心配してついて行こうとするラヴィをユーリシアは目線で押し留めた。


(…ラヴィに心配をかけている事は判っているが、今は一人でいたい)


 あの日以来、政務に全く身が入っていない。それどころか食事も喉を通らず、夜も眠る事ができなくなった。明らかに憔悴しきって倒れてしまわないか心配するのも当然だろう。


 ユーリシアは執務室を出ると迷う事なくミルリミナが使っていた部屋に向かう。主のいなくなった部屋はもう初夏だというのに肌寒い。

 いつも使っていた椅子に腰かけ、ユーリシアはかつてミルリミナがいたベッドを愛おしそうに撫でた。自分の名前を呼び微笑む少女の姿が脳裏に浮かぶ。


 まるで胸にぽっかりと穴が開いたような気分だ。

 これほどまでに自分の中でミルリミナの存在が大きかった事に今更ながら気づく。それを失った代償はあまりに大きい。


「……まるで恋焦がれているようだな…」


 ひとりごちた後自嘲の笑みをこぼす。


(……!)


 次の瞬間ユーリシアははたと気付いた。


「…………」


 頭の中が真っ白になり、口元を手で押さえる。

 何気なく口にした言葉だったが、妙に胸にすとんと落ちた。

 なぜこれほどまでにミルリミナの事になると感情を抑えられなくなるのか。

 なぜ彼女の事になるとこれほど自分は弱くなるのか。

 なぜ彼女と会えないだけでこれほど胸が締め付けられるのか。


 その答えが、そこにはあった。


「……私は、彼女に恋をしていたのか…」


 ようやく思い至ったその想いに、ユーリシアはたまらず顔を赤らめる。

 これだけ判りやすい兆候がありながら自分で自分の気持ちに気づかないとは。


「……鈍感にもほどがあるだろう…」


 しかも彼女を失った後に気づいてしまった。恋と気付いた瞬間に失恋確定なのだ。

 なんと間抜けな話だろうか。笑い話にもならない。

 あまりに自分が情けなく、いたたまれないほど恥ずかしい。


「……もう手遅れだろうか」


 そうはしたくない。まだ何も伝えていない。いっそ失恋するならきちんと想いを伝えてからがいい。

 恋と気付いてからミルリミナへの恋慕がさらに大きくなっていく。

 笑った顔、悲しい顔、そして泣いた顔…そのすべてがユーリシアには愛しくてたまらなかった。


 だがミルリミナは会ってくれるだろうか?想いを伝えたいが、伝える術がない。


(…会うなら彼女が逃げられない場所がいい)


 幸いと言うべきか、彼女は足が不自由だ。外で車いすから降りている状況であれば逃げられないだろう。

 そんな思索にふけっていると、ふと部屋のドアを叩く音が聞こえた。


(?…誰だ?)


 侍女ならば部屋を叩かず入るだろう。この部屋の主はもういないのだ。

 ユーリシアは怪訝に思いながら扉を開けると、そこには不安そうに立つラヴィの姿があった。


「…はあ、よかった。あまりに遅いのでお倒れになっているのかと心配いたしました」

「…心配性だな。私はこれでも高魔力者だ。それほど弱くはない」


 心底心配してくれていたことが判って、ユーリシアは笑って返事をする。


「それよりもよくここが判ったな?」

「殿下が向かわれる場所など、ここしかないではありませんか」

「…!」


 ユーリシアはこの返答で、ラヴィが自分の想いに気づいている事に気づいてしまった。途端に顔が赤らんでいく。


「……私は、それほど判りやすいだろうか?」

「…!」


 耳まで真っ赤にして、顔を隠すように口元を手で押さえているユーリシアの姿を見て、ラヴィは気付く。


「ようやくご自分のお気持ちにお気付きになったのですか?」


 その問いかけに返答はない。ただ顔を真っ赤にした主の姿がすべてを物語っていた。その姿を見受けてラヴィはやれやれとため息をつく。

 随分と時間がかかったが、自分の中にある想いとの邂逅は無駄ではない。これでようやくユーリシアは一歩を踏み出せるのだ。それをミルリミナがどう捉えるかは判らないが、何かしらの前進はあるだろう。


(…後退かもしれないが)


 それでもいいのだ。お互いが納得できる形を見つけてほしい。その為の手伝いなら自分もティーナも惜しむ事はない。


「…執務室に戻って少し休憩いたしましょうか。…何かお茶請けでもご用意いたしますがどういたしますか?」

「……ああ、頼む」


 何か吹っ切れたようにユーリシアの表情に、ラヴィはほっと胸を撫で下ろす。


 外に出ると初夏の暖かい風が頬を撫でた。もうすぐ暑い夏が来る。その頃には二人の関係はどうなっているだろうか?

 近い将来に思いを馳せながら、二人は執務室へと戻っていった。


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