表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霧深き国の姫  作者: yaasan


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/66

帝都

 (よう)の国。

 その中心地である帝都は、華仙(かせん)が想像していたよりも遥かに大きな都だった。


「姫様、口が開いたままですよ」


 護衛も兼ねて華仙と(げん)に帯同している黄帯(こうたい)から声をかけられて、華仙は慌てて口を閉じた。


 整備された道とその広さ。道の左右に並んでいる様々な店。その店に並ぶ品物の数々。行き交う人々の多さ。人々が身に纏っている衣服……。


 特に波のような人の流れに華仙は驚かされた。


 今日はどこかでお祭りでも始まるのだろうか。

 そう思い、華仙たちを出迎えに来た丁統(ちょうとう)に尋ねようとしたが、何となく訊くことが恥ずかしくなって、華仙はその問いかけを飲み込んだ。


「玄、何か思っていた以上の賑わいなのだけど」


 華仙の言葉に玄も素直に頷いた。そんな華仙たちに、先頭を歩く丁統が振り返って声をかけた。


「陽の国の中心ですからね。多少の賑わいはありますよ。この後、皆様には呂桜将軍に到着の挨拶をしていただきます。その後は明日も含めてゆっくりと休んで頂いて、長旅の疲れを癒して下さい」


 丁統の言葉に華仙は、はあと頷く。

 多少の賑わい……。

 周囲の光景に圧倒されて、丁統の言うことが上手く頭に入ってこない。


「医者は明後日に、滞在いただくお屋敷に来る段取りとなっています」


 お屋敷。来る段取り。

 華仙は心の中で繰り返した。至れり尽くせりとは、こういうことを言うのではないだろうか。


「ご厚意、痛み入ります」


 玄が頭を下げたので、それに合わせて華仙も慌てて頭を下げる。


「いやいや、謝辞は呂桜(りょおう)将軍にお願いします。将軍から直々のご指示ですので」


 将軍から直々のご指示。

 心の中でその言葉を繰り返して、華仙は再び、はあと頷く。


「しかし、ここまでされてしまいますと、そのご厚意も過ぎるのではないかとさえ思えますが」


 玄の控え目な言葉に丁統は首を左右に振った。


「いえいえ、玄殿は先の撤退戦における一番の功労者ですよ。これぐらいは当然です」


 これぐらいは当然。

 心の中で丁統の言葉を繰り返して華仙は、はあと頷く。


「姫様、今度は、はあとしか言っていないですぞ」


 黄帯の苦笑を帯びた言葉に華仙は、はあと返すのだった。





 「この度は帝都にお呼びいただきまして、ありがとうございます。また、優秀な医者の方を紹介いただけるとのこと。数々のお心添え、感謝に絶えません」


 片膝を床につけて玄は呂桜に謝辞を述べた。華仙と黄帯も玄の背後で床に膝をつけて、同じく頭を下げる。


「頭を上げてくれ。堅苦しい礼などは必要ない。あの時の撤退戦。その功に報いるにはどうしたらいいのか。夏徳に訊いた答えがこれだったということだ」


 華仙が頭を上げて呂桜の顔を見ると、呂桜は微笑を浮かべていた。続いて呂桜の隣に立つ夏徳(かとく)が口を開いた。


「長い道程で疲れただろうな。治療もそうであろうが、少しゆっくりと休むといい。不都合があれば、先の丁統に遠慮なく言ってくれ」


「はい、ありがとうございます」


 玄が再び謝辞を述べると、呂桜が苦笑を浮かべて口を開いた。


「そこの臍曲がりな軍師殿が、玄殿を気に入っておってな。何かと気にかけたいらしい」


 その言葉に今度は夏徳が苦笑を浮かべる。これらの言葉を聞いている限りでは、どうやら呂桜も夏徳にしても玄には好意的であるようだった。


 病気の治療といった明確な理由があったとはいえ、急に帝都に呼びつけられたのだ。華仙の中で若干の不安があったのも事実だった。だが、今の会話でその不安も払拭されるのかもしれない。


「それは嬉しいお言葉です。私も夏徳殿とは一度、ゆっくりとお話したいと思っておりました」


 玄の返答に夏徳も心得たとばかりに頷いていた。そのような夏徳を横目で見て、呂桜は少しだけ微笑を浮かべているようだった。


「長旅で疲れたであろう。今日のところはこれまでとして、丁統に屋敷まで案内させよう」


 呂桜がそう言って、帝都初日の挨拶は終わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ